休職した従業員への賞与(ボーナス)支給をどうするか
私傷病を理由に長期間休職している従業員がいるとき、従業員に賞与を支払うべきか、支払う場合の査定をどうすべきかは、重要な検討事項です。従業員の休職期間と社内の就業規則に従って、適切に判断しなければなりません。
休職した従業員の賞与の取扱いは企業ごとの判断
賞与の支給日に休職している場合、賞与を支給する必要があるのでしょうか。労働基準法などの法令には定めがありません。
賞与を支払う場合は就業規則にルールが必要
そもそも賞与を支給するかどうかは企業ごとの判断になるため、賞与を支給する企業は、就業規則に賞与に関する規定を定めなければなりません。
臨時の賃金は、必ず記載しなければならない「相対的必要記載事項」の一つです。したがって、賞与を支給する企業は、賞与の支給対象時期、算定基準、査定期間、支払方法などを、就業規則に明確に定めておかなければなりません。
厚生労働省のモデル就業規則では、以下のような賞与の規定が掲載されています。
第1条 賞与は、原則として、下記の算定対象期間に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して下記の支給日に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。
算定対象期間 | 支給日 |
__月__日から__月__日まで | __月__日 |
__月__日から__月__日まで | __月__日 |
モデル就業規則に「賞与の額は、会社の業績及び労働者の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する」とあるように、本人の勤務成績、つまり従業員それぞれの査定や評価によって、賞与の金額を増加させることも減少させることも可能です。また、支給対象期間や支給対象者も限定できます。モデル就業規則では、在籍要件を「算定対象期間に在籍した労働者」に限定しています。
賞与の算定対象期間のすべてが休職期間であった場合
休まずに勤務している従業員との公平性を保つため、ノーワーク・ノーペイの原則により、休職期間中は無給とするのが一般的です(※)。そもそも休職とは、労働契約は維持したまま、就労の義務を免除または就労を禁止する制度です。就業していないことで、賞与を支給しないのは合理的といえるでしょう。
休職の規定に「休職期間は賞与の算定対象期間に含めない」と明記し、賃金規程に「算定対象期間に出勤実績がない従業員には賞与を支給しない」と規定すれば、休職期間中の従業員に賞与を支払わないことは可能です。
※労務行政研究所が2017年5月から7月にかけて調査した「私傷病欠勤・休職制度に関する実態調査」では、休職して「全休の場合は賞与をまったく支給しない」という企業は69.8%にのぼります。
賞与の算定対象期間に一部休職期間がある場合
長期間休職している従業員が、賞与の算定対象期間のすべてではなく、一部のみ休職しているケースもあります。この場合は、就業規則の賞与の規定にもよりますが、出勤実績に応じて賞与を減額して支払うとよいでしょう。
厚生労働省の育児・介護休業等に関する規則の規定例では、「賞与については、その算定対象期間に育児・介護休業をした期間が含まれる場合には、出勤日数により日割りで計算した額を支給する」としています。休職と育児・介護休業とでは目的が異なりますが、ノーワーク・ノーペイの原則により無給とする企業が多いのは同じです。休職制度でも、出勤日数に応じて日割り計算をするという賞与の支給方法も可能といえます。
休職制度はある程度企業の裁量が認められるとはいえ、「算定対象期間の50%以上出勤していなければ支給しない」「賞与支給日に復職していない者には支給しない」など、あまりに極端な取扱いはトラブルの原因になるため、推奨できません。賞与の算定対象期間に出勤実績があれば、その後休職しても、企業にある程度は貢献しているとみなせるためです。
賞与を支給した場合、傷病手当金はどうなるか
私傷病により従業員が休職する場合は、健康保険の制度で傷病手当金が受給できます。傷病手当金は原則として給与が支払われた際は受給できませんが、休職している従業員に賞与を支給したとしても、原則として傷病手当金に影響はありません。
傷病手当金の支給要件は、以下の4点です。
- 病気や怪我で療養が必要なために休業していること
- 労務不能であること
- 療養のため3日間連続で休み、さらに4日目以降も労務不能で休業していること
- 報酬が支給されていないこと
健康保険法第108条に傷病手当金又は出産手当金と報酬などとどのように調整するのか定められていますが、賞与は「3月を超える期間ごとに受けるもの」となっており、報酬からは除外されています。
ただし、年4回以上支給される賞与の場合は、報酬に該当します。傷病手当金と調整されることになるため、注意しなければなりません。
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