酒場学習論【第50回】
日本橋「酒とスパイスマツコ」と「多様な働き方、週休3日制」
株式会社Jストリーム 管理本部 副本部長 兼 人事部長
田中 潤さん

古今東西、人は酒場で育てられてきました。上司に悩み事を相談した場末の酒場、仕事を振り返りつつ一人で呑んだあのカウンター。あなたにもそんな記憶がありませんか。「酒場学習論」は、そんな酒場と人事に関する学びをつなぎます。
燗酒とスパイス料理、中でも燗酒とカレーが合うというのは、そのかいわいの人たちにとって周知の事実となっています。燗酒の名酒場の多くが、アテにスパイス料理やカレーを提供しています。カレーは〆の一品として使えますが、アテとしても大活躍するのです。カレーをいただきながら、私たちは燗酒の平杯を傾け続けます。
日本橋と八重洲の間くらいに立地する「酒とスパイスマツコ」は、スパイスカレーの名店であるとともに、スパイスカレー呑みができる魅力的な酒場でもあります。カウンターの奥には、燗映えする日本酒の一升瓶が並びます。実に魅力的な酒場なのですが、なかなか訪問難易度が高い酒場でもあります。バーを間借りして営業しているからです。
バーの間借り営業ですから、営業時間はおのずと昼間に限られます。しかも毎週火・木・金の3日間のみで、営業時間は11時30分から14時30分。いつも近隣のビジネスパーソンのランチ需要や、わざわざ訪れる純粋なスパイスカレー好きでとても賑わっていますが、酒場使いを目的にお邪魔するには、営業時間というなかなか大変な障壁があるのです。

あいがけのマツコカレー。平日昼なので、お酒を呑まない人の方が多数です
こんな訪問難易度の高い「酒とスパイスマツコ」に、私がお邪魔できるようになったのには理由があります。昨年の7月から土日に加えて、木曜日を休みにする週休3日の働き方に変えたからです。それ以降、時折ではありますが、木曜日の遅めのお昼にお邪魔して、スパイスカレーをいただきながら燗酒を呑めるようになりました。これはまさに、週休3日制という多様な働き方の恩恵です。
もともと、副業としてキャリアコンサルタントの養成講座や更新講習の講師などを務めていたので、土日のいずれか、もしくは両日とも仕事をしていました。さすがに身体がきついし、気持ち的にも窒息しそうな感じがしてきたので、本業を週休3日とすることになりました。木曜日には、たまった野暮用や仕事をしたりもしますが、昼から呑んだり、ヨガに行ったりと有意義に過ごすことができています。また、あまりやり過ぎては本末転倒になりますが、平日にも副業ができるようになりました。
多様な働き方を実践してみて、週休3日制の普及は、日本社会を変える可能性があると感じています。まず、副業に対する障壁が劇的に下がります。1日とはいえ、平日も働けるわけですし、週末に1日働いても週に2日は休めますから、無理なく副業に取り組めます。副業を通じて一つの職場に縛られない働き方を経験する人が増えることによって、働く人の価値観は間違いなく変わっていくはずです。人手不足の業界にも恩恵がありそうです。
そして何よりも、平日の日中の経済を活性化させます。週末集中の余暇が分散されるわけです。そんなことを考え、週休3日のありがたみを噛み締めつつ、木曜日の遅いお昼に燗酒の平杯を傾けながらスパイスカレーをいただくのです。

ある日のメニューはこんな感じ
「酒とスパイスマツコ」のメニューは、あいがけのマツコカレーだけです。そこに「スパイスたまご」と「パクチーましまし」をトッピングすることが可能です。あいがけのカレーの内容は、毎日変わります。インスタグラムで公開されるその日のメニューを見るのがとても楽しみです。この原稿を書いている日は、「ビーフ豆の味噌ピンダルーと青葱とスルメイカの肝ジンジャーカレー」、その前日は「手羽元のジンジャー梅ピンダルーとタイ風海老出汁のココナッツカレー」でした。
タイミングによっては蕎麦屋呑みの「蕎麦前」のように、カレーの前に「カレー前」としてのアチャールなどをいただけることもあります。そうなると燗酒が3杯、4杯と進んでしまいます。

この日はスパイス感あふれる「カレー前」をいただけました
以前、ここのスパイスカレーを100種類以上食べているという常連の方にお会いしました。どんな具材も取り込めるカレーは小宇宙であり、まさに多様性の象徴のような食べ物です。よく考えると、間借り営業という形態も、多様な働き方の一つだといえます。店舗自体が副業をしているようなわけですから。
間借り営業を経て、ある程度の手応えが得られた段階で自らの店舗を持つことを目指している飲食店関係者は多いでしょう。しかし、「酒とスパイスマツコ」は大繁盛店になったにもかかわらず、5年間綿々と間借り営業を続けています。これも多様な生き方です。5年後はどうされていることでしょうか。
「酒とスパイスマツコ」がワンメニューにしているのは、ランチ時にワンオペで効率よくスパイスカレーを提供する仕組みかと思いますが、13時30分を過ぎるくらいから少しずつ酒吞み客が顔を出して、効率をそぐオーダーをし始めます。初訪の際は、このあたりの常識がわからず口開け直後にお邪魔し、燗酒をいただいてしまいました。申し訳ありません。
多様な働き方の広がりにより、このような機会を得ることができました。ゆっくりではあるかもしれませんが、この流れは拡大していくに違いないと思っています。そして、いろいろな意味で日本を豊かにし、日本を活性化することにつながるはずです。

玉川アイスブレーカーの燗とスパイスカレー、最高です

- 田中 潤
- 株式会社Jストリーム 管理本部 副本部長 兼 人事部長
たなか・じゅん/1985年一橋大学社会学部出身。日清製粉株式会社で人事・営業の業務を経験した後、株式会社ぐるなびで約10年間人事責任者を務める。2019年7月から現職。『日本の人事部』にはサイト開設当初から登場。『日本の人事部』が主催するイベント「HRカンファレンス」や「HRコンソーシアム」への登壇、情報誌『日本の人事部LEADERS』への寄稿などを行っている。経営学習研究所(MALL)理事、キャリアカウンセリング協会gcdfトレーナー、キャリアデザイン学会副会長。にっぽんお好み焼き協会監事。
- 参考になった0
- 共感できる0
- 実践したい0
- 考えさせられる0
- 理解しやすい0
無料会員登録
記事のオススメには『日本の人事部』への会員登録が必要です。