現場の「自律的な挑戦」と「試行錯誤」がイノベーションを生む
不確実性の高い時代に必要な意思決定手法「OODAループ」とは
神戸大学大学院 経営学研究科 教授
原田 勉さん

イノベーションや新規事業開発の必要性を感じながらも、既存の業務プロセスや「計画通り」を重視する文化が変革の足かせになっている。また、現場の自律的な試行錯誤を促せない組織風土に強い課題意識を抱いている、という企業は多いのではないでしょうか。こうした中、従来のPDCAに代わる手法として注目されているのが「OODAループ」です。「OODA(ウーダ)」とは、見通しの立たない状況において目標を達成するための意思決定方法で、「観察(Observe)」「情勢判断(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」の頭文字を取ったもの。想定外の状況や先の読めない環境において、特に力を発揮します。創造性やイノベーション研究を専門とする神戸大学大学院経営学研究科の原田勉さんは、OODAループは「単なる試行錯誤」ではなく、PDCAという枠組みの中で機能するものであり、その実践には「問いの共有」と「失敗を許容する評価制度」が鍵になると語ります。現場の自律性を引き出し、イノベーションを生む組織へ変革するための新たな視点について、原田さんに伺いました。
- 原田 勉さん
- 神戸大学大学院 経営学研究科 教授
はらだ・つとむ/1967年、京都府出身。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。主な著書に『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。
「計画」のPDCA、「試行錯誤」のOODA
まず、「OODAループ」とはどういうものなのかを、ご説明いただけますでしょうか。
OODAループは、もともと米国海兵隊で採用された考え方です。戦闘状態においては、計画通りに物事が進みません。また、いちいち司令部の指示を仰いでいると、臨機応変な対応が取れません。特に現代戦で重要なのは、いかに相手の裏をかくか。正面衝突を避け、相手の弱いところを突くことがポイントです。そのためには、相手をよく「観察」し、情報を得ることが重要。そのための手法がOODAループです。OODAは、観察(Observe)、情勢判断(Orient)、意思決定(Decide)、実行(Act)の頭文字を取ったものです。
OODAループとPDCAとの違いはどこにあるのでしょうか。
PDCAとの一番の違いは、出発点です。PDCAは、計画(Plan)、実行(Do)、チェック(Check)、修正(Action)で構成されていて、「計画」から始まります。一方、OODAは「観察」から始まります。
VUCAの時代には、情報が日々変化していきます。そのため、古い情報や予測に基づいた計画はすぐに陳腐化してしまう。だからこそ、観察を重視し、直観的に判断し、即断即決し、実行していくOODAループが求められているのです。もちろんOODAループを回す際にもある程度の計画は必要ですが、まず観察してからやり方を考えます。
もう一つの違いは、回すスピードと回数です。PDCAは、1サイクルが回る期間(通常は1年)が固定化されているイメージがあると思います。一方、OODAは「ループ」ですから、条件がある限りは何回も、早く回した方がいいという思想です。OODAループを簡単に一言でいうと「試行錯誤」なんです。
個人レベルでは誰もが日常的に試行錯誤をしていますが、組織として行うのは、簡単なことではありません。試行錯誤を組織的にどうやって維持し、効率よく行っていくのか。OODAループを回すための仕組み化が「OODAマネジメント」の課題です。
OODAループはPDCAを「完結させる」ためにある
では、ビジネスにおいてOODAループはどのように活用できるのでしょうか。
OODAループとPDCAは相反するもの、対立するものとして語られることがありますが、必ずしもそうではありません。PDCAを完結させるためには、OODAループが必要です。OODAループはPDCAと対立するものではなく、補完するものなのです。
例えば工場での生産作業のように、すべてがマニュアル化・定型業務化されていれば、PDCAで回るかもしれません。しかし、例えば営業や研究開発では、計画通りに進むことの方が稀です。目標を立てたとしても、それを達成する手順が明確に描けるわけではない。きちんとマニュアル化できない領域では、結局、試行錯誤するしかありません。
皆さんが日々の業務で苦労されているのは、まさにこの非定型業務でしょう。だからこそ、OODAループが必要なのです。PDCAで大きな枠組み(P)を決めたとしても、その計画(P)を実行(D)し、目標を達成するプロセスにおいて、現場では無数の試行錯誤、すなわちOODAループが回っています。
PDCAという大きな枠組みの中で、現場がOODAループを回すイメージですね。
その通りです。完全にマニュアル化できる定型業務でない限り、PDCAを回すためには、現場でのOODAループが不可欠です。ただし、注意点があります。OODAは「ループ」なので、条件が満たされるまで回り続けます。目標が達成できればストップすれば良いのですが、PDCAという大きな枠組みがなく、OODAループだけを回してしまうと、組織はめちゃくちゃになってしまいます。
これは禅の考え方に少し似ています。禅には「思ったことを、分別を交えずに即座に行動せよ」という側面がありますが、全員がそれをやりだしたら組織は成り立ちません。だからこそ、禅寺には「清規(しんぎ)」と呼ばれる非常に細かい規則が決められています。
例えば「ここを掃除せよ」という枠組み(P)が決まっているとして、ほうきで掃くか、手で拾うか、どう効率よくきれいにするか(OODA)は、各自で工夫すればいい。ただし、OODAループを回すにも、予算枠や期限といった「枠組み」が必ず必要です。その枠組みを決めるのが、PDCAの役割とも言えます。
マネジメントの鉄則は「現場に介入しない」勇気
その枠組みを管理するのは、マネジャーや管理者の役割ですね。
その通りです。ただし、非常に重要なルールがあります。それは、マネジャーや管理者が「現場に介入してはいけない」ということです。現場での試行錯誤に口出ししてしまうと、だんだんおかしくなります。
ある会社の方から面白い話を聞きました。その会社は新規事業開発でOODAループをうまく回しているのですが、そのコツは何かと聞くと、「役員に注目されないようにしている」と言うのです。役員が「これは面白いな」と思うと、必ず口を挟んでくる。そうなると現場は対応せざるを得なくなり、ややこしくなると。
OODAマネジメントにおける管理者の役割は、「目標管理(MBO)」に近い。「いつまでに、これを実現してほしい。予算と人はこれだけ渡す。やり方は任せる」と、プロジェクトの「入り口(目標やリソース)」と「出口(期限や成果)」だけをしっかりと管理し、その間のプロセスには介入しない、ということです。
とはいえ、現実には多くの会社で、上司による確認や承認、介入が日常的に行われているのではないでしょうか。
そう思います。もちろん、現場からアドバイスを求められたら応じるべきですが、基本は権限移譲です。節目節目でのチェック(承認)や評価は必要ですが、日々の業務プロセスについて指示・命令はしない。これがOODAループを回すための大前提です。
組織でOODAループを「仕組み化」する四つのポイント
どうすればOODAループを組織で実践し、仕組み化していくことができるのでしょうか。
OODAループを組織的に回すための仕組み化には、いくつかの重要な要諦があります。
【ポイント1】「何を見るのか」を定義する
OODAループの出発点は「観察(Observe)」です。ここで重要なのは、「何を観察すべきか」というポイントを定めることです。本当に仕事ができる人は、何を見るべきか、ピンポイントで指標を設定して見ています。
ある会社の社長は、役員会議で「みんなの笑顔がどれだけあるか」を見ているそうです。それによって、指示がどれだけ浸透し、納得感が得られているのかを判断しているのです。ただし、作り笑いではなく、無意識に出る自然な笑顔である必要があります。
また、ある工場では、各工程の「ゴミ箱にどんなものが入っているか」で、プロセスの異常や改善点を見抜くといいます。これらは経験を通じて獲得される「暗黙知」であることが多いのですが、こうした「見るべきポイント」を組織として共有できるかどうかが、OODAループの質を左右します。
「観察」を仕組み化したのが、キーエンスです。同社の商品のヒット率が高い理由は、まさに「観察」にあります。同社では、営業担当者が持っている情報(営業情報)と、開発につながる情報(開発情報)を分けています。重視するのは後者、つまり「ユーザーの生産現場で、今、何が本当に問題になっているか」という生のデータです。
企画担当者が自らリードユーザーの元へ足を運び、現場を「観察」する。そこで得た「こういうものがあれば生産性改善につながる」という潜在的なニーズの洞察(情勢判断=Orient)から、一気通貫で商品開発(行動=Act)につなげる。このOODAループを高速で回す仕組みが、キーエンスの強さの源泉です。
【ポイント2】失敗のデータベースを活用する
観察した情報を基に、「どう判断し、どう動くか(Orient)」を決めます。この精度を上げる仕組み化も重要です。一つは過去のデータ、特に「失敗体験」の共有です。
成功体験は共有されやすくても、失敗体験はなかなか表に出てきません。しかし、貴重な学びはむしろ失敗にあります。ある会社では、過去にプロジェクトで失敗した本人が、その原因を徹底的に分析し、社内研修で後輩に教えているそうです。「轍(てつ)を踏まない」ために、失敗体験を共有し、情勢判断の精度を上げる仕組みです。
もう一つは、AIエージェントの活用です。例えば、営業日報。営業マンが数百人いると、毎日数百通の日報が上がってくるわけですが、一人の人間がすべてをチェックするのは不可能です。しかし、AIエージェントに読み込ませれば、瞬時に分析し、「今、ここで問題が起きている」という兆候をフィードバックしてくれます。定型的な情報処理はAIに任せ、人間はより高度な情勢判断に集中する。これもOODAループを高速化する仕組み化の一つです。
【ポイント3】「問い」を共有する
組織でOODAループを回す場合、先に述べたどの仕組みよりも重要なことがあります。それは「問いの共有」です。
「問いの共有」とは、単にスローガンや目標を壁に貼ることではありません。「今、我々が本当に解くべき課題は何か」「顧客にとっての本質的な価値は何か」といった、組織全体が向かうべき方向を全メンバーが自分事として理解し、納得している状態を指します。共有されて初めて、メンバーはバラバラの方向に試行錯誤するのではなく、同じゴールに向かって自律的にOODAループを回し始めることができます。
私は研修などで、同じ部署の方々に「あなたの部署のOKR(Objectives and Key Results)を書いてください」とお願いすることがありますが、同じ部署なのに、出てくるO(目標)もKR(主要な結果)も、バラバラなことが非常に多い。これは、「今、自分たちの部署にとっての主要な目標(問い)は何か」ということが共有されていないことに他なりません。
アメリカンフットボールの有名なヘッドコーチが「試合はOODAループだ」とおしゃっていました。「いかに勝つか」という大きな問いはもちろん、「この局面をどう乗り越えるか」という具体的な「問い」を、チーム全体で共有しています。共通の問いがあるからこそ、選手一人ひとりが現場でOODAループを回し、チームとしてもOODAループを回すことができるのです。「問い」は、単なる目標ではありません。本質的な課題意識です。
例えば、ある住宅メーカーでは「紹介受注をいかに増やすか」を組織の「問い」にしています。新規営業は難しいので、既存顧客からの紹介が鍵になる。しかし、家という高額な商品を、自分が満足したからといって他人に勧めるのはリスクが伴う。そこで彼らが立てた「問い」は、「“人に紹介したい”と思わせるほどの満足とは、何によって決まっているのか」という、より本質的なものでした。この問いを営業、設計、施工、アフターサービスまで、全部門で共有し、OODAループを回しています。
【ポイント4】失敗を許容し、プロセスを評価する
最後に重要なのが、人事制度、特に「評価」と「インセンティブ」の仕組み化です。OODAループは「試行錯誤」だと言いました。試行錯誤には失敗がつきものです。にもかかわらず、人事評価が「結果(成果)」だけで決まるとしたら、何が起こるでしょうか。誰も試行錯誤をしなくなります。失敗する(=評価が下がる)リスクを冒さず、確実に成果が出ることしかやらなくなってしまうのです。野球で言えば、ホームランを狙わず、バントで確実に塁に進めることばかり考えるような状態です。
イノベーションや新規事業といった、成功確率が非常に低い領域で、組織にOODAループ求めるのであれば、「プロセス評価」を導入する必要があります。例えば、ホンダの「チャレンジ目標制度」がそれに当たります。非常に高い目標を掲げ、それが結果として失敗(未達)に終わっても、そのチャレンジ自体はマイナス評価にはならない。その代わり、プロセスでどれだけ頑張ったか、どれだけ創意工夫したかをしっかりと評価する。このような「失敗しても大丈夫だ」という心理的安全性を担保する評価制度があって初めて、現場はOODAループを回し始めます。
人事部に求められるのは、OODAループを回す現場のマネジャーを支援することです。一つは、人材の特性を見極めること。例えば、ある遊園地の改善について提案をさせるという課題を研修で出したとき、多くの人は既存アトラクションの改善案を出しますが、なかには誰も思いつかない新しいアトラクションを提案する人もいます。前者はPDCA向き、後者はOODAループ向き、といえるでしょう。もちろん、これは適性の話で、OODAループも訓練によって習得可能だと私は考えています。
そしてもう一つが、プロセス評価を体系化することです。「過去5年間ずっとA評価の人」と、「4年間はC評価だったが、最後の1年でとてつもないホームランを打って、S評価になった人」。どちらが先に昇進するでしょうか。多くの日本企業では、前者かもしれません。しかし、イノベーションを目指す組織(OODAループを回す組織)が評価すべきなのは、後者のような人材です。
現場のマネジャーは、プロセスをしっかりと見て評価する責任があります。そして人事部は、「挑戦」や「価値ある失敗」をポジティブに評価できる制度(仕組み)を構築する責任があります。それが難しいのであれば、そうしたことが評価の対象にならない、何らかのどんぶり勘定をあえて設けることが必要かもしれません。
イノベーションは「99回の失敗」に耐えることから始まる
OODAループを実践していく上で、現場のメンバーが意識すべきことは何でしょうか。
まず、管理者は「介入しない」、人事部は「プロセスを評価する」という仕組み(枠組み)を整えることが大前提です。その上で現場のメンバーは、共有された「問い」に基づき、枠組みの中で、自分で考えて創意工夫するしかありません。その際、OODAループの回転を速めるためには「練習」が重要です。
スポーツ選手が、試合で一瞬のうちにOODAループ(見て、判断し、動く)を回せるのは、日々の練習で「こういうケースでは、こう対応する」というパターンを膨大にストックしているからです。ビジネスにおいても、過去の失敗事例や成功事例、あるいは将棋の「定石」のようなものをどれだけ知っているか。そして、知っているだけでなく、あらゆる場面において「思い起こせる」ことが重要です。
その参考事例として、「ポジティブ・デビアンス(Positive Deviance)」という考え方をお勧めします。ベストプラクティス(最高水準の事例)として、「Googleではこんな取り組みを行っている」と言われても、自社との違いが大きすぎると、まねはできませんよね。ポジティブ・デビアンスとは、「あなたの組織の中にいる平均的な人物だが、“ちょっとだけ”うまくやっている人(=片隅の成功者、ポジティブな逸脱者)」を見つけ、その人から学ぼう、というアプローチです。
例えば、「部下から信頼されている上司」を観察してみる。超エリートの役員候補ではなく、自分と変わらないはずなのに、なぜか部下から信頼されている同僚です。観察してみると、「会議が終わった後も、すぐに席を立たずにその場に座っている」ことが分かりました。その方が、部下が話しかけやすいからです。これは、すぐにでもまねできることです。OODAループの実践は、こういう身近な「観察」と「実行(Action)」の積み重ねでもあります。
また、OODAループを回す際、特に現場では「D(意思決定)」をできるだけ省くべきです。観察(O)したら、すぐに情勢判断(O)し、実行(A)する。「OOAループ」をいかに高速で回せるかが、現場の試行錯誤のスピードを決めます。
最後に、イノベーションや新規事業開発を目指しているリーダーの方々へ、メッセージをお願いします。
私自身にも言い聞かせていることですが、イノベーションを目指すリーダーにとって最も重要な資質は、「99回の失敗に耐えられるかどうか」です。私の知人に、アメリカの有名なIT企業で働く一流のプログラマーがいます。彼は、「プログラミングはバグ(失敗)との戦いであり、二流のプログラマーは10回失敗したら諦めるけれど、一流のプログラマーは99回失敗しても諦めず、100回目に成功する」と言っていました。
試行錯誤とは、まさに失敗の連続です。成功している企業も、内側に入れば失敗の山です。「千に三つの成功」と言われるように、997の失敗の影で、たまたま三つの成功が目立っているに過ぎません。その失敗に耐えられるか。心が折れずに、失敗から学べるか。
特に、これまで優秀な成績を収めてきた「エリート」と呼ばれる人ほど、プライドが邪魔をして、自分の失敗を許容できない傾向があります。一度の失敗で心が折れてしまうのです。エジソンが「失敗ではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ」と言ったように、失敗は貴重な情報です。イノベーションを目指すリーダーの皆さんには、失敗を恐れず、失敗にめげず、失敗から学び、挑戦を続けてほしいですね。
(取材:2025年11月17日)
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