健康経営と人材紹介つい「忖度(そんたく)」してしまいがち 健康な人しか紹介できない?
従業員の健康を大切にすることで会社の収益性を高める、「健康経営」が注目を集めている。「働き方改革」が叫ばれる中、企業は既存の社員だけでなく、新たに採用する社員の健康にも気を配るようになった。今後は人材紹介会社にも、求職者のスキルやキャリアだけでなく、健康に配慮することが求められるのだろうか……。
生活習慣病予備軍といわれた人材
転職相談の際、事前に転職希望者の顔写真や履歴書などを見ているので、大体どういう人なのかはわかっている。しかし、身長や体型などは実際に会ってみなければわからない。
「今日はどうぞよろしくお願いします。リラックスして何でもご相談ください」
そう言いながら、私はSさんの体格の良さに圧倒されていた。いわゆる「ぽっちゃり」というレベルではない。外国人などで「ビア樽のよう」と形容したくなる人がいるが、まさにそういう太り方なのだった。
ひとしきり職務経歴や希望などをヒアリングし、タイミングを見計らって健康状態について聞いてみることにした。
「何かスポーツなどはされているのですか」
相撲や柔道、ラグビーなどは巨漢のイメージがある。しかし、Sさんはすぐに否定した。
「よく聞かれるのですが、全然していないんですよ。本当はスポーツで体を動かして、もっとやせなければいけないのですが……。健康診断でも、毎年医者から注意されています」
健康診断の話が出たのをきっかけに、より掘り下げてみると、やはり生活習慣病予備軍であることがわかった。「仕事に支障が出ることはない」とのことだが、過去には通院して投薬を受けていたこともあったという。
昨今、多くの企業が「健康経営」に力を入れている。従業員が元気に楽しく働いてくれた方が生産性は高まり、業績向上にもつながる、と考えているからだ。そのため、ストレスや生活習慣で体を壊すことなどがないよう、社員の健康状態を定期的にチェックするほか、さまざまな対策に取り組んでいる。もちろん、企業が求人を依頼する際に「健康な人」などとはオーダーできない。しかし紹介会社としても、企業から紹介料をもらう以上、健康面で不安がある人を紹介することはためらわれる。
スキルやキャリアが素晴らしければ、少しくらいの健康不安は問題にならないだろう。しかしそうではない場合、紹介会社はつい企業の意向を忖度(そんたく)してしまいがちだ。