“ホッピー流”社員のやる気を引き出し、
組織を成長させていく仕掛けとは?
ホッピービバレッジ株式会社 代表取締役社長
石渡 美奈さん
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「求心力」と「遠心力」のバランスを最大化する
これまでは私のワントップで、その「求心力」だけで引っ張ってくることができました。しかし、次の「破」の段階では、求心力だけでは止まってしまう。「遠心力」が必要となります。駒のように、求心力と遠心力のバランスの最大化によって、組織は回り続けるわけです。
では、求心力と遠心力をどう効かせていくのか?それには、トップの思いを間違いなく現場の、それこそ内定者に至るまで伝わるように翻訳してくれる、リーダーチームが機能していなければなりません。
さらに言えば、一般的にはリーダーチームを10年かけて作っていくと言われているところを、弊社では2~3年で作り上げていきたいと考えています。通常の3分の1のスピードの加速化モデル。それを実現するためにはどうすればいいのかが、私の研究テーマです。
そのお考えは、武蔵野の小山社長の時の学びとは、違う種類のものですか。
小山社長のところでは、方法論を教えていただきました。現在は、それらが理論で裏支えされた感じですね。今まで何となく感覚でやっていたものが、それを証明し支える理論を知ったことにより、自分を支える強くて太い芯となりつつある気がします。社員たちに対して、想いや考えを伝える伝え方も変わり始めたかもしれません。
なぜかと言うと、この段階に来て、じわじわと求心力から、遠心力が効き始めてきた状態かなという「ワクワク感」があるからです。自分でやっていてもますます面白くなってきたなと感じています。
なるほど。大きな組織と比べて、スピード感がありますね。
2011年度内定式(石渡社長、内定者、新卒採用組の皆さん)
これも、新卒採用組が中心となり行っているからでしょう。彼らは内定者時代から、常に私と近い距離で共に育ってくれていますから。
新卒採用を開始して4年が経過し、その社員が29人に達しました。新卒採用組が、全社員の過半数を占めているわけです。これだけの人数がいれば、会社は変わります。プロパーで1からじっくり育ててきた人たちであり、しかも若い。1を聞いて、10を吸収することもできる。あと5年もすれば、非常に面白い組織になるだろうと思っています。
どのように人材を育成してきたのですか。
経営理念やビジョンを語っていても、それだけで人と組織は機能しません。小山社長から教わったように、やはり最初は具体的な方法論をもって動かさないとダメです。動かしていくうちに、何かうまく機能しないなと思ってくるようになります。それでは、何が足りないのかとなった時に、今度は全体像を見ることが必要だと思えるようになってくるわけです。結局、一人ひとりが自分に課されたミッションや会社での自分のやるべきことが明らかになり、理解しないと社員たちは動けない。そういうアプローチを考え始めたのは、今年に入ってからでしょうか。このレベルに来るまでには、5年が必要でした。
石津にしても、内定者時代から含むと、約3年間のホッピーウーマンとしての実践の経験があるから、それと照らし合わせて、自分のミッションや会社の全体像など語ることができるようになったわけです。
それは、現場で培ったリアリズムがあったからですね。
体に叩きこんだ経験知は大きいですね。実感を伴ったリアリズムがないと、さあ理念やビジョンを語ろうといっても、単に夢を語るだけになってしまいます。それでは単なる言葉の空中戦。「皆で頑張ろう!オーッ!」で終わってしまっては、人も組織も成長しません。
本当のことを申し上げれば、今でも社内では言葉の空中戦が多いので(笑)、私はよく社員に話しています。「あなたたちが頑張ろうという気持ちは、誰よりもよく分かっているよ。でも、私たちが必要なのは頑張ろうではない。それについてはお互いが、コミットしているはず。問題は、これから実際どうやっていくのか。それがないと、あなたたちの成長実感がないよね。成長実感がないと、やりがいがないよね。じゃあ、どうする?」
質問をすれば社員たちが考える、考えざるを得ない。これが社員が成長する仕組みです。すると、改めてこれまで学んできた方法論が、また生きてきます。あるいは、もうこれは私たちに必要ないよね、これは捨てたほうがいいよね、という方法論も出てくるわけです。さらに、ブラッシュアップしていく方法論もあります。
「場」を共有することで、社員の気づき、成長を促す
経営者のカバン持ちをさせるなど、経営者の“素の姿”を見せることは、今の若い人たちの自発的な成長を促すことに有効なのでしょうか。
重要なのは、経営者といろいろな「場」を共有させることだと考えています。例えば、私の講演がある時には、何人かの社員を連れていって、私の話を聞いてもらうと同時に、彼ら・彼女らにも話をしてもらいます。さらに、その後で懇親会を開催していただき、参加者の方に当社の商品を飲んでいただきながら、プレゼンテーションの場に変えていく。すると社員たちがさらにお客様と接することになる。こうした「場」の共有が、気づきという点で非常に効果的です。
また「場」の共有についても、公式の「場」の共有と、非公式の「場」の共有があって、当社では縦軸・横軸をいろいろと走らせています。例えば、人事異動を決めたとします。関係する社員を会議室に呼んで決定事項を伝えながら、コミュニケーションをとり、認識の共有を進めて決定のスムーズな進行を図るような場を公式の場とするなら、その人事異動を不満にもった社員がいたとして、例えば、同期の社員たちが励ますことで、その社員ががんばろうと思い、きっかけは同期会だったのだけれど、実際に仕事をしているうちに、楽しみを見出せるようになる。この場合の同期との関わりを非公式の場と位置づけています。
私が内定者から幹部社員に至るまで、必要を感じた時に、「非公式コミュニケーションの場」を設けることも多くありますよ。
「場」を共有するために、いろいろなバリエーションを持つことが大切なのですね。
「公式」しか教えないことの弊害
「破」の段階では、石渡さんに代わる、リーダーの役割が重要になってきます。
多くのリーダーが、「公式」しか教えていないのが現状ではないでしょうか。確かに、公式に従ってその時は動くのですが、それが意味するところを理解しないから、なかなか浸透していかない。因数分解ではありませんが、公式を分解できないのです。だから、本質が分からない。結果、応用が効かないということになっていきます。
公式を分解する力がつかないと、リーダー層で必要となるコンセプチュアルスキルがいつまで経っても身に付いていきません。その結果、現場で起こる事の真相を理解できず、お客さまのニーズもつかみきれない。当然ながら、お客さまの声をずれて聞いてきてしまうので、成果も出るはずがありません。
よく、コンセプチュアルスキルは地頭が良くないと身に付かないと言われますが…。
そんなことはないですよ。ただそのためには、考えるトレーニングを行う「場」を作っていかなければいけません。また、そういう「場」は日々存在します。
例えばなぜ、石渡はこういう発言をするのだろう?と常に考える習慣がつくといい。社長ですから、会社を悪くしようと思って言っているはずはない。ましてや、自分たちをいじめようとして言っているわけでもない。だから、絶対に何か意味があるはず。そう言えば、こんなことも言っていたな…。そういう風に考えることができるようになれば、発言の真髄をつかむことができます。さらに、そこから創造力を発して応用、どんどん伸びていきます。そうすると俄然、仕事が面白くなってきます。
このようなコンセプチュアルスキルが身に付くと同時に、クリエイティビティが発揮されてきます。そして、お客さまに共鳴していただける表現力も身に付いていく。でも、単なる表現力だけではダメです。また、何となくクリエイティビティがありそうに見えるけれど、思いつきの発想力だけでは長続きしません。やはり、本質をつかむ力が重要なのです。「それを一言で言うと何?」という力がないと、応用していくことができません。
単なる拡大は考えず、「人の縁」を軸に展開
今後、どのような展開を考えていますか。
当社では、新卒を定期的に採用していますが、地方から出てきた社員たちも多くいます。その中では、最終的には郷里に戻らなくてはならない人が出てくることもあるでしょう。しかし、ホッピーには携わっていたいと希望するならば、例えば飲食店を経営して独立するという方法があると考えています。
すでに、幾つかの業態を想定して、屋号をいくつか商標登録しています。例えば、ホッピーOB・OGに対しては、その屋号を希望すれば使えるようにする。暖簾分けのようなイメージです。また、その屋号を使っているお店はホッピーOB・OGの店だから、絶対にホッピーが美味しいと。あるいは、ホッピーOB・OGによるホッピーの支店、派出所のような展開はあるかもしれません。やはりホッピーを根付かせるためには、ホッピーを愛する人が必要不可欠というのが私の持論、商いは人と人、皮膚感覚ですよね。そういう意味でのアメーバ的な展開は、頭の中にはあります。ただしいわゆるFCのような全国展開は考えていません。
人を中心とした、ファミリー的な展開を考えているわけですね。
せっかく、縁があって知り合った社員ですから、彼ら・彼女らがホッピーに関わりたいと思っているのなら、「生涯ホッピー」ということで人生を幸せに過ごせる事業展開は考えていきたいと思っています。そうすれば、一生ホッピーファミリーでいられますしね。
石渡さんの人と組織に対するお考えが、とてもよく分かりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。