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海外留学による次世代リーダー育成術 第2回
海外留学で「新たな経験」を積むことにより、
次世代リーダーを育む確かな「土壌」を形成していく

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FUJITSUユニバーシティは、2002年4月に設立された富士通グループの社員教育を担当する機関。グループ内の知識を結集し、業界をリードしていく人材を育成するために、それまで事業部ごとに実施していた研修をFUJITSUユニバーシティのもとに一元化した。その中で、近年力を入れているのが社員の海外留学。ハワイにあるマネジメント教育機関「JAIMS」を利用するのもその一環である。実際のところ、海外留学にはどのような効果を期待しているのだろうか?さらには、具体的な取り組みや今後の課題などについて、ビジネス研修グループ統括マネージャの青山重男さんにお話を伺った。 (聴き手=HRMライター/プランナー・福田敦之、写真=東 幹子)

プロフィール
青山 重男さん
青山 重男さん
株式会社FUJITSUユニバーシティ
ビジネス研修グループ統括マネージャ(兼)エグゼクティブ・プロマネ(GKI担当)

1957年愛知県生まれ。名古屋大学法学部卒業後、1982年富士通入社。以降、人事・教育部門を中心としたキャリアを積む。本社人事部、勤労部を経験した後、87~89年に国内留学(慶応ビジネススクール)。FUJITSUユニバーシティの前身である富士通経営研修所で5年間、人材開発・教育関係の仕事に携わる。事業部門やグループ会社の人事部門の仕事を経験した後、98~2004年までスペインに駐在。帰国後、本社に戻った後、現職に。次世代のビジネスリーダーを育成することをミッションとしている。社内のファンの中では、「ジェイムス(JAIMS)・ディーン」の愛称で呼ばれている。

→“変革的” リーダーに求められるものとは?(第1回)
→アドバンテストの展開する「経営戦略的」人材育成術とは?(第3回)

なぜ、海外留学なのか

人材育成において、社員を海外に留学させる目的とは何ですか。

基本的に、社員教育というのは内部での教育が中心となります。しかし、それだけでは狭い範囲でしか議論が展開していきません。また、新たな発想も生み出されにくい。外の世界とつながる機会は、会社に入ってからもずっと重要だと思います。

留学を本格的に考え始めたのは1979年。それまで技術の分野で、大学と協同研究を行うといった試みはありましたが、今後のビジネス展開を考えたとき、経営についてきちんと勉強した人材を育てておく必要性が出てきました。というのも、それまでは経営やマネジメントについては極めてシンプルに考えていたからです。要は、先輩に見習ってやっていればいい、ということ。ただ現実問題として、そういう内部の知識、ロールモデルを見習うだけでは無理が生じつつありました。何より、グローバルにビジネスを展開していく中、国内外で経営を担う人材が果たして供給できるのか、という不安がありました。

体系的にビジネスとは何か、マネジメントは何か、といったことを考えられる人材を用意しておく必要が出てきたわけです。そういう目的、狙いから海外留学をスタートさせることになりました。

国内留学からスタートし、その後、海外留学という流れですよね。

青山重男さん

ええ。当初は、会社側の視点で経営ができる人材を育てることが中心だったわけですが、徐々に個人をサポートしていこうという思いが強くなっていきました。事実、80年代には、従業員の考えるキャリアに対する支援として、そういう施策が求められていました。自分自身のキャリアを考えた場合に、海外のMBAに行ってみたいと。また、それが会社の目的と合致するのであれば、会社はそれを支援していこうという思いがありました。世の中の変化に伴って、留学というものの位置づけと、その中に込められた意味が複合的になってきたわけです。

現在はそれだけではなくて、より広い世界に触れた人が、富士通の中でしか経験のない人には分からないような発想や視点を基に、社内に刺激を与え、イノベーションを起こしていくと、そういう期待を持っています。

組織やビジネスのイノベーションを起こす、総合的知力を養う3ヵ月短期ビジネス留 学プログラム。

ビジネス留学の概要

公募方法や選考基準などについて、お聞かせください。

現在では、会社が指名して派遣しています。何かをして欲しい人、具体的に近い将来ではなくても、この先ビジネスをリードする人材になって欲しい人を、海外あるいは国内のMBAのコースで学んでもらう。さらに、そこに集まる人たち、その人たちが属している世界と触れることにより、より高い質の経験をしてもらうことを求めているので、会社で指名しているわけです。20代の若い世代を対象に、入社3年以上のビジネス経験を持った人、将来が期待できるキャパシティ・ポテンシャルのある人を指名しています。

年間、何人の社員が海外に留学しているのですか。

年間で5~6名程度です。というのも、MBAコースだと約2年間仕事を離れることになります。そんなに多くの人材を留学させるわけにはいきません。一時期、個人の動機をプライオリティの一番に置いた時期もありましたが、2年前に改め、会社が指名するという形に戻しました。

留学制度の内容(期間、派遣先など)についてお聞かせください

国内留学の場合、2年間でどの大学に行きなさい、という指定をしています。その際、夜間や週末などの留学ではなく、フルタイム留学に限定しています。経営を学ぶことが主眼なので、国内では慶応ビジネススクールが中心です。その他には、早稲田ビジネススクール、一橋ビジネススクールが多くなっています。

一方、海外留学では全米ならトップ20に入るくらいの大学、欧州なら5位くらいまでにランクされる大学を指定しています。ただし、この先生でしか学べないという特別なケースでは、その限りではありません。

海外に留学した社員には、どのようなことを期待していますか。

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20代の人がほとんどなので、彼らが富士通という組織に戻って直ちに大きな権限を持ち、リードしていく存在になり得るかというと、それはなかなか難しいでしょう。だから、戻ってからすぐということではなく、例えば5年後にその経験を活かして、成長して次にチャレンジする、という位置づけになると思います。ただ、そこで何をどうする、ということは一概に言えません。留学を終えた後も、個別にレポートを提出してもらうことはありません。あくまで口頭での報告です。

大切なのは、どういう経験をしたかと同時に、それをどう活かすかという本人の問題と、さらにそれを組織がどう活かすかという点ではないでしょうか。
Q
留学経験をどう受け止めていくか、会社全体がはっきりとさせていく必要がありますね。

その点からも、意図的な仕事の上でのチャレンジのさせ方、その上で次に何を担ってもらうのかを考えることを、これまでよりも長い目で体系的にやっていこうと考えています。本人任せ、現場任せ、所属長任せではなく、人事や人材育成部門、何より富士通全体で協働し、人材育成を考えていかなければいけません。

ビジネスの5年後、10年後というのは、今の組織で行っていることと違った形となります。富士通が今と違う形となった将来、どういう人たちが中心となってそのビジネスを支えていくのか考えなくてはいけない。それは、全社で考えるしかありません。

そのためにも、富士通の中の全ての部門や人が、自分の専門分野だけのことを考え、それ以外のことは他の人に任せて、コミットしないということではなくて、別の世界をイメージして、考え方を変えていこうとしているところです。

その際、海外留学というのは非常に効果的な経験ですね。

そうです。グローバルを意識したプロダクトやサービス、ビジネスモデルを考えないと、この先の成長はないでしょう。それは、これまでの発想とは異なる世界であり、そのためにも海外留学が重要な経験となってきます。

JAIMSは、野中郁次郎所長(一橋大学名誉教授)のビジョンに基づく人材の育成を 行っています。

JAIMSを利用する理由

社員の海外留学の際、JAIMSを利用するメリットとは何ですか。

異文化で学ぶということは、経営のスキルだけではありません。JAIMSを考えてみると、その歴史は古く、経験してきた人の数も多い。さらに、その果たす役割も最近は変化してきているように思います。単に経営のスキルを学ぶのであれば、他のビジネススクールという選択肢がある現在、JAIMSに新しい光が当たっているように感じます。

JAIMSについては年に2回、各期において4~6名を派遣しています。会社が指名するのではなく、本人の希望による留学ですが、費用の自己負担もあり、その間仕事を離れるわけですから、毎回、人数が殺到するということはありません。応募者の年代は20代半ばから後半が中心、いろいろな職種・職場に及んでいます。男女比では、女性のほうがやや多くなっていますね。
Q
他の留学制度と比較して、JAIMSが優れている点は何ですか。

JAIMSがいいのは、期間が3ヵ月ということで、実現しやすい点。また、富士通としても古くから制度として取り入れており、垣根が低く、利用しやすい点があります。内容についても、野中郁次郎先生が中心となって構成されており、グローバル人材の育成が念頭に置かれ、何より哲学がしっかりしています。加えて、ハワイという地理的な条件とその特性が見逃せません。ハワイには行政関係や民間団体が凝縮して存在しています。何かを学ぼうとしたときに、国家・州のダイナミズムがどこから生まれてくるのか、JAIMSの建物の外で直接感じることができます。

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日本の大学で学ぶのとは違い、ハワイで学ぶということは、そうした目に見えない「付加価値」が非常に大きい。事実、現地に行かなくては分からない、知ることができないということはとても多いのです。新しい発見も十分に期待できます。

JAIMSが創設されたのは1972年。その後、MBAブームが起きると、アメリカ本土の大学への留学が増えていきました。しかし、現在はMBAに対する評価が以前ほどではなくなっています。むしろ、長期的な人材育成という点で考えると、必ずしもMBAが有効ではありません。その点から考えても、JAIMSは比較的短い期間で、良質の経験が得られるので、企業そして個人としても取り入れやすい仕組みではないでしょうか。

留学中、帰国後の対応について

留学している社員がより成果を上げるためには、どのようなフォローを行うべきですか。

青山重男さん

今まで留学中の我々の役割は、行政的な窓口でした。留学のための手続きなど、事務的な対応がほとんどです。しかし、富士通全体で人材を長期的に育てていこうと考えたときに、どういう人を選んで、留学している間にどういう体験をしてもらい、終わってからも彼らが学んだことをいかにフォローしていくか、という継続的な対応が欠かせなくなってきます。

具体的には、報告会はもちろんのこと、コミュニケーションの充実を図っています。行く前、行った後も、我々が付き合っていくということをメッセージとして明確に伝えています。手間隙をかけてコミュニケーションを図っておくことにより、留学経験者の数が増えていくと、経験者同士が集まる交流の場を設定していくなどすれば、彼ら同士がコミュニケーションを図ることへとつながっていくからです。そうすることで、各々が学んだ「暗黙知」が「形式知」へと転化していくのではないでしょうか。

今までも留学経験者同士のコミュニティはありましたが、それをもっと充実させるとともに、幾つかの「銀河」をもっと大きな「星雲」にしていければと考えています。

加えて、社内でも選抜研修を行っています。そういう人たちのコミュニティとも結び付けていくことで、今後の富士通の経営を担う人材がネットワークとしてつながっていきます。その中から、その時々のリーダーが選ばれていく。そして、その選ばれた人がより働きやすくするためには、そういう人たちとのネットワークがあるとないとでは、大きな違いとなります。まずは、そうした「土壌」を作りたいと考えています。

帰国後の社員の感想には、どのようなものがありますか。

JAIMSは会社からの指名ではなく、本人が自ら手を挙げる形での留学制度。留学費用については、会社も補助しますが、少なからず本人が負担します。その分、本人の留学に対する思いも強くなっていますね。何を学ばなくてはいけないか、本人の自覚、意識が強いからです。実際、JAIMSを経験する前と後とでは、違って見えます。今までの仕事を中心とした世界から、そうではない世界を知ることで、モノの見方や考え方が変わってきた人が多いように感じます。

やはり異文化の中で時間を過ごすことが、そうした変化を促すのでしょう。特に、日本語ではない言語でコミュニケーションすることの効果、影響は少なくありません。同じ言語、均質化した思考体系の中で仕事をしてきたものが、異言語や異文化、異なる生活習慣の中に置かれることで、もっと自由であっていいと感じ、考え方や振る舞い方も変わっていくわけです。事実、本人たちからもそうした変化を感じているとの報告を受けています。

留学経験を素晴らしいレポートにまとめることではなく、留学での経験を風化させないことが、より重要なのです。

JAIMS留学者の声「グローバルな英語力とマネジメント力。そして、新しい視座が獲 得できました。」

今後の展開に期待すること

富士通の社員に求められるものとは何ですか。

富士通には長い歴史があり、そこで育ってきた社員は優秀だと評価されています。しかし、同じ分野での優秀さを持った人が多く集まっても、別の角度から見た場合、そうではないかもしれません。優秀さというのが狭い範囲に偏ってくる可能性があるからです。そういう人たちの集団から、果たしてイノベーティブなものが生み出されるかというと、それには疑問符が付きます。

だからこそ、5年後、10年後を考えた場合、今、優秀と言われている人とは違った優秀さを持った人を用意しておかなければなりません。それは組織として、なかなか許容しにくい部分があるかもしれません。阻害されることもあるでしょう。しかし、そういう人たちこそが、この先の富士通を引っ張っていく人材となります。

求められる人材ということで言えば、より多様な優秀さを備えた人たち。ただ、そうした人材は現在いないため、どういう人たちなのか具体的には分かりません。だからこそ、JAIMSを含めた海外留学というのは、そうした人材を発掘するのにとても重要な「場」なのです。

もちろん、別の優秀さを持った人材を外部から採用すればいい、という考え方もあるでしょう。しかし、中にいる人たちの資質をもっと発揮しやすくすることで、新たな優秀さが出てくるように思います。さらに、ネットワークとして広がっていく。そのためにも、多様な優秀さが活躍することのできる仕組みをこれから考えていく必要があるわけで、そうでないと、これからの成長は期待できません。

今後も、社員の留学制度を継続していくのですか。継続する場合には、制度や選抜の仕組みなど、今後の展開をどのように考えていますか。

本人のキャリア形成の支援という意味も含めて、今後とも、JAIMSの利用を継続していく考えです。ただ、もっと多様な使い方もあると思います。それにはグローバル人材育成全体の観点で、更なるJAIMSの利用を考えていきたい。

青山重男さん

当社には、海外留学や社内の選抜トレーニングを受けた人たちという共通のプラットフォームがあります。そして、こうした経験をした人たちもかなりの数となり、クリティカルなマスになってきました。そこに確かな人間関係ができてきます。その結果、組織や職掌を通じたものではなく、一人の人間同士としての協力関係が築き上げられてくる。それはまた、別の優秀さの交わりともなるでしょう。こうしたインフォーマルな相互の関係性が、次世代リーダーを育むための大きな「基盤」となるのは間違いありません。

海外留学という経験を含めて、社内に多様な人材を揃え、次の「準備」をしていかなくてはならいと考えています。

(取材は2009年9月10日、川崎市の富士通クロスカルチャーセンターにて)

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一般財団法人富士通JAIMS

JAIMS(日米経営科学研究所)は、富士通株式会社の提唱によって、1972年にハワイに設立された非営利の教育法人。そのミッションは、相互依存が高まっているグローバル経済社会で能力を発揮できるビジネスリーダーの育成を通じて、アジア太平洋地域の人材開発と知の共創による新たなコミュニティ開発に貢献することにあります。国際的に通用する企業人の育成を目的に、経営という実践的な専門の知、グローバルな視座と広い教養、異文化間コミュニケーションスキル、そして、今日の知識社会で求められるリーダーシップを総合的に鍛える国際マネジメントプログラムを提供します。

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