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管理職1年生日記 Episode-3
「信頼」が管理職をつくる~思わぬ部下の人事異動で学んだこと

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早いもので、営業の管理職となって1年が過ぎたA氏。Episode1や2、3でも紹介したが、この間、いろいろなトラブルに遭遇してきたものの、周囲の支えや何より自身の前向きな姿勢があって、何とか乗り切ることができた。そして迎えた3月、人事異動の季節の到来。ここで思いがけない「人事」が起きる。最も目をかけていた部下のUに、異動の辞令が出たのだ。替わって補充されるのは、派遣スタッフ。思い描いていた計画の出鼻をくじかれてしまった格好である。2年目のスタートを迎えようとする時期にあって、うろたえるA氏。さあ、この危機をどう切り抜ける?

最も期待していた部下が異動に、でも本人にはなかなか言えない…

物価が上昇傾向を示し、景気の先行きもやや不透明になってきた。競合他社との販売合戦を制するために、C社では営業部門の強化を徹底。営業部内に新しく営業企画課が設けられ、営業部隊にも刷新が図られることになった。昨今の環境下では、当然の経営判断だろう。ただし、よりによってA氏の片腕として期待をかけていた部下のUがその異動の対象となろうとは、思いもつかなかった…。
「正直、全く想定外の人事異動だ。Uにとっても予想外のことだろう。これまで自分を全面的に信頼してくれていたUに対して、今回の件をどう説明したらいいのか…。本当に頭が痛いなぁ」

Uの替わりとして、2名の派遣スタッフが配属される予定だ。確かに営業サポートとしてのベーシックな仕事はできるだろう。しかし、組織はそれだけでは回らない。仕事と仕事をつなぐ部分、つまり、内部のコミュニケーションが円滑に図れていなければ組織はうまく機能しない。何よりもその部分を、Uはしっかりとやってくれていたのだ。

「実際問題として、この人事異動をU自身が納得してくれないだろうな」
人事部からの辞令を知って、A氏は悩みに悩んだ。あってはならないことだが、異動を伝えなければならない日に、そのことをUに言えなかった。それほどA氏にとってショックな出来事だったわけである。「どう、Uに伝えればいいのか」。家に帰ってからも、ずっとそのことを考えていた。

「営業部を強化することになった話は、君も知っているだろう」
「はい。営業企画課ができて、我々の仕事をサポートしてくれると聞いています。提案書や見積りの作成を代わりにやってくれるということなので、とても助かりますよ」
「確かにそうなんだが…。実は、君には今回、子会社のC販売へ行ってもらうことになったんだよ」
「えーっ!それはないですよ。A課長とはついこの間、上半期の営業戦略を一緒に考えたばかりじゃないですか」
「いや、実は私も寝耳に水の話なんだ」
「A課長は私のことを、そんなに軽く考えていたんですか?」
「いや、違う」
「だって、本当に自分を必要としてくれるなら、営業を強化しようとする今、そんな人事があるわけないじゃないですか」
「それはそうだけど…」
「本当にがっかりしました。これまでずっと信じて付いてきたのに、ひどい仕打ちじゃないですか」
「申し訳ない。君には何て言ったらいいのか…」

次に返す言葉を思いつかなくなったとき、ジリリリッとけたたましく鳴る目覚まし時計の音で目が覚めた。
「あぁ、夢だったのか。良かった」とほっと息をつくA氏。しかし、今日こそはUに人事異動のことを話さなくてはならない。正直、朝から気が重い。妻との会話もなく、家を出た。

「正直」しかないA課長が慕われる理由

「結局、正直に話すしかないな」
通勤電車の中でこの言葉を何回反すうしただろうか。率直なところ、他に方法が思いつかないといったほうが正確かもしれない。とにもかくにも覚悟を決めるしかなかったA氏は、朝のミーティングが終わった後、Uを別室に呼び出した。しばらくの沈黙の後、重い口を開いた。

「実は、あまりうれしい話じゃないんだけどさ」
「人事異動の件でしょう」
「えっ、知っていたのか?」
「まあ、昨日からのA課長の表情を見ていれば、だいたい想像がつきますよ。本当にすぐ顔に出るんですから。で、僕はどこに異動になるんですか?」
「子会社のC販売へ、課長代理として行ってもらうことになったんだよ。例の全社的な営業強化策の一環で、C販売のテコ入れが必要となったというわけで、そこで君の力を発揮してもらいたいということなんだ」
「へーっ、C販売ですか。なぜ、そこで私なのでしょうか。もっと他に適任者がいるように思うのですが」
「それは違うぞ。Uはメンバーと課長の橋渡し役としてのバランス感覚に長けている。メンバーの気持ちをよく理解し、場合によってはマネジャーの代行もできる。その点を、営業本部としては買ったと思っている。組織には、そういうマネジャーの代理となって演じてくれる人がいないとダメなんだよ。特に営業では。これは、自分自身の経験からもよく分かることだからさ」

イメージ

「そんな、買いかぶりですよ。でも、よかった。A課長がそうはっきり言ってくれて」
「Uには、本当にすまないと思っている…」
「気にしないでください。だって、A課長はいつも正直に言ってくれるじゃありませんか。絶対に嘘はつかないし、自分が間違ったときは間違ったと言うし、だから信じられるんですよ。隣の課長とは大違い」
「おいおい、それは言いすぎだぞ。でも、そうだよな。考えてみると、正直なところしか俺のとりえはないもんな」
「そんなことないですよ。いつも正直で、表裏がないというのはとてもすごいことですから。特に、部下に対して一貫してそういう態度を取れるのは簡単にできることじゃないと思いますよ。というか、A課長はその点で全くブレていないんです。そこのところ、もっと自信をもっていいと思いますよ」

思いもしなかったUの反応だった。そして、別れ際にこう加えてくれた。
「A課長だったら、失敗しても誰も文句は言いませんからね」
「そうか、ありがとう」
最後の「ありがとう」はほとんど言葉にならなかった。

組織に「信頼関係」を浸透させるのが管理職の役割

午後、A氏は営業の責任者であるB部長に呼ばれた。「Uとの件だろうか」と不安な気持ちが先走る。部屋に入るなり、B部長は開口一番、「今回の人事異動は申し訳なかったな。でも、U自身や会社のことを考えれば、ベストの選択だと思わないか」と切り出した。
「どういうことですか?」
「それは、A課長の分身ができたということだよ」
A氏には、その意味がまだよく分からなかった。B部長は続けた。
「私が君を34歳の若さで本社の営業課長に抜擢した理由は、何だと思う? それは、君の人柄や仕事ぶりにあこがれる人を、組織の中に増やしていきたいからなんだよ。はっきり言って、評定だけなら君よりいい点を取っている人は他にもいる。でも、私は管理職になる人は、それとは違う要素が必要だと思っている。実際、君の“とりえ”は何だと思う?」

いきなりの質問に面食らった。しかし、午前中にUから言われたことを忘れるわけがない。ためらわずに言う。
「正直なところ、ですか?」
言ってみたものの、部長の反応が気になる。しかし、それは余計な心配だった。
「その通りだ。例えば、君は失敗したときに、それを素直に認めて自ら責任を負うだろう。実際、なかかなできることじゃないからな。それに、成功したときには部下をまずほめる。自分の手柄にはしない。これもそうできることじゃない。何より、そうした態度が首尾一貫している。私は、そういう考えをもった人が会社で増えていってほしいと思っているんだよ」

バブル崩壊後、成果主義が組織に浸透していった。今までがあまりに年功序列だったから、グローバルで戦っていくには成果主義的な要素は必要だろう。しかし、そのことによって、組織で働く人の「信頼関係」が崩れてしまったら、本末転倒である。残念ながら、現実問題としてそうした兆しは職場の至る所で散見させる。それを今一度立て直すために必要なのが、現場で範となる管理職の“立ち振る舞い”ではないだろうか。

人を通して組織は運営される。決して、制度やシステムではない。それはあくまで手段だ。組織が生き生きとしていくために、上に立つ人は部下を信頼し、仕事を任せていく。そして、結果についての責任を取ることが求められる。そういうことのできる人こそが、これからの管理職として相応しい。B部長はそう思ったからA氏を抜擢したわけだし、A氏の背中を見て育ったUも新たな組織へと登用されていったのだ。

その日の夜、何となく管理職の役割を自覚できたように感じたA氏は、久々に妻と長話をした。
「ねえ、今日何かいいことがあったんじゃない?」
「ああ。正直さが“とりえ”というか、そういう自分らしさが管理職にとって大切だとB部長に言われてさ。ちょっと、嬉しかったな」
「あら、それは家庭生活でも同じでしょ」
「そうだったな」
「これからも、隠し事はなしにしてね」
「うん、分かったよ。参ったな」
予想外の突っ込みに、照れ笑いを隠せないA氏だった。

成功と失敗を通して、判断の「経験値」を積んでいく

部下から信頼されること、これが新任管理職の第一歩として不可欠な要件である。この点で考えると、A氏にはそもそもそうした要素が備わっていた。だから、B部長も課長に推したのである。しかし、管理職としてさらに上を目指していくには、これだけでは足りない。さらに必要なことがある。それは「経験」だ。

翌週、新任管理職の同期たちとの定例会での席で、A氏はこう切り出していた。
「失敗と成功の経験があるとしたら、どちらの経験が大切かな?」
「それは、もちろん失敗だよ。自分の経験からいっても、失敗から学ぶことのほうが多いしな」と総務課長のQ氏。
「でも、成功体験は重要じゃないかな。何より、自信がつくだろ」と言うのはマーケティング課長のS氏である。
「うーん。結局、その両方が大切だと思うよ。どちらにせよ、そこでどう判断したから成功したのか、あるいは失敗したのか。そのことを学ぶことが重要なわけだからさ」と情報システム課長のR氏が両者の意見をうまくまとめてくれた。
「そうだよな」とA氏。こういうことを話せる場があることも、A氏にとっては大きな財産だ。

成功にせよ失敗にせよ、そこで判断の「経験値」を積んでいくことにより、人は学び、成長していく。そして、より上の管理職へと上っていける。新任管理職として過ごしたこの1年間で、次なる目標をつかめた気がするA氏であった。

いずれにしても、信頼関係をベースに仕事と人に対して真摯に誠実に対応していった結果(A氏のキャラクター的に言えば正直に接していくことにより)、次のステップの「扉」が開いたのは間違いない。この点は、新たに管理職となる人たちの誰もが忘れてはならないことといえるだろう。(完)

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