試用期間中・満了後に従業員を解雇することができるか
正社員を雇用する際、多くの企業では、入社してから一定の期間を「試用期間」として定めます。試用期間中に新入社員の能力や人物を見て、本採用とするかどうかを判断したいと考えるからです。採用面接では問題がないように見えても、実際に働いてみないことには、その社員が自社にふさわしいかはわかりません。だからといって、一度採用した社員を試用期間中や試用期間満了後に解雇することはできるのでしょうか。
試用期間中や試用期間満了後の解雇と、通常の解雇とでは違いはあるのか、また、解雇が認められるケースにはどのようなものがあるかなどについて解説します。
1. 試用期間中・満了後の解雇・本採用拒否は、通常の解雇と比べて容易か
解雇の定義
労働基準法20条では、労働者を解雇する場合、使用者は少なくとも30日前までに予告しなければならないと定めています。また予告なしに即時解雇をする場合は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとも定めています。試用期間であっても、14日を超えて使用されている従業員を解雇する場合は、労働基準法20条の解雇予告の規定が適用されます。しかし、14日を超えていない場合は同条の適用はありません。
労働基準法の規定だけを見ると、解雇予告をすれば従業員を解雇できると思うかもしれませんが、労働基準法の規定は、あくまで従業員を解雇する際の手続きを定めたものです。解雇の予告をすれば解雇が認められるということではありません。
試用期間とは
試用期間は、正社員として従業員を雇用する際に、入社してから一定の期間、その従業員の働きぶりを見て、人物・能力を見極めてから正式に採用するかどうかを判断するための制度です。
正社員を採用する際は書類審査や面接を行うのが一般的です。しかし、実際に働いてみないことには、その従業員の人物や能力はわかりません。採用時に面接や試験を行ったとしても、短期間で自社にふさわしい社員かどうかを見極めることは非常に困難です。そのため、多くの企業が、社員としての適性を判断するために試用期間を設けています。
試用期間は、1ヵ月から6ヵ月の間で定められるのが一般的です。法令で期間に上限が設けられているわけではありませんが、試用期間が長いと労働者の地位が不安定な期間も長くなります。あまりに長い試用期間は、必要性・合理性がなく、公序良俗に反するものとして無効になる可能性があるため、多くの企業では試用期間を3ヵ月前後で定めています。
試用期間は長期雇用を前提とした制度であることから、正社員以外の従業員に試用期間を設けることは少ないでしょう。労働契約法17条では、「期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と規定しています。期間の定めのある労働契約に試用期間を定めたとしても、期間の途中で従業員を解雇するには「やむを得ない事由」が必要です。期間の定めがある労働契約の途中で契約を解除するのはハードルが高く、試用期間を設けるメリットは少なくなります。
また、パートやアルバイトの労働契約においても、パートタイム・有期雇用労働法8条の「同一労働同一賃金」の趣旨を考えると、長期雇用を前提とする正社員と他の非正規の社員とでは、待遇の差を明確にした方がよいと考えられます。このような事情もあり、多くの企業では非正規の従業員に試用期間を設けていません。
試用期間中・満了後の解雇・本採用拒否と、通常の解雇で、認められやすさは変わるか
試用期間は就業規則や労働契約書などで、「試用期間中または試用期間終了後に会社が社員として適正がないと判断したときは解雇できる」「勤務状態、出勤状態、健康状態、成績等を総合的に勘案して本採用の諾否を決定する」などと規定を設けることが多くあります。試用期間を設ける際は、通常の解雇とは別に、試用期間における本採用拒否として、特別な解雇権や解雇基準を就業規則などに設けるのが一般的です(※1)。一方、通常の解雇は、労働契約法16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されているように、解雇権濫用の法理で縛られることになります。
試用期間中の労使の契約関係については、さまざまな法的議論があります。有名な判例に三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)がありますが、この裁判では、試用期間付の労働契約を「解約権留保付労働契約」、つまり、解雇や本採用拒否などによる解約権が留保(※2)されている労働契約としています。「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である」と判示しながらも、試用期間満了後の解雇・本採用拒否は、通常の解雇よりも会社の裁量を広く認めています。したがって、試用期間満了後の解雇・本採用拒否は、通常の解雇よりも比較的認められやすいといえるでしょう。
しかし、同判例では「採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合」と理由を限定しており、試用期間満了後に解雇や本採用拒否をするためには、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的合理的な理由や社会通念上の相当性がなければ許されないと述べています。つまり、試用期間満了後の解雇・本採用拒否であっても、労働契約法16条の解雇の規定が排除されるわけではなく、試用期間なら試用期間のレベルで客観的合理性や社会通念上の相当性が必要なのです。
試用期間は従業員の適性を判断するために期間を設けていることから、従業員の能力、性格、資質を十分に把握した上で、解雇・本採用拒否の是非を判断しなければなりません。そのため、試用期間の途中で解雇することは、試用期間満了後の解雇や本採用拒否よりもハードルが高く、高度な合理性・相当性が必要です。
※1:本採用拒否は企業側からの一方的な労働契約の解除となるため、実質的には解雇と変わりありません
※2:「留保」:一時差し控える
2. 試用期間中・試用期間満了後の解雇・本採用拒否が認められるケースにはどのようなものが考えられるか
試用期間中に企業が従業員を解雇するためには、前提条件として、就業規則に「試用期間満了時または試用期間中に、会社が社員として適正がないと判断したときは解雇できる」などといった内容の規定を定めておく必要があります。ここでは、試用期間中の解雇が認められるケースを取り上げて解説します。
2-1 勤務態度が悪い、能力が低いときに解雇できるか
「勤務態度が悪い」「能力が低い」といったことは、試用期間中に解雇する理由となり得るでしょう。しかし、会社によって求められる業務レベルは異なります。新卒採用か中途採用かによっても、求められる能力は異なるでしょう。そのため、どの程度であれば解雇が認められるのかを線引きすることはできません。「勤務態度が悪い」からといって、注意や指導もせずにいきなり試用期間中に解雇すれば、不当解雇を主張され、訴訟リスクが高くなります。「能力が低い」といっても、社会人になったばかりの新卒社員に高いレベルの能力を求めることは難しく、「教えてもらっていない」などと指導不足を主張されるかもしれません。
幹部社員や専門業務、即戦力の社員を企業が募集して中途採用する場合、求めるスキルを明確に示し、成果を出すことを前提に採用することが多いでしょう。このようなケースでは、企業の採用の本旨が達せられなかった場合、解雇が認められやすいといえます。しかし、能力が足りないとしても、解雇することは簡単ではありません。どのような業務でどんな成果を期待しているのかを事前に説明し、労働契約書や誓約書などにあらかじめ求める業務レベルや成果を詳細に記載しておくとよいでしょう。
試用期間中の解雇が認められるには、勤務態度や能力に問題があればきちんと注意や指導を行い、日頃から労務管理や従業員教育を適切に行っていることが必要です。「企業としてやるべきことをやって最善を尽くしたが、改善されない」という状態でなければ、訴訟リスクが高くなります。解雇が有効となるのは、何度も指導し、それでも改善が見込まれないと判断された場合ですが、その基準が司法の判断に委ねられることを考えると、慎重な判断が必要です。
2-2 健康状態が良くないときに解雇できるか
風邪などのように短期間で治る病気は別ですが、健康状態が悪く労働契約の履行が困難なほどであれば、解雇・本採用拒否が可能です。正常な労務が提供されなければ、企業は従業員を雇う意味がありません。労働契約も契約であり、民法上の債務の本旨に従った弁済、つまり、正常な労務が提供できなければ、債務不履行の問題になります。
入社してから病気になった場合は、休職を命じることも検討する必要があります。また、回復して就労の目途が立っているのであれば、試用期間を延長する方法もあります。従業員が面接時には健康状態を偽っていて、試用期間中に労務提供が困難であるほどの健康状態であったことが判明した場合は、「試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合」といえるでしょう。健康状態が良くないことを最初から知っていたら採用しなかったといえるほど悪い状態であり、健康回復に長期間を要するために労務提供に懸念があるようなケースでは、解雇・本採用拒否は可能と考えられます。
2-3 経歴詐称が明らかになったときに解雇できるか
入社希望者が採用されたいがために学歴や経歴を詐称していたといったケースでは、試用期間中でも解雇・本採用拒否が認められるでしょう。
試用期間の趣旨や目的から考えると、経歴詐称で解雇や本採用拒否ができるのは、「当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合」に限られます。採用時には業務に必要な資格や免許を取得していると偽り、試用期間中に取得していなかったことが判明したケースは、この典型例といえます。また、職務経験がある、即戦力として業務に精通しているなどと装っていたケースも、試用期間中に事実と異なると判明すれば、解雇・本採用拒否が認められると考えられます。
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