フェムテック・女性の健康支援サービスの傾向と選び方
~全国のソリューション企業一覧~
フェムテックとは、「女性(Female)」と「技術(Technology)」を組み合わせて作られた言葉です。月経を管理するアプリや、医師に不妊治療について相談できるチャットサービスなど、さまざまな広がりを見せています。女性特有の健康課題が経済に与える損失が社会課題として認識される中、女性の活躍推進を支援し働きやすい職場作りをサポートする、フェムテック。導入する際は、自社のニーズを洗い出すと共に、サービスの安全性・信頼性を確認することが重要です。
フェムテックとは
フェムテック(Femtech)とは、「女性(Female)」と「技術(Technology)」を組み合わせて作られた言葉です。女性特有の健康課題を、テクノロジーによって解決する商品やサービス全般を指します。
フェムテックと聞くと、月経の周期管理アプリや月経に使用されるアイテムなど、個人向けのサービスが想起されますが、近年は働く女性の課題解決を目的として、法人向けサービスを提供する動きも見られます。
「フェムテック」の種類
フェムテックには、さまざまな女性の体の悩みや健康課題に対応したサービスがあります。代表的な課題には、以下の6分野があります。
フェムテックは、女性の心身に寄り添う産業として注目を集めています。経済産業省は、2025年時点のフェムテックによる経済効果を約2兆円と推定。フェムテックを使用すると、月経に伴う症状や更年期障害のつらさ、不妊治療に伴うさまざまな悩みなど、女性特有の健康課題を和らげることができます。その結果、女性の離職や昇進辞退、勤務体系の変更を防ぎ、働きやすい職場環境作りの実現につながることが期待されています。
法人向けサービスの一例としては、妊娠・不妊分野での医療支援や、更年期・月経の症状に関する専門家への相談チャネルの設置、従業員のヘルスリテラシー向上を目的とした研修などがあります。
- 【参考】
- 働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査 報告書 (概要版)
- 月経やPMS、仕事への影響は? 管理職が知るべき女性の健康課題-職場のモヤモヤ解決図鑑【第71回】 | 『日本の人事部』
フェムテックが注目される背景
比較的新しい産業であるフェムテックが、企業から注目されている理由として、ジェンダー平等への意識の高まりや、SNSの発展による個人の悩みの可視化が挙げられます。
経済損失の可視化
月経や更年期障害など、女性特有の健康課題にまつわる経済損失が可視化されたことも、フェムテックが注目を集めるきっかけとなりました。経済産業省によれば、月経随伴症状などによる社会経済的負担は年間6828億円と試算され、そのうち7割以上を、会社を休んだり生産性が低下したりする労働損失が占めています。女性の健康課題に企業が取り組むことが、生産性向上につながると期待されているのです。
DEIの実現
近年、企業経営で「DEI」という言葉が注目されています。DEIとは、DEIとは、Diversity(ダイバーシティ)、Equity(エクイティ)、Inclusion(インクルージョン)の頭文字をとった言葉です。これまでは、個人や集団に存在するさまざまな違いを認め、誰もが組織に貢献できる状態を目指す「D&I(ダイバーシティ&インクリュージョン)」が主流でしたが、最近は「Equity」を加え、公平な扱いで不均衡の調整を行うことを含めたDEIが広がっています。フェムテックは、女性の健康課題をサポートし、働く機会を男性と平等にすることで、DEIの実現に貢献します。
SDGs指標との関連(ジェンダー平等、健康経営と福祉)
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)は、2030年までに国際社会が達成するべき目標として17のゴールを定めています。そのうちの一つが、「ジェンダー平等の実現」です。SDGsの特徴は、国や個人、企業が一体となって目標達成に取り組むべきとされている点です。
日本では、男女間の賃金格差や、育児・家事の負担差が大きいことがジェンダー平等を阻害する課題となっています。フェムテックは企業にとって、女性が快適に働ける職場を作り、ジェンダー平等を実現するものとして注目されています。
女性活躍を推進するため
日本では、2015年8月に女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が施行され、それに伴い、職場環境や制度の整備が企業の取り組むべき課題として注目されてきました。企業がフェムテックを導入することは、働く女性をサポートすることにつながります。たとえば、採用面では「女性が働きやすい職場のPR」に、すでに働いている従業員向けでは「離職防止」に役立ちます。
技術の発展
フェムテック産業の発展に、技術革新は欠かせません。スマートフォンを用いて簡単に排卵管理ができるアプリや、データを医師や病院と共有できるサービスは、技術の発展がもたらしたものです。世界的にもフェムテックは注目されており、公的機関の資金支援などによって、今後も大きな発展が期待されています。
SNSやインターネットの発達
月経や不妊など、フェムテックが対象とする女性特有の健康課題は、これまで「個人的なもの」として公の場で語られる機会は多くありませんでした。体にまつわる悩みは、同じ女性でも個人差があり、簡単に相談できるものではありません。
しかし、近年はSNSやインターネットの発展により、こうした個人的な悩みが言語化されました。それにより、共通の悩みを抱えている女性が大勢いることが可視化されたのです。
フェムテック導入のメリット
フェムテックを導入することで、企業にはさまざまなメリットがあります。
生産性向上
フェムテックで月経などによる経済的社会損失が回避されることで、職場全体の生産性の向上が期待できます。女性従業員の労働環境を改善するほか、更年期障害や女性特有の健康課題にまつわる体調不良を早期に発見することにもつながり、結果として体調不良による離職を未然に防げます。
ヘルスリテラシーの向上
フェムテックを導入することで、個人、組織の両方のヘルスリテラシーが向上します。「月経痛は我慢するべきもの」といった旧来の思い込みではなく、一人ひとりが正しい知識を身に着けることで、個人のウェルビーイングを実現。体調不良に関する悩みも相談しやすくなるでしょう。
誰もが働きやすい職場作り
フェムテックを導入することで、社員の健康に対する意識の変化が期待できます。女性の健康問題に限らず、「体調不良は個人差がある」「誰にでも起こりうる」といった考え方から、病気やけがといった体調不良の際にも、適切な対応ができるようになるでしょう。
フェムテック導入が進むために必要なこと
注目を集めているフェムテックですが、導入している企業はまだ多くありません。理由の一つは、フェムテックの主流サービスには月経管理アプリといった個人をターゲットに訴求されるものが多く、企業にとって、導入メリットや導入方法がわかりにくいこと。ヘルスリテラシーを向上させる研修やセミナーは、企業で実施する目的を明確にしなければ効果が見えにくく、組織として導入が難しい点もあるでしょう。また、市場そのものが発展途上であり、サービスの安全性や信ぴょう性について、慎重に検討している企業も多いと思われます。
月経や更年期障害、不妊治療など、これまで社会のなかでタブー視されていた領域に触れることを、躊躇する人もいます。フェムテックの導入が進むためには、企業で意思決定権を持つ人々が、経営活動とフェムテックの関連性を認識する必要があります。
フェムテックの選び方
フェムテック導入に向けて、選び方のポイントを解説します。
導入事例を参考にする
最初のステップは、情報収集です。健康支援をする企業の課題としては、「禁煙支援・メタボ支援などは男性がメインになってしまうので、女性向けの支援も増やしたい」「女性含め誰もが働きやすい職場にしたい」「女性の管理職比率をあげたい」「管理職候補女性の離職防止をしたい」「保険料の削減をしたい」などがあります。インターネットを活用するほか、すでに導入している企業の担当者に話を聞いてみるのもいいでしょう。
また、近年では、BtoB向けフェムテックの展示会なども開催されており、フェムテック企業が集まる場を活用して情報を収集するのも有効です。
自社のニーズに適したものを検討する
自社の女性従業員にとって、どのような支援が求められているのか、ニーズを把握することが重要です。女性特有の健康課題に対して、組織として休暇の制度を整えたり、そもそも休暇が取りやすい仕組みを構築したりするなど、さまざまなサポートの仕方があります。
フェムテックのサービスは、月経や不妊など複数の領域にまたがっています。満足度調査や匿名のアンケートなどを通じて従業員のニーズを洗い出し、導入するべきフェムテックを検討することが大事です。
サービスの信頼性・安全性の確認する
フェムテックのサービスの信頼性や安全性を確認します。たとえば、スマホアプリで気軽に専門家に相談できるサービスでは、専門家の評判が重要です。ほかにも、プライバシーが確保されているのか、個人の情報は適切に取り扱われているのかに留意する必要があります。フェムテックは、健康というデリケートなものを扱います。過去の導入事例や、サービス提供会社のサポート体制、セキュリティ対策などを確認することが重要です。
フェムテック導入の流れ
フェムテックを社内で導入する際は、サービス契約前に検討するほか、導入に向けて社内に説明する体制を整えることが大事です。
情報収集と目的の明確化
フェムテックに関する情報を集め、フェムテックを導入する目的を明確にします。たとえば社内で、月経や更年期障害により「仕事がつらい」「休みが取りづらい」といった悩みがある場合、個人のヘルスリテラシーの向上支援、休暇制度の改善など、課題を複数に分けて解決策を考えることが重要です。
対象の洗い出し
フェムテックのサービス利用者など、対象となる層を丁寧に洗い出します。女性従業員という大きなくくりだけでは、組織としてフェムテックのメリットを十分に活かしきれない可能性があります。たとえば、不妊治療のチャット相談は、女性従業員だけではなく、男性従業員や、自社従業員のパートナーも対象に含まれます。
サービスの選定
サービスの契約前に、可能であれば無料デモなどを使用してサービスの使い心地を検討することもポイントです。サービスの課金形態や契約内容も、事前に確認する必要があります。
サービスの導入・社内説明
サービスの契約後、あるいは並行して、社内へ説明する準備を進めます。サービスの導入目的や使用マニュアル、使用ルール、注意点をまとめたものがあると便利です。
会社全体への浸透
フェムテックを女性の問題として取り扱うのではなく、「性別に関係なくすべての人が働きやすい職場作り」を目的とし、「その一環としてフェムテックを導入する」という意識が重要です。フェムテックは、たしかに女性特有の健康課題を取り扱うものですが、考え方が女性に特化してしまうと、男性が「自分には関係ない」「女性ばかり」と思ってしまう可能性があります。研修に男女関係なく参加できるようにするなど、組織全体の取り組みにすることが重要です。
フェムテックのトレンド
フェムテック産業は、大手企業の参入も始まっていることから、今後さらなる発展が期待されます。一方で、コロナ禍で急速に広がったオンライン診療にみられるように、市場が発展すると、今後規制が厳しくなる可能性もあります。また、「卵子凍結」「男性の更年期」など新たに注目を集める領域もあるため、こまめに情報取集することが重要です。
ベンチャーだけでなく大手も参入
丸紅株式会社は、フェムテック事業を推進するベンチャー企業と提携し、働く女性の健康課題をサポートする総合的なプログラムの共同開発に取り組んでいます。2020年から始まった同プロジェクトでは、自社の取り組みから始まりましたが、翌年から他社のサポートにも乗り出しており、事業としての発展が期待されています。
丸紅が提供するプログラムには、「月経プログラム」「妊活プログラム」「更年期プログラム」の3種類があり、セミナー、オンライン診察・相談、オンラインチャット相談などが可能です。
- 【参考】
- 丸紅、エムティーアイ、カラダメディカ 働く女性の健康課題改善をサポートする総合的なプログラムの共同開発に関する業務提携について
- 女性の健康について会社全体で学び、ケアすることを目指す、丸紅の「月経プログラム」 | Femlink Lab. (フェムリンクラボ)
男女ともに対象としたサポート
小田急電鉄は、2018年に福利厚生制度として妊活コンシェルジュサービス「famione」を導入しました。社員とそのパートナーは、不妊治療などの妊活について無料で相談しアドバイスを受けられます。
メルカリでは、従業員が「Go Bold(大胆)におもいっきり働ける環境」を充実させるため、2016年から人事制度「merci box(メルシーボックス)」を導入。2021年からは新たに「卵子凍結支援制度」「0歳児保育支援制度」の二つの制度を試験導入しています。また、病気や怪我を理由とした休暇「Sick Leave」の対象範囲をメンバー本人だけでなく、配偶者やパートナー、ペットも含めた家族に拡大するといった取り組みもあります。
- 【参考】
- 法人で初めて福利厚生制度として正式導入!
社員向け妊活の外部相談窓口「famione」利用開始
~誰もがいきいきと働くことができる環境の整備を推進します~ - 「女性だけのサポート」にしたくなかったんです――メルカリが福利厚生に卵子凍結を導入するまで
フェムテック産業の成長を目指した政府の支援
経済産業省は、2021年度からフェムテック関連の事業に対する補助金である「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を開設しました。2022年度も継続して行われています。同補助金制度では、フェムテック関連の製品やサービスの提供企業・組織に対して、500万円を上限とし、実証事業費の3分の2が補助されます。
令和5年度に採択された事業には、「働く更年期の女性の不調改善と男性のサポート体制構築事業」をはじめ、フェムテック産業をけん引する新しい事業が含まれます。
フェムテック・女性の健康支援サービスを提供する全国のソリューション企業一覧
- あすか製薬株式会社
- 株式会社With Midwife
- 株式会社エイチームウェルネス
- 株式会社エス・エム・エス
- NPO法人Fine
- 株式会社エムティーアイ
- 株式会社LYL
- 大阪ヒートクール株式会社
- 大塚製薬株式会社
- 株式会社オノフ
- 株式会社カラダメディカ
- 株式会社QOOLキャリア
- 株式会社グレイスグループ
- 株式会社Cradle
- 株式会社SUSTAINABLEME
- さんぎょうい株式会社
- サントリーパブリシティサービス株式会社
- 株式会社ジョコネ。
- 株式会社じょさんしGLOBAL Inc.
- 株式会社ステルラ
- 株式会社ストークコンサルティング
- スピンシェル株式会社
- 株式会社スルミ
- SOMPOひまわり生命保険株式会社
- 株式会社つばめLabo
- 株式会社TRULY
- TOPPANエッジ株式会社
- 株式会社nanoni
- 一般社団法人日本フェムテック協会
- 日本メディカルフェムケアアカデミー
- 株式会社ninpath
- 株式会社パソナフォスター
- vivola株式会社
- 株式会社日立ソリューションズ
- 株式会社ファミワン
- 株式会社ファムメディコ
- Flora株式会社
- ヘルスケアテクノロジーズ株式会社
- 株式会社ポピンズファミリーケア
- 丸紅株式会社
- 株式会社ミナケア
- 株式会社Mimosa
- mederi株式会社
- 株式会社menopeer
- ユニ・チャーム株式会社
- 株式会社よりそる
- 株式会社LIFEM
- 株式会社リンケージ
- 株式会社YStory
人と組織の課題を解決するサービスの潮流や選定の仕方を解説。代表的なサービスの一覧も掲載しています。