タイミングを狙った引き止め策? 退職直前で転職を見合わせた求職者
人材を逃したくない企業 有休消化中のアプローチとは……
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本社でばったり出会った先輩
数日後、Uさんから「この会社に応募をお願いします」というメールが届いた。そこには数社の企業名が書いてあった。
実際に応募してみると、企業の反応も悪くなかった。「企業が会いたくなる若手人材」というレベルに十分達していたからだ。
さっそくUさんに日程調整について連絡すると、「一週間ほど先にして欲しい」と言う。現在は有休消化中でまだ籍は会社にあるので、一度本社に行って最終的な退職手続きをしなければならないとのことだった。
「本社が○○県なんです。最後の出張ですね。少しだけ時間をください」
Uさんはブラック企業に未練はないと言っていたが、私にはふと引っかかるものがあった。退職手続きだけのために、わざわざ本社に呼ぶというのは怪しくないだろうか。しかし、Uさんはすでに有休消化に入っている。結局、「お待ちしています」とUさんを送り出すしかなかった。
その後、一週間経ってもUさんからは連絡がない。私は、引き止められそうになったらいったん保留して連絡をくださいと伝えておけばよかったと、少し後悔しながら電話をかけてみた。
「ご連絡が遅れてすいません。実は……」
なんとなくバツが悪そうなUさん。
「退職手続きに行ったら、入社当時にお世話になった先輩にばったり会ったんです。いろいろと話しているうちに、『それなら人事にかけあってやる』ということになりまして」
今までのハードな店舗業務から本社直属の事業開発の部署に異動させると言われ、再びやる気に火がついてしまったのだという。
「今度の部門は週末もしっかり休めますし、結婚のこともあったので」
Uさんには結婚を前提に付き合っている女性がいた。もちろん転職相談の時にもそれは聞いていたのだが、その時には「ブラック企業では家庭を大事にできない。早く転職を成功させて彼女の実家にあいさつに行きたい」という話だったのである。
「娘の結婚相手が転職したばかりというのは、やはり先方の親にすれば不安だと思ったんです。部署が変わっただけなら新卒からずっと同じ会社に勤めていることになりますし、安心すると思いまして」
確かにUさんの考え方にも一理ある。
「もう少し今の会社で頑張ってみます。相談にのってくださってありがとうございました」
ただ、相手はブラック企業である。新しい部署の勤務環境が本当に話の通りなのかは正直分からない。先輩がたまたま本社にいたというのも出来すぎのような気がする。ひょっとしたら有休消化でリフレッシュしたタイミングを狙って引き止めるという作戦だったのかもしれない。
こんな時は「またキャリアアップをお考えになったら、気軽にご相談ください。頑張ってくださいね」とエールを送って終わりにするしかない。まじめなUさんには、ぜひ成功して欲しいと願いながら、私は電話を切ったのだった。
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