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管理職1年生日記 Episode-3
一皮むけた経験~「管理職研修」を通じて知った教訓

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ほとんどの会社では、新任管理職を対象とした「管理職研修」を行っていることだろう。しかし、その実態となると千差万別。営業課長へと昇進したA氏も、最初は研修の内容に戸惑いを隠せなかった。しかし、研修での出来事を通して、その戸惑いは自信へ、さらには管理職への自覚へとつながっていったという。一体どういう経緯でそうなったのか?その一部始終を知るために、新任管理職研修が実施された頃へと、少し時計の針を巻き戻してみよう。

「新任管理職研修」での失望…

3月の最終週に1泊2日で行われた「新任管理職研修」のことを、A氏はいまでもよく覚えている。
「良い意味でも悪い意味でも、あの研修が自分たちの出発点だったな」と、同じ時期に研修を受けた総務課長のQ氏、同じく情報システム課長のR氏、そしてマーケティング課長のS氏との定例会化した飲み会の席で、A氏は思い出話を切り出した。

「改めて思い出してみても、あの研修の中身って、本当にスカスカだったな」とQ氏はしみじみ言う。一同、苦笑いを隠せない。
「とはいっても、あの研修がなければ、今こうして酒を飲み交わすこともなかったからね」とQ氏の言葉は続いた。
「そうだね」と同調するR氏。
「まったくだよ」といつもは何かと言葉数の多いS氏も、このときは感慨深げに右手に持った水割りを一気に飲み込んだ。すると、皆の思いが出尽くしたのか、しばしテーブルには沈黙が続いた。

ところで、4人がそこまでいう研修のプログラムとは、いったいどういうものだったのか、概略をここに記してみよう。

【第1日目】
(1)オリエンテーション(事務局からの説明)
(2)講演:管理職に期待されること(人事部長・研修講師から)
(3)事例研究A(職場で起きた問題について、皆で解決策を議論する)
(4)懇親会~自由討議(研修講師を交えて)
【第2日目】
(5)講演:管理職に求められるスキル(研修講師から)
(6)自己分析(エコグラムによる自己理解、強み・弱みの把握)
(7)事例研究B(会社で起きた経営上の問題について、皆で解決策を講じる)
(8)行動計画(行動計画の作成と発表、フィードバック)

この内容を、管理職に昇進した16人が、4人ずつ4グループに分かれて進めていく。世間的には、よくある内容ではある。ちなみに研修パンフレットには、「新任管理職としての基本的な考え方、立ち振る舞いを座学と事例研究で学び、職場に帰って実践できる内容」としてあった。

以下は、研修直後の4人の感想。
「いや、とんでもないね。何の役にも立たなかったよ」とQ氏。
「そうそう。職場に帰って使えるとあったけど、そんなことは全くなかった。映画のダイハードの主人公の気分だったよ。本部は何も分かっていない」とR氏も同調する。
「とにかく、表面的というか、単なるお勉強だったな。これなら、セクハラ対応とか問題社員への対処法など、実践的な内容のほうが絶対によかった」と、S氏にいたってはプログラムの内容に不満を隠せない。

黙って聞いていたA氏だが、「あのときは、誰もがそう思ったものだよ」とため息をつく。何よりA氏自身、研修を終えて職場に戻ったとき、希望に満ちた気持ちが一気に萎えていったことをよく覚えている。希望を持って立てた「行動計画」も、現場では全く相手にされなかった。研修で学んだことを活かそうとも考えたが、そんなことより、目の前には処理しなければならない実務が山のようにあった。管理職研修で何かを得たつもりだったが、結局、残ったのは失望感だけだった。
「何なんだ、管理職研修って?」

「研修仲間」との再会から何かが始まった

もやもやとした状態が続くなか、管理職となって2ヵ月が過ぎたあたりだろうか、部下と一緒に行った飲み屋で、A氏は偶然、研修仲間だったQ氏と再会した。お互いに言いたいことがあったのだろう。「管理職研修で学んだ考え方は、現場ではそのまま使えない」「部下を納得させるためのスキルをちゃんと身に付けていないと、一向に課がまとまらない」「このままだと、管理職としてやっていく自信が持てない」といった不満や不安話が止めどもなく続く。お互い、やり切れない思いがあるのが手に取るように分かった。

そんな中で、側にいたA氏の部下が「そんなことないですよ。Aさんは課長だから、課全体のことを優先せざるを得ないけれど、個人の都合も考えてくださるので、すごく助かってます。少なくとも自分はそう思ってますから」と全く予想もしなかった発言をした。
「それって、慰めか?」と自嘲気味のA氏に対し、部下はこう続けた。
「試行錯誤っていうか、一所懸命に部下のことを考えて、臨機応変に対応してくださっているじゃないですか。もちろん、“えーっ”てこともありますが、なるほどと思うことがたくさんありますよ」
「Aさん、そのやり方、具体的に教えてよ。というか、いま見せてみてくれないか」とQ氏が要求する。
「じゃあ、先週の面談のときの話をしようかな」
「面談なんてやってるの?」
「ああ。週末に個人面談の機会を作ってさ、部下からの意見や感想を聞くようにしているんだ」
「へーっ。俺は、毎朝のミーティングで一方的にしゃべるだけだよ」

イメージ

「でも、それだと皆の反応が分からないだろ。だから、週末の金曜日の午後は話を聞く機会を持つようにしたんだ。もちろん最初はぎこちなかったけど、3回目あたりからかな、けっこう本音というか、職場での悩みや問題点を言ってくれるようになったよ」

すると、待ってましたとばかりA氏の部下が「自分は、プライベートな悩みにも相談に乗っていただいてますよ」とすかさずフォローする。
「まあ、生活指導みたいこともやってるわけ。それも、酒抜きでね」
「なるほどね。Aなりにコミュニケーションの方法を考えたわけか」
「それほどでもないけどね」
「いや、とても参考になった。そんなこと、とても俺には思いつかないからさ。それで、この話、RやSにしてもいいだろ」
「もちろん。それなら来週あたり、久々に皆で会って、いろいろと情報交換しないか」
「いいね。じゃあ俺が、連絡係りをやるからさ」

思いもかけない展開だった。最初は愚痴ばかりだった酒席が、いつの間にか建設的な意見交換の場となっているではないか。さらには、次の予定まで入ってしまった。光明が見えると同時に、何となく自信めいたものが芽生えてきたことを感じたA氏だった。

新任管理職研修の本当の「狙い」とは?

翌週、久々に会った4人の話し合いは深夜にまで及んだ。さらに、この集まりは2週間に1度、「定例会」として行われるようになっていく。その定例会では、職場で起きたお互いの悩みを共感し合うなかで、いつしか管理職の苦労と同時に喜びを感じるようになっていった。業績を厳しく求められる一方、管理職に求められる役割と責任は日々増している。さらに競争原理を働かせて効率性を追求するなかにあって、管理職が抱える責任の重さや悩みを、共有・共感する「場」が少なくなっているのが現実だ。4人の飲み会は、そうした「場」の代わりとなっているのである。

ある日A氏は思った。「これって、管理職研修でやったことと何か似てるな」
その通り。研修は4人ずつ、4つのグループに分けて進められていったわけだが、まさにいま、同じことをA氏たちは定例会で行っている。しかも「自発的に」である。

ひょっとして、この裏には何かあるのではと感じたA氏は、翌日、人事部長のもとへ話を聞きにいった。
「さっそく、やってますね」と先に切り出す人事部長。
「えっ、ご存知だったんですか?」
「人事部ですから(笑)」
「すると、我々の行動を予測していたというわけですか?」
「ある程度はね。実は、新任管理職研修の本当の狙いも、そこにあったんですよ。実際、2日間で管理職になるための全てを学ぶことなんてできませんから。それより、管理職の同期として先々まで話し合える仲間を作ることに狙いを置いたのです。だから、4人ずつのグループで行ったというわけです」
「というと、他のグループも集まって何かやっているのですか?」
「ええ。でも、こうして私のところにまで来たのはAさんが初めてですけどね」

話をまとめると、研修の後、職場での不満や不安を抱えた研修仲間が集まって、現場の問題を持ち込んだ実践的なケーススタディを行っていたということ。いや、行わざるを得なかったというのが正しいかもしれない。そこから、皆が共有するある種のノウハウや形式知のようなものが出てきたのである。先のA氏の個人面談などは、まさにその賜物である。

つまり、こういうことだ。管理職としてソフトランディングさせることよりも、最初から窮地に落とし込んで皆が考えざるを得ない状況に追い込む。そして、そこから自発的に考え、皆で相談し、行動を起こしていくというプロセスを導きだそうと考えたのである。新任管理職研修は、まさにそうした流れを作るための「きっかけ」であったのだ。事実、各職場の部長にはその旨を伝えていたということを、後で聞いた。
「やられた」と思ったA氏だった。

励まし合う仲間との意見交換が、マネジメントへとつながっていく

翌日、A氏が号令をかけ、4人は急遽集まることになった。早々に人事部長と話した内容を告げると、さっそくR氏が言った。
「ということはある意味、俺たち以下、新任管理職の面々は体よく騙されたことになるのか」
「要は、そういうことになるかな」とA氏。
「でも、この数ヵ月間で学んだことは、真剣だったから、すごく役に立っているよ」と皆、異口同音に言う。
うなずくA氏はさらに続ける。「研修って、知識を学ぶことよりも、仲間を作ることのほうが大事じゃないのかな。何でも言い合える仲間は、やはりこうした場から作られるような気がするよ」
「そうかもね」とS氏。
「皆の意見を聞くことで、ブレークスルーっていうわけじゃないけど、新しい何かが出てきてさ、それがとても説得力があるように感じるんだよね」

A氏が感じたことは、まさにそういうことだ。何より、そうしたアプローチは現場でも有効に働く。お互いに意見を言い合い、聞き合うコラボレートな関係は、職場のコミュニケーションをより密なものにしていくからである。またそれは、マネジメントの第一歩と言うべきものである。

翌週、A氏たちは他のグループの管理職たちとも連絡を取り、お互いが学んだ経験やノウハウについて共有する場を作ろうということで話し合った。もちろん皆、異論がなかったのは言うまでもない。

戸惑いから始まった新任管理職研修だったが、それが自信へとつながり、1年が過ぎた現在では、管理職に対する自覚が皆に強く芽生えてきた。まるで、1年前とは別人になった気さえする。
「一皮むける経験が大事だって、どこかの大学の先生が言っていた意味が、何となく分かってきたかな」としみじみ思うA氏だった。

次回は、いよいよ最終回。これまでに紹介できなかったエピソードを交えながら、1年間を振り返っての総括をしてみたい。乞うご期待!

→Episode-4>

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