参加すると「面白く働きたくなる」オンラインインターンシップを開催
「面白法人カヤック」らしさが伝わるコンテンツをいかに作り上げたのか
面白法人カヤック 人事部
みよしこういちさん
エゴサーチ採用、いちゲー採用、エイプリル採用など、そのユニークな採用手法で注目を集めてきた、面白法人カヤック。2020年は多くの企業が採用活動で変化を余儀なくされましたが、同社も新たな取り組みに挑んだ年でもありました。それは、オンラインでのインターンシップ。初めての開催にもかかわらず、2回開催したインターンシップには約700人の学生が参加しました。オンラインでのインターンシップは、対面に比べるとできることが限られ、他社との差別化も難しいのではないかと考えてしまいがちですが、同社はどのようにプログラムを企画し、運営していたのでしょうか。人事部のみよしこういちさんに、カヤックらしさが伝わるインターンシップの極意についてうかがいました。
- みよしこういちさん
- 面白法人カヤック 人事部
筑波大学大学院・数学専攻を修了後、就職せずボードゲームを作って生計を立てる。シナリオライターの学校やよしもとの学校の卒業を経て、現在。新卒採用戦略とSNSで話題にする採用キャンペーンなどを担当。検索ワードだけで応募できる「エゴサーチ採用」で、ヤフークリエイティブアワード2015シルバー、コードアワード2016 グッド・ユース・オブ・データを受賞。
一緒に働きたいのは「乗っかる」ことができる人
カヤックの採用サイトには「カヤックの就活はルールなし。」とありますが、まずは新卒採用の概要からお聞かせください。
新卒採用では、企画、デザイナー、エンジニアという三つの職種を募集しています。特に期間は限定せず、通年で実施しています。採用広報では尖ったことをしていますが、選考フローは至って普通で、書類選考、人事面接、リーダー面接、役員面接という流れです。ときどき最終的な判断をする前に、数日間一緒に働いてもらうことはあります。長い人で5日間くらいです。
採用サイトの社員インタビューを見るとユニークな方が多い印象ですが、内定・入社される方に共通点はありますか。
新卒採用でも、デザイナーとエンジニアに関してはスキルを重視しています。エンジニアが入社後に他の言語を学ぶことはありますが、基本的には「すでにやっている」という人を採用しています。一方、ディレクターは大学で学ぶようなスキルではないので、経験やスキルは不問です。
マインドセットはいかがでしょうか。選考を通過する方に共通点はありますか。
カヤックは「面白法人」と名乗っていることもあり、社員が面白がって働くことを大切にしています。どんなことでも自分なりの視点で面白さを見つけて、面白がれること。それから、「つくることが好き」というのも大切な要素です。
カヤックの社員はよく「素直」だと言われますが、素直というのは、人の言葉を一度受け止めることなのかなと思います。ユーモアに必要なのは、一度「乗っかる」という態度なんです。社内のブレストでも、「他人のアイデアに乗っかる」「とにかくたくさんのアイデアを出す」ことをルールとしています。誰かのアイデアに一度乗っかり、そこから得たインスピレーションを重ねていくことで、新しいものが生まれます。そういうコミュニケーションができる人は、カヤックに向いていると思いますね。
ただし、上の人から言われたことが違うと思ったら、口では「なるほど」と言いながら、受け流すスキルも必要だと思うんです。そのため、受け入れるものと受け流すものを柔軟に決められるバランス感覚は、選考の際に見ているポイントの一つです。
2020年は新型コロナウイルスの影響により、世の中が一変しました。採用活動に影響はありましたか。
期待はずれな答えかもしれませんが、採用にはあまり影響がありませんでした。2018年頃から、徐々にオンライン面接を導入していたことが大きかったと思います。カヤックは本社が鎌倉にあるので、都心から来るとなると1時間半くらいかかります。往復だと3時間になり、わざわざ来ていただくのも大変なので、以前から平日夜や休日はオンラインで面接をするようになっていました。
コロナ禍でリモートワークになり、僕も今は週に一度出社する程度ですが、学生はZoomを使いこなしているので、オンラインでの採用をやりにくいと感じたことはありません。社員を巻き込むことが容易になったので、むしろ良い影響のほうが多いといえます。
大変だったことを挙げるとすれば、学生や他社がどういうふうに動くのかが予測がしづらかったこと。また、最終面接は必ず対面で行っているので、その調整は例年よりも大変でした。
最終面接を対面にしているのには理由があるのですか。
オンラインでのキャラクターと、リアルでのその人らしさには、少しずれがあると考えているからです。オンラインだけで働くのであれば、選考はすべてオンラインで行えばいいと思います。しかし、カヤックはリアルも重視しているので、一度は会おうという方針なんです。緊急事態宣言が出て、来社時期を後ろ倒ししたり内定者の承諾待ちをしたりしたので、例年より選考が長引いた感覚はありますね。
「面白く働く」「つくる楽しさ」を伝えるためインターンシップを開催
昨年からインターンシップをオンラインで開催されていますが、どのような経緯があったのでしょうか。
昨年夏、カヤックの採用活動をきちんと言語化しようと方針をつくりました。採用チームのメンバーも増えてきたので、個人がそれぞれの価値観で動くのではなく、カヤックの面白法人らしさをチームとして伝える言葉を持つ必要があったんです。それで「カヤックの採用に参加すると面白く働きたくなる、つくることが楽しくなる」というテーマを設定しました。
その上で現状を整理してみると、学生はカヤックを知ったあとすぐに応募していることがほとんどで、カヤックについて理解を深める機会がない、という課題が浮かび上がってきました。新卒採用には毎年1,000人くらいの学生から応募があるのですが、採用するのは数名か多くても10名くらい。ほとんどの人とは一緒に働かないまま終わってしまいます。それならせめて「面白く働きたくなる、つくることが楽しくなる」ことを伝えたい。そのためのコミュニケーションの場として、インターンシップを開催することにしました。会社説明会でもよかったのですが、それでは「面白く働きたくなる、つくることが楽しくなる」のエッセンスは伝えきれないと考えたんです。
実際に実施したプログラムの内容をお聞かせください。
企画部向けのインターンシップなのですが、ある商品の広告・プロモーションをお題として、参加者それぞれに企画書をつくってもらうというものです。期間は2週間。前半の1週間でレクチャーを受け、後半の1週間で企画書に落とし込んでいきます。昨年は計700人が参加してくれたのですが、提出された全ての企画書にフィードバックを行うのはかなり大変でした(笑)。
プログラムは、どのように企画されたのですか。
実は、カヤックの過去のインターンシップは実務が中心で、プログラムを組んで参加してもらうタイプのものは初めてだったんです。対面だと、インターンシップを通して友達ができるとか、ブレストがはかどっていないグループを見つけたときにアドバイスしやすいというメリットがありますが、オンラインでは代替不可能なのではという懸念がありました。そこで、インターンシップをオンラインで開催することのメリットから考えていくことにしました。
オンラインのメリットは、何より「参加しやすい」ことです。鎌倉まで足を運ぶ必要がないので、全国どこからでも、前後に予定があっても、参加しやすいというメリットがあります。ただ、それだけでは不十分だと考えました。テレビにはなくYouTubeやNetflixにある良さは、好きなときに好きなコンテンツを見られること。また、速度を早めて見られること、わからないところがあったら巻き戻して見返せることなどもメリットですよね。そういった特長を取り入れようと考え、前半のレクチャーは生配信ではなく、動画で用意することにしました。
生配信と動画はどのように使い分けたのでしょうか。
生配信の良さは質疑応答ができることで、動画の良さは自分のペースで学べることです。「リアルタイムとオフライン」を織り交ぜることで、事前に見てきたレクチャーの内容をもとに、生配信中にすぐ実践して疑問を解消するという方法をとっていました。また、数百人の参加者全員にできるだけ多くの機会をつくるため、個人ワークだけでなく、グループでのブレストやフィードバックの機会も設けるようにしました。
準備段階で苦労したことはありますか。
インターンシップを企画する少し前に、業務外でオンラインイベントをいくつか運営したんです。そのとき、動画配信ツールやビデオチャットツールをかなり調べて、それぞれの良さを比較しました。そこでわかったのは、「オンラインイベントは、映像以上に音が重要」だということ。音が割れていたり、途切れたり、異音が入る状況が続くと、見る気がなくなってしまうからです。映像は多少乱れても平気ですが、音が聞こえないと一気に理解ができなくなるので、離脱しやすくなってしまいます。
そこで、まずはマイクの性能を上げることにしました。ただし、それで終わりではありません。パソコンを2台用意して、片方は配信用、もう片方は配信された音声を確認する用として使っていたのですが、気づいたのは、高品質な音を用意しても、ツールの回線に乗って配信されるタイミングで圧縮されて音質が落ちる、ということ。細かな設定を行っては何度も検証し、ベストな状態をつくるようにしていました。
生配信は、音質が一番良かったZoomウェビナーにしました。学生が使い慣れており、運用しやすいこともあり選びました。レクチャーに使用した録画の動画は、YouTubeで流しました。こちらも学生が使い慣れていることと、Googleサイトに埋め込んで、直接動画を閲覧できるというのも大きかったですね。
コミュニケーションの範囲は広がった。次の課題は「交流」
オンラインインターンシップを開催したことで、実際にどのようなメリットがありましたか。
選考の母集団を集めたいというよりも、インターンシップを通して「面白く働きたくなる、つくることが楽しくなる」が伝わればいいなと思っていたので、きちんとインターンシップが形になって、ある程度の人が参加してくれて、そのうちの何割かが課題を提出してくれた時点で、僕の目的は達成されています。
その上で、各回300人として、年4回開催すると1,200人。もともと新卒採用に応募してきてくれるのは1,000人くらいですから、1年間で応募してきてくれるくらいの人数の人たちに、2週間でコミュニケーションがとれるというのは、とても意味があることだと思います。
インターンシップに参加した学生は、過去に応募した学生と比べて違いはありましたか。
オンラインで開催したことで、北海道から九州まで全国各地から参加してもらえました。リアルで開催していたら、東京在住の学生でも鎌倉へは来てくれない可能性があります。それに、参加者は大学3年生だけでなく、1、2年生や高専生、社会人もいました。会社説明会であれば、こうはいかなかったと思います。学生は忙しいので、授業があったり、バイトがあったり、ゼミがあったり、他のインターンシップもある。そんな中で、参加したいと思った人が参加できる「どこでもドア」のようなコンテンツを提供できたことはよかったですね。
参加者のアンケートを見ると、「フランクなインターンシップだった」という感想が一番多かったですね。インターンシップが終わったあとに「雑談ラジオ」というコーナーを用意していて、そこをフランクな場にする設計だったのですが、インターンシップの段階からすでに「フランクですね」と思われていたようです(笑)。
オンラインで、学生の反応が見えづらいと感じたことはありましたか。
コメント機能があるので、参加者の反応はむしろ見えやすかったように思います。ただ、参加の姿勢はオンラインだと二極化しますね。リアルであれば、話していない人に話を振ってケアすることができますが、オンラインはコメントがすぐ流れていくので、追えなくて場に入りきれない人もいると思います。
オンラインインターンシップによって、見えてきた課題はありますか。
アンケートで「他にあったらよかったコンテンツ」を聞いたところ、ほとんどが「他の参加者との交流」だったんですね。そこは企画段階から迷っていたのですが、Zoomでブレイクアウトルームをつくろうにも、300人いるとオペレーションが大変です。そこで、希望者にグループ番号を割り当てて、各自で予定を調整してもらうという形をとっていました。オンラインでいかに交流するかは、今年度のインターンシップでも、引き続き重要なテーマの一つです。
思えば「交流」というのも、コロナによって無くなったものの一つなんですよね。僕も就活のときに出会った仲間とは今でも仲良くやっているので、就活は出会いの場でもあります。もちろん感染状況次第ではありますが、リアルで学生同士の交流の場をつくってみたらどうなるか、試さない理由はないと考えています。僕にとって、次の大きな課題ですね。
(取材:2021年8月3日)