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いま、企業が行うべき研修とは?
育成の目的とメニューを明確にし、研修効果を最大限に高めていく

(2010/7/27掲載)
【prologue】
自律性を高め、社員一人ひとりのスキル・能力を高めていかなければ、これからの競争社会で生き残っていくことは難しい。そのため、企業における研修の重要性が、改めて見直されている。しかし、どのように研修体系を構築していけばいいのか、あるいは実効性を高めていくにはどのような工夫が必要なのかなど、実際の導入・運用で苦労しているケースは多いようだ。今回、コンプライアンス教育などを中心に人材育成に詳しいプリンシプル・コンサルティング代表取締役の秋山進氏に、いま、企業が行うべき研修のあり方、具体的な方法などについて、お話をうかがった。
秋山 進 氏 (プリンシプル・コンサルティング株式会社 代表取締役)
秋山 進 氏
(プリンシプル・コンサルティング株式会社 代表取締役)
1963年奈良県生まれ。京都大学経済学部卒業後、リクルート入社。事業・商品開発、戦略策定などに従事した後、各種のトップ企業においてCEO補佐や経営戦略の立案と実施を行う。 その後、商社やメーカーなどの企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事し、産業再生機構下で再建中であったカネボウ化粧品チーフ・コンプライアンス・オフィサー代行としてコンプライアンスとリスク管理の体制構築・運用を行う。 国際大学GLOCOM客員研究員(イノベーション行動科学研究)。著書に「それでも不祥事は起こる」(日本能率協会マネジメントセンター)「社長!それは法律問題です」 (共著:日本経済新聞社 日経ビジネス人文庫)「転職後、最初の1年でやるべきこと」(日本能率協会マネジメントセンター)「インディペンデント・コントラクター」(共著:日本経済新聞社)「プロマネの野望」(共著:翔泳社)「これって違法ですか?」(共著:日本経済新聞社)「戦略プロフェッショナルベーシックスキル」(共著:日本能率協会マネジメントセンター)「愛社精神ってなに?」(プレジデント社)など。

研修には、「プロフェッショナル化」「底上げ化」の2つの種類がある

―― 企業にとっての研修の重要性について、どのようにお考えになりますか。

実は、私自身はあまり研修を受けるのが好きではなかったのです(笑)。なぜかというと、自分が興味のあるテーマのときにはやる気満々なのでいろいろ事前に学習していくわけです。しかし、ほとんどの研修はそこまでやる気のある人を対象にしていません。だから期待外れということになってしまう。また、会社から強制されて必要な知識を獲得するための研修に行かざるを得ないときもあります。そういうときは、通り一遍の内容に興味が持てず、ほぼ間違いなく時間つぶしになってしまう。そういう経験ばかりでした。研修が悪いのではなくて、私自身の気持ちの問題が大きかったのですが…。

結局のところ、受講者の意欲や能力がバラバラなので、平均的な人に合わせて作っても多くの人が満足できないということなのです。プロを目指しやる気のある人が集まる研修と、一般的な知識を効率よく学習できる研修を完全に分けた形で対応していくべきです。そうしないと、せっかくの時間とコストをかけた研修の費用対効果が大変悪いものになってしまいます。

―― では会社として、どういう対応をしていくべきなのでしょう。

研修に限らず、人材育成においては、プロになってほしい人向けの育成プログラム(プロフェッショナル化)と、組織全体としてこのレベルまで底上げしていかないといけないプログラム(底上げ化)に、分けることです。そして、育成のプロセスを「意識化」→「知識化」→「定着化」(→「達人化」)といった具合に段階を踏んで、今どの段階をやっているかを明確にして育成を進めることです。

いずれの場合も、まずは意識を上げるためのステップを面倒がらずにやることが重要です。意識が高くなってこそ、知識獲得にもエネルギーがかけられるようになるからです。それを実践の場に移して特に意識せずともに実行できるようになると定着化のフェーズに来ています。底上げ化ではここで終了ですが、プロフェッショナル化にあっては、さらにもっと上を目指す、達人を目指す世界があります。

図:育成の目的と具体的メニュー

図:育成の目的と具体的メニュー

プロフェッショナル化から説明しましょう。個人がプロとなるために意識を高く保ってもらうには、明確な目標があったほうがいい。そういう意味で、資格取得を目標に掲げ、それを可能にするための研修などを受けてもらうことは良い場となるでしょう。また、資格取得は、その世界で仕事をしていくための最低限の知識を体系的に獲得できるという面で知識化にも役立つ “ツール”となります。ただ、それを超えるものではないことにも注意しておかなくてはいけませんが。また、その世界で達人と呼ばれる人の話を聞けば、自分もそうなりたいと思うことでしょう。それから、アプローチする対象が集団の場合には、全員で同じゴールを同時に目指す、というやり方で継続的な意識化が可能になります。

―― 集団と個人とでは、方法を変えたほうがいいということですか。

今では「モチベーション」という言葉があたり前のように使われるようになりました。しかし、1990年代半ばまでは、それほど一般的な言葉ではありませんでした。それより、「モラール」を上げるという言い方のほうが普通だったと思います。モラールは個人にも使えますが、どちらかといえば集団に対する言葉づかいです。一方、モチベーションは個人に対してのもの。働きかけの対象がこの10数年間で、集団から個人へとシフトしてきた。それが定着してきたわけです。

しかし日本人には個のモチベーションに働きかけるより、集団のモラールに働きかけるほうがどうもフィットするみたいですね。個人が仕事に対してのプロ意識と責任感をもち、克己心の延長線上にやる気が形成され、それが安定的に組織全体に広がっていくモチベーションオリエンテッドな組織は理想的に思えますが、多くの日本人はそこまで個として強くない。むしろ、集団のモラールを上げるべく働きかけ、集団の方向に合わせて個人の在り様を調整するほうが、結果として快適な職場環境が生まれ、そのことで結果的に個人のモチベーションも上がっていきます。これは多くの日本人が持つ特質ではないでしょうか。2010年のサッカー・ワールドカップの日本代表を見ても、そう感じました。企業は、個人のモチベーション向上から集団のモラール向上へと、今一度重点の置き方の転換を考えたほうがいいと思っています。

さて、その延長線上で話を元に戻すと、皆で同じゴールを目指し、落ちこぼれを出さないようにしていく。実際、集団で生き残るようなアプローチをすると、皆が頑張り続けます。さらには、落ちこぼれそうになった人を助けたりもする。しかし、優れた人だけを選抜するようなやり方をすると、そこから外れた他の人が駄目になってしまい、選抜した人もダメになってしまうことが多いようです。

次の知識化についていえば、1~2回の研修だけでは不十分。継続的に取り組める方法を採用していくしかありません。社内でゼミナール的な特別のプログラムを組んだり、大学院などで勉強させたりする方法も考えていいでしょう。定着化では、仕事の実践で対応していくことです。あるいは、同職種の人たちと情報交換のできる研究会を開催するような方法で全体のレベルを上げていく。達人化では、高度な仕事をしてもらい、その成果を論文にまとめたり、講演をさせる場を作るなどのやり方があります。

―― このようなプロフェッショナル化の世界で、研修はどれだけ有効なのでしょうか。

研修を実施したからといって、そう簡単にプロフェッショナルが誕生するというわけではありません。慢心しないように、落ち込まないように刺激を与え続けることが重要だと思います。それより研修が本当の意味で使えるのは、底上げ化のほうです。

全体の底上げを図るために行うほうが効果的

―― 全体のレベルを上げることのほうが、研修にむいているわけですか。

そうです。組織能力の利用を前提とした実践的な対応力を育成していくには、研修がとても有効です。特に、意識化の部分において大きな効果をもたらします。「そういうことなのか」「このままだとまずい」といった問題の認識や個人の気づきの部分に働きかけるのです。例えば、チェックテストで問題を明確にしたうえでの研修プログラム。自分がどれだけできているのか、知っているのか、その結果が明確に分かると、「何とかしなければいけない」と思います。さらに、その後に講演・研修と続けば、より効果的でしょう。

ただし、ここでもできることは限られています。継続的に学習してもらわなければいけない。ただプロになるためには体系的な知識が必要ですが、底上げのほうは、よく出くわす問題の頻出パターンだけを知ってもらい、それだけをマスターしてもらえば十分でしょう。英語の受験の際に、出る単(地域によっては“しけ単”)さえ覚えておけば良いというのと同じ発想です。

具体的に言えば、自社においてよく発生する諸問題を取り上げ、それだけをチームを組んでシミュレーションをロールプレイングで考えてもらったほうがいい。ただ、すべてをロールプレイングでやると手間と時間がかかりすぎるので、頻出状況対応のQ&Aのテキストなどで継続的に学んでいく場を設けていくことです。

その際、「どういう行動を取るべきなのか」といった行動を前提に知識をつけてもらいます。そして、行動の選択肢としてどういうパターンがあるのか、なぜそのパターンを選ぶのかという行動の判断基軸を学んでいきます。また、その基軸の裏には、会社の経営理念や戦略、社会の基本的な考え方や法律、などがあります。全体の底上げという意味では、原則を示してそれに合った行動をとれと教えるよりも、実例をもとに背景にある抽象化された概念を学ぶという帰納法的なやり方をしたほうが、効果が高いのです。

その際、集団に対して、同時期に一気にやるというのがポイントとなります。というのも、皆で共有しあうことで「ウチの会社では、こういう場合にはこうすればいいんだ」という会社の「当たり前(スタンダード)」が確定するからです。現在、Eラーニングが導入されて学習が個人化していますが、この場合でも、同じ問題を同時期に全員にやってもらう形にしていくことをお勧めします。

―― なるほど。会社の「当たり前(スタンダード)」を作ることが大事なのですね。

定着化では、イエローカード的な対応が必要です。できていない場合には、何らかのペナルティーを設け、できるようになるまで辛抱強く指導していきます。集団に対しても、チェックの仕組みを盛り込んだり、実際に知識が上がったかどうかを部署ごとにテストを行い、競わせたりする。 研修というのは「意識化」において、非常に役立つものです。しかし、それを継続的に行い、知識のレベルを上げて定着させていくというレベルとなると、「時間コスト」が、ものすごくかかります。

―― 別の対応を考えたほうがいい、ということですか。

もちろん、大事なことは研修などを通じてしっかりと伝えていきます。そして、その延長線上で冊子やEラーニング、テストなどを使ってフォローし続けていく。そうしないと、せっかく意識は上がっても、知識が身に付かないということになってしまいます。大切なのは、皆に知識が身に付いて、それが会社の中の当たり前となり、それをチェックしていく。そういう一連の流れを作っていくことです。

研修の中身は、あまり欲張らないこと

―― 最近の研修は、詰め込みすぎのように思います。

せっかくお金と時間をかけて研修をするのだから、意識を上げたい、知識を身に付けてほしいなど、経営者側はいろいろと要望を出します。すると、担当者は対象や各ステップでそれぞれふさわしい方法があることは分かっていても、経営の声に屈してしまいがちです。その結果、あれもこれもとなってしまい、受講者は消化不良を起こしてしまう。もし意識化の段階で知識化もしたいと考えるのなら、本当に必要な3つだけに絞るなど、あまり中身を詰め込まないで、欲張らない研修をすることがポイントでしょう。

さらに言えば、プロフェッショナルを対象とした内容を、底上げの人たちに求めてしまう傾向があります。一般の人は基本的な知識と会社の「当たり前」を知っていればいいわけで、何か問題が生じたときに、これは誰に聞けばいいのかを知っていればいい。要は、「誰に聞けば分かる」というレベルにすればいいという開き直りです。

「三択式」にすることの意味

―― ここまでお話をうかがって、個人が学ぶ際に、手軽に学べるツールが必要だと思いました。

これまで3択式のチェッククイズを使ってトレーニングをすることで成果を出してきました。私はテスト分野でのビジネス経験も長いのですが、テスト(=測定)と学習は、領域は近いのに技術は大きく異なります。3択のチェッククイズテストには、テスト領域での蓄積された技術の中で、テストにおいてはタブーとされていることをあえていろいろ使って学習の促進をしています。 例えば、テストの世界では、選択肢の中には解答につながるヒントが盛り込まれないようにしなければなりません。なぜなら、その内容を知らなくても、気のきいた人なら、選択肢の中に潜むヒントを見つけ、正しい解答にたどり着いてしまうからです。実は、我々が作成する3択式チェッククイズはむしろその習性を逆手にとって、3択の選択肢の中に巧みにヒントを入れて、むしろいろいろ考えた上で、最終的に「正解」にたどり着くよう思考を誘導し、正解の喜びを勢いに変えて解説を読んでもらうように作ってあります。

つまり、このような小さな「成功」を積み重ねていくことで、知識化、定着化を図ろうとしているのです。ただし、プロフェッショナル化の場合は、こうしたアプローチは有効ではありません。3択で興味を持ってもらうとしても、すぐに体系的に学ぶようにステップアップした方がいいでしょう。

日経VIDEO&DVD 関連テキスト
考えることでビジネス知識が身につく研修用テキスト
『「三択式40問」で考えるシリーズ』
内定者から新入社員、中堅社員研修に最適です。

ビジネスに必須の様々な基本知識やセンスは一方的に話を聞いたり、活字を読んだりするだけではなかなか身につきません。むしろ「選択が迫られるビジネスシーン」を疑似体験し、自ら当事者の立場で「自分ならどうするだろうか」「何がベストだろうか」と考えることで体得ができます。
本シリーズは、各分野のビジネス実務に精通した執筆者達が、現場の実情や制約要因を考慮した上で基本的かつ頻繁に起こりうるケースを厳選して三択問題として揃えました。 三択問題に繰り返し取り組み、トレーニングを積み重ねることでビジネスパーソンとしての「基礎体力」が向上します。

監修
秋山 進、千田 直人

コンプライアンスの基本
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著者:
千田 直人
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著者:
涌井 美和子
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著者:
小川 貴之
浅井 真紀子
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ビジネスコミュニケーションの基本
著者:
鹿野 晴夫
大塚 千春
会計の基本
会計の基本
著者:
平井 滋

*日本経済新聞出版社刊 ■各巻税込価格 840円 ■小B 6判 ■114p~128p
―― 三択問題は、知識化、定着化にはとても有効なツールなのですね。

はい。正解への誘導がなされているからこそ、少しの思考と苦労で正解にたどり着く。気持ちが乗る。さらに、解説を読むことで、その背景にあることを知って、理解が深まっていく。こうした“快感の連鎖”が、学習においてはポイントとなります。実際、こうした形でまとめた問題集を作成してみましたが、学習成果を上げることにそれなりに成功していると思います。

底上げ化の場合には、組織能力の利用を前提に考えれば良いので、分からない時は周囲の人や専門部署に聞くことで対応していけばいい。別に「優良誤認表示」などという言葉は知らずとも、「これってちょっと良く書きすぎかも?」と思えば、「プロに質問することのできるレベル」に到達することができるわけで、このレベルに達すればOKだという割り切りが必要です。

また、こうした3択式のやり方は、広く応用できます。例えば、経営理念の浸透などの分野でも活用できます。自分がいま抱えている仕事と経営理念との紐づけ、意味づけが、それこそ三択式の問題を使うことで、楽しくかつ深く理解することができる。あるいは、マニュアル類の理解促進などにも活用できます。

研修も今までのやり方を一度リセットし、目的とメニューを明確にし、ツールを変えることなどで、その実効性が高まるだけでなく、いろいろなテーマに応用できると思います。

―― 今日的な研修のあり方が、非常によく分かりました。本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。
(*7月1日:千代田区永田町 プリンシプル・コンサルティング本社にて)
日本経済新聞出版社タイアップ企画
日本経済新聞出版社
株式会社日本経済新聞出版社 http://www.nikkeibookvideo.com/company.html
日経ブック&ビデオクラブ

日経ブック&ビデオクラブは、日本経済新聞出版社が運営する法人さま用書籍・DVD販売サイトです。就職活動や社員研修などさまざまなシーンにおいて役立つコンテンツをご紹介しています。書籍やDVDの活用事例のご紹介や、社員研修に関するイベントの動画配信など、情報提供を行い、法人さまの人材育成活動をバックアップいたします。


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