転職支援企業がなぜ「転職は慎重に。」と訴えるのか
人材ビジネスのあるべき姿を体現する
若きトップの信念とは
エン・ジャパン株式会社
鈴木孝二さん
「人間成長の実現」を目指して――社会正義性と独自性が存在価値
さて、冒頭にもありましたが、エン・ジャパンでは「『人間成長®』の実現」を企業の基本理念に据えています。「人間成長」とは何か、鈴木社長から改めてご説明いただけますか。
「働くことを自らの成長ステージと捉え、心技一体のプロとして心物両面で豊かになる」――これが、われわれが考える「人間成長」の定義です。日々の仕事には当然、やりがいもあれば困難もあり、怒りや悔しさがあれば喜びや充実もある。成果を求められながら、そうした場で働くこと以上に、人を成長させてくれる機会はほかにありません。仕事の能力を高めることでプロとして自信が身につき、心が豊かになる、結果的に物質面・収入面でも豊かになれる。「『人間成長®』の実現」とは、一人でも多くの人が心物両面で豊かになる社会を実現するということ、これがわれわれの基盤となる考え方です。これまでの自分自身を振り返っても、やはりそうでした。仕事を通じて、苦しい思いをしながらもつかんだ成功体験や自信が自分を支えてくれましたし、きっとこれから先もそうでしょう。
だから、もし現在のポジションがなくなっても、私は何も怖くありません。冒頭で私の父が昔、造船業に携わっていて、リストラに遭ったという話をしました。その後、父は島にしがみつくことなく、単身大阪で新しい仕事を見つけて、家族をちゃんと養ってくれました。私の仕事に対する価値観の核に、その父の姿があるのは間違いありません。大人が自分の仕事に自信や誇りを見出せないと、次代を担う若年層や子供は、働くということをますます軽んじるようになってしまうでしょう。ニートやフリーターの増加、早期離職の拡大にもつながっている問題です。大切なのは、仕事のとらえ方。仕事は厳しいけれど、だから素晴らしいものなんだと、胸を張って伝えられる人材や企業を増やしたい。私はそのことに、大きな社会的意義を感じています。
「転職は慎重に。」というコピーも大きな反響を呼びました。転職サイト運営会社でありながら、こうしたメッセージで安易な転職に警鐘を鳴らすことにも、大きな社会的意義がありますね。
当社は事業理念として、「『人』、そして『企業』の縁を考える」を掲げています。利益だけを追求する企業なら「縁を“結ぶ”」とするのでしょうが、われわれのコンセプトは、何でもかんでも縁を“結ぶ”ことではなく、人と企業の縁をよく“考える”こと。よく考えれば当然、「転職は慎重に。」ならざるをえないでしょう。ちょっとつらいことがあっただけですぐに辞めて、転職を繰り返す人が増えることは、本人はもちろん、企業にとっても損失でしかありません。われわれは、入社がゴールだとは思っていません。入社した方がその会社で活躍し定着することを支援していくことが重要だととらえています。そして、入社した方の活躍により企業が成長し、新たな採用ニーズにつながっていく。これが、人材ビジネスのあるべき姿だと思います。
転職を無責任に煽るのではなく、むしろ慎重な転職を促して、あるべき姿を貫いたからこそ、貴社の現在の評価に結びついたわけですね。
創業者から社長を引き継ぐときに「とにかく何をやってもいいけれど、われわれがやる以上は、そこに社会正義と独自性がなければならない」と言われました。社会正義性と独自性――これこそが当社のビジネスのあるべき姿なんです。収益性は、あってあたりまえ。それを忘れては、ビジネスは成立しません。収益性を担保した上で、当社の存在価値である社会正義性と独自性を追求し、いかに新しい商品やサービスを開発し続けていくか。非常に難しいミッションですが、後を継いだものの使命として、ここはブレずにやっていくつもりです。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。