部署や年齢、性別も超えて役員をロールモデルに――
あいおいニッセイ同和損保に学ぶ
「女性管理職の育成」とは
人事部 ダイバーシティ推進室長
福岡 藤乃さん
世界経済フォーラム(WEF)が発表した「男女格差報告2012年版」によると、日本の男女平等ランキングは前年より順位を三つ落として、対象国135ヵ国中の101位。先進国では最低水準です。大きな要因は経済分野における女性の活躍度の低さで、企業の役員に占める女性の割合はわずか1%、管理職でも10%強にすぎません。多くの企業が持続的成長を実現する経営戦略として、女性活躍やダイバーシティの推進に力を入れてはいますが、女性を積極的に登用しても、実際には「職場の風土醸成が進まない」「ロールモデルが見当たらない」などの理由で行き詰まりやすいのが現状です。周囲に女性の活躍モデルがないのなら、経験ある男性に学べばいい――あいおいニッセイ同和損保は、女性の管理職や経営幹部の輩出に向けて、男性役員と女性管理職がペアを組むユニークなメンター制度を導入するなど、先進的な取り組みを行っています。同社人事部ダイバーシティ推進室の福岡藤乃室長に、実効性のある女性活躍推進の進め方についてうかがいました。
- 福岡 藤乃さん
- あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 人事部 ダイバーシティ推進室長
(ふくおか・ふじの)●1993年千代田火災海上保険株式会社(現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)入社。保険金支払部門、MS&AD基礎研究所出向を経て2011年4月より現職。2001年、2010年と二度の合併を経験。
女性管理職は6年で約6倍に、役員誕生がこれからの課題
御社は損害保険業界でいち早くダイバーシティ推進に取り組まれ、実際、ここ数年で女性管理職が順調に増加するなど目覚ましい成果を上げています。まず、その具体的なデータからうかがえますか。
2013年現在、弊社に課長以上の女性管理職は141名います。比率としては管理職全体の4%。残り96%が男性ですから、まだまだ道半ばです。それでも07年の24名(0.7%)から比べると約6倍で、右のグラフが示すとおり、着実に増えてきていると思います。また、そのうち39名が決裁の権限を持つライン長として活躍しており、従来は女性が進出しにくかった現場のライン長職にも、保険金を支払うサービスセンター所長として6名、営業課支社長として2名が就いています。さらに管理職候補層にあたる主任から課長補佐の女性比率も年々高まり、13年4月には45%を達成。正社員全体における女性比率の48%にほぼ追い付きました。
ただし、部長、役員といったシニアマネジメント層をこれから増やしていかなければなりません。現在、女性役員はゼロなんです。そのクラスの女性社員のロールモデルが出れば、組織全体としても一つの大きな壁を打ち破ることになると考えています。
女性役員の誕生がこれからの課題というわけですね。そもそも御社がダイバーシティ推進に取り組まれた背景には、どのようなきっかけや経緯があったのでしょうか。
背景は大きく三つあります。第一に、弊社は複数の企業が合併・再編を経て誕生したという経緯があり、社員の出身会社が多様であるということ。そうしたバックグラウンドにとらわれることなく、むしろそれぞれの差異を活かし合うことで組織の柔軟性を強化し、変化に強い企業を目指すのが、ダイバーシティ推進の大きなねらいです。第二の要因は、05年に起きた、いわゆる「保険金不払い問題」です。保険金の支払い漏れ、保険料の取り過ぎといった不祥事が業界全体で次々と発覚しました。
当時、かなり大きな社会問題に発展しました。
不祥事について検証する中で、弊社を含め私たちの業界は、根本的にお客様視点が欠けていたという反省が出てきたんです。例えば、私たちはパンフレットなどでご説明する際、当たり前のように保険の専門用語を使っていましたが、かならずしもお客様にとって分かりやすいものではありませんでした。保険金と保険料という言い方ひとつとっても、お客様からすれば、受け取るほうなのか支払うほうなのか、分かりにくい。そもそもパンフレットの文字やデザインそのものが見にくかったり、種類がたくさんあり過ぎて混乱したり――。「お客様の側に立たず、売る側の視点だけで商品をつくり販売していたのではないか。変わらなければならない」と痛感したところから、多様な視点をもつためのダイバーシティ推進が始まりました。そして当然のことながら、社員の半分は女性ですから、これらの人材が活躍できる組織にならなければ、変わることなどできません。これがダイバーシティ推進に取り組む三つ目の要因です。
弊社は中期経営計画において「持続的な成長が可能な会社」を目標に掲げ、その目標を実現するために、女性活躍やダイバーシティを推進すると表明しました。年齢、性別、出身会社などに関係なく、一人ひとりが持てる能力を存分に発揮する――ダイバーシティ推進は弊社にとって、厳しい競争を勝ち抜くための重要な経営戦略なのです。