従業員の家族がインフルエンザにかかったとき、出勤停止とするべきか
従業員の家族がインフルエンザにかかっていても、従業員自身の体調に問題はなく、働けると主張することがあります。症状がなくても感染している可能性はあり、出社すれば他の従業員にうつしてしまうかもしれないため、企業としては休ませるべきかどうか判断に迷うこともあるでしょう。
従業員の家族がインフルエンザにかかった場合、企業として従業員に出勤停止を命じることはできるのでしょうか。出勤停止する際の対応や賃金の取り扱い、休ませる際の注意点について解説します。
休ませるかどうかは、企業の判断に委ねられる
従業員がインフルエンザにかかり、発熱などの症状があるため自主的に休みを取る場合や、医師に高熱で働けないと診断されて休む場合は、通常の病欠と同様に取り扱えばよく、問題は発生しません。従業員が申請すれば、年次有給休暇を取得することもできます。
一方、従業員の家族がインフルエンザにかかっても、従業員自身がかかっていなければ勤務は可能です。この場合、休ませるかどうかは、企業の判断に委ねられます。他の従業員に感染を広げる恐れもあるため、出勤停止の措置も考えられます。
企業が感染防止対策で休業を命じる場合は休業手当の支払いが必要
従業員本人の感染が確認できていないが体調に問題がない状況で、企業が出勤停止を判断した場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、労働基準法上の休業手当を支払うのが一般的です。
労働安全衛生法68条では、従業員が伝染性の疾病など厚生労働省令で定める疾病にかかった場合、従業員の就業を禁止することが定められています。
ただし、従業員の家族が伝染性の疾病にかかっても、従業員本人がかかっていなければ、労働安全衛生法68条は適用されません。そのため、企業が念のため従業員を休ませるのであれば、休業手当の支払いが必要になります。
従業員本人が感染性の疾病にかかった場合
新型インフルエンザの場合、医師の指導により従業員本人が休業するのであれば、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられています。
しかし、季節性のインフルエンザは感染症法では5類の扱いであり、労働安全衛生法など法令上で明確に就業を禁止する規定がありません。感染症法や労働安全衛生法では、従業員に就業禁止を命じることはできないとされています。そのため、当該従業員を休業させるかどうかの判断は、企業の判断に委ねられます。
休ませる場合の注意点
会社の命令で休ませる場合は、先に述べたように、原則として休業手当の支払いが必要です。出勤停止の期間中の対応としては、休業手当、年次有給休暇や子の看護休暇、欠勤扱いの三つの方法が考えられます。
出勤停止の期間中の三つの対応
先述のとおり、他の従業員に感染しないように企業の自主的な判断で従業員を休業させる場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たり、休業手当の支払いが必要です。
年次有給休暇は事前申請が原則ですが、急に家族が発熱した場合、事前申請をするのは困難です。家族がインフルエンザにかかって病院に連れていく場合、事後に年次有給休暇の申請を認めることもあるでしょう。
「年次有給休暇の残日数がない」「年次有給休暇を残しておきたい」という場合は、他に使える休暇制度がなければ、欠勤扱いになります。従業員の子どもがインフルエンザにかかった場合、子の看護休暇の取得をすすめることもあります。
いずれにしても、企業が出勤を停止して休業手当を支払う場合以外は、従業員の希望に基づき取り扱います。休業手当を支払う場合、休業により労働の義務を免除するため、本来年次有給休暇を取得させる必要はありません。しかし、休業手当は平均賃金の60%であり、年次有給休暇よりも賃金が低くなってしまいます。企業が休業を命じる必要があると判断したとしても、賃金が低くなることを避けたい従業員には年次有給休暇、年次有給休暇を残しておきたい従業員には子の看護休暇など、よく話し合って、従業員自身に利用可能なものの中から決めてもらうとよいでしょう。
就業規則の定め方や出勤停止の期間の長さの判断基準
労働者は労働契約上の労務提供定業義務を負っており、心身ともに健康な状態でなければ、労務の提供に瑕疵(かし)があることになります。労働契約はノーワークノーペイが原則であり、労働者の事情によって働くことができない場合は、無給とすることも可能です。そのため、労働安全衛生法規則第61条(病者の就業禁止)で、新型インフルエンザなど一定の疾病に罹患した場合、就業規則に就業禁止の規定を設け、就業停止期間中は無給とする例が多くあります。
就業規則の定め方によっては、「新型インフルエンザ、新型肺炎およびその疑いを含む」などと規定し、無給とすることも可能です。また、病気の疑いがある場合は病院で受診するように命じ、診断書を提出させる規定を設けることもできます。
疑いだけで無給とすることは、後日季節性のインフルエンザであったことが判明した場合、トラブルになる恐れがあるため、おすすめできません。季節性のインフルエンザは感染症法では5類の扱いとなることを考えると、家族が罹患した場合、企業側から休業を指示するのであれば休業手当を支払うことを説明し、従業員の希望に沿って年次有給休暇とするかを選んでもらうという対応が現実的です。
何日休ませるかも企業の判断に委ねられますが、感染した家族が子どもであれば、学校保健安全法に定められた出勤停止期間を参考に決めるとよいでしょう。学童生徒は「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで(幼児の場合は3日経過するまで)」と学校保健安全法施行規則にあります。回復が長引くようであれば、学校保健安全法にかかわらず、学校が指示した期間や、通院時に医師が指示した期間まで休ませるといった対応をするのもよいでしょう。
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