職場のモヤモヤ解決図鑑【第78回】
まだまだ続く健康診断!
二次検査・特定保健指導の受診率UPのコツ[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
健康診断の結果が芳しくなかった従業員のその後が気になる吉田さん。健康のためにも、二次検査を受けてほしいのですが、業務が多忙なために難しそうです。健康診断で「所見あり」と診断される割合は受診者の半数以上に上ります。二次検査を受けることが、従業員の健康維持と病気の早期発見につながります。従業員の健康を守るための取り組みを見てみましょう。
健康診断後の対応や費用負担
まず、健康診断の費用とその後の対応について整理します。定期健康診断は法律で定められた企業の義務です。そのため、費用の全額を企業が負担します。
健康診断後の「二次検査(再検査)」や「精密検査」など、さらなる検査が必要な従業員に対して、企業が費用を負担する義務はありませんが、従業員が受診しやすいように環境・制度を整えることが望ましいとされています。
二次検査とは
二次検査とは、検査結果において、健康状態に何らかの問題がある、またはその可能性が高いと医師から判断された場合に行う検査のこと。
二次検査の目的は、疾病予防と早期発見です。厚生労働省の「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」によれば、再検査の受診を勧めたり、二次検査の結果を産業医などの意見を聴く医師に提出するよう働きかけたりすることが望ましいとされています。二次検査の費用は基本的に個人負担です。保険適用になると伝えると、従業員は受診しやすくなるでしょう。
健康診断で、なんらかの異常の可能性がある「所見あり」と診断される従業員は、約4割に上ります。厚生労働省が発表する「健康診断有所見者の推移」を見ると、令和2年の一般健康診断を受診した人で所見ありと診断されたケースは6割以上で、年々増えていることがわかります。定期健康診断によって疾病が発見されるケースは少なくありません。
特定保健指導とは
特定保健指導とは、健康診断結果でメタボリックシンドロームのリスクのある40~74歳までの方を対象に行う健康サポートをいいます。従業員が健康に関するセルフ・ケアができるように、健康づくりの専門家である保健師や管理栄養士が支援します。
費用は、企業が加入している保健指導機関によって異なりますが、補助により無料で利用できるものも多くあります。また、健康診断当日に特定保健指導を受けられるケースもあるので、従業員が利用しやすいように調整するといいでしょう。
特定保健指導が世の中に浸透するにつれ、受診率は年々増加しており、それに合わせてメタボリックシンドローム予備軍の割合が減少しています(2008年と比較して13.8%の減少)。
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積により、高血圧・高血糖・脂質異常症などを引き起こします。自覚症状がほとんどないことが問題で、放っておくと動脈硬化が急速に進行し、心臓病や脳卒中などを引き起こすリスクが高まるため、健診結果に基づいて生活習慣を改善することが重要です。
二次検査や特定保健指導の受診率UPのポイント
二次検査、特定保健指導も、疾病を予防し従業員の健康を維持する上で重要です。健康診断結果を放置せず、次のステップで対策をとることが、病気の早期発見や予防につながります。ただし、健康のために大切なことであっても、全員がすぐに受診するとは限りません。受診を先送りにする従業員に対して、人事ができることは何でしょうか。
受診をしない従業員の心理
受診をしない、もしくは先送りにしている従業員の多くは、「仕事が忙しい」ことを理由に挙げています。企業内での健康への意識も、受診率を左右します。
日頃から健康経営に対する取り組みを行っているなど、健康風土を醸成している企業では、従業員の意識が高くなります。従業員に受診を促すには、再検査を受診しやすい仕組みが重要ですが、健康診断の結果でリスクをイメージできるようなヘルスリテラシーの向上も不可欠といえます。
受診率UPの解決策
「健康診断結果をみても、数値ばかりでよくわからない」という声は珍しくありません。メタボリックシンドロームという言葉は知っていても、体に与えるリスクを正しく認識していない人もいます。組織内での情報発信やワークショップは、従業員のヘルスリテラシーを向上させます。対象者に合わせてアプローチするためには、以下の点を押さえておく必要があります。
【ヘルスリテラシーを活用する五つの戦略】
- ヘルスリテラシーを「知る」
- ヘルスリテラシーを「合わせる」
- ヘルスリテラシーのハードルを「下げる」
- ヘルスリテラシーを「高める」
- ヘルスリテラシーを「広める」
まずは従業員のヘルスリテラシーレベルを調査し、実態を「知る」ことからはじめます。回答内容から、ヘルスリテラシーの傾向を把握することが可能です。そのうえで、ヘルスリテラシーレベルを「合わせる」必要があります。その際、組織全体や部署、チームなど、対象者に合わせたアプローチを考えることが重要です。場合によっては、ヘルスリテラシーのハードルを「下げる」ことも必要でしょう。対象者の理解度に合わせてヘルスリテラシーのハードルを下げることで、多くの人に有用な情報を発信することができます。
「ナッジ理論」の応用
従業員の行動を促すために「ナッジ理論」を応用する方法もあります。ナッジ理論とは、強制や金銭的インセンティブを使わずに行動を促す手法です。たとえば、健康診断の受診勧奨の表現やデザインを工夫することで、受診率アップにつなげられます。
企業事例
最後に、健康診断実施後、従業員の二次検査の受診率向上や、従業員のヘルスリテラシー向上のために取組みを行っている企業事例を紹介します。
味の素
同社では、「味の素グループで働いていると、自然に健康になる」というスローガンを掲げ、従業員の変容を促しています。
【取り組み例】
健康診断実施後の全員面談
健康診断実施後、健康推進センターの産業医や保健師が、一人あたり30分かけて1対1で面談を実施します。健康診断やストレスチェックの結果をもとに、それぞれの価値観や生活スタイルに合わせた指導を行っています。実施率は100%。従業員が自身の健康をマネジメントできる能力を身につけられるようにサポートしています。
サンスター
同社では、「常に人々の健康の増進と生活文化の向上に奉仕する」という社是を掲げ、50年以上前から健康経営に取り組んでいます。
【取り組み例】
サンスター心身健康道場
人々の健康づくりをサポートする事業に携わる従業員自身がまずは健康であるべき、という考えのもとに開設されたもの。「食事」「身体」「心」の三つの視点から健康バランスを取り戻すことを目的に、宿泊型の健康指導プログラムを提供しています。
対象となるのは、入社直後の従業員。また、35歳を健康上の節目と位置づけ受講を促すとともに、健康診断の結果で特定保健指導の積極的支援対象・動機付支援に該当したときも、受講の対象となります。「食事」「身体」「心」の三つの視点からアプローチした座学カリキュラムと体験の組み合わせで、自宅に戻ってからも実践できる点が特徴です。
【まとめ】
- 二次検査や特定保健指導は、病気の早期発見・再発予防・生活習慣の改善などを目的に受診する
- 企業には、従業員が二次検査や特定保険指導を受診しやすいよう、適切な情報提供や仕組みづくりが必要
- 従業員のヘルスリテラシーの向上への取組みが、受診率アップにつながる
健康診断結果をただ渡すだけだと、結果の重要度が伝わらないのかもしれない……。ヘルスリテラシーの向上が必要だし、従業員が二次検査を受けやすいような仕組みも整えたいなあ……
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!