「対立」はイノベーションの源泉
組織を前進させるコンフリクト・マネジメントとは
武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授
宍戸 拓人さん
新たな価値をもたらす「タスク・コンフリクト」を生かすために
互いの背景と利害を知り、協調へ向かうためには、どのようなコミュニケーションが必要となるのでしょうか。
コンフリクト・マネジメントの研究では、この点をより探求するためにコンフリクトの中身にフォーカスしていきました。そうして見出されたのが、「タスク・コンフリクト」と「リレイションシップ・コンフリクト」という異なる種類の対立があるという考え方です。
「自社の商品が売れているけれど、お客さまはあまり満足していない。販売から商品企画側に意見をしてみんなで議論しよう」。これがタスク・コンフリクトで、企業に新たな価値をもたらすものです。それに対して、「また販売が変な話を持ってきた」「商品企画は何も分かっていない」と子どものケンカのように仲違いしてしまうのがリレイションシップ・コンフリクトです。
まず求められるのは、この二つのコンフリクトを区別すること。社内で起きているのは、顧客満足や競合への対処といった外向きの理由から生まれた対立なのか。それとも、誰かの負の感情や個人的な都合から生まれた対立なのかを考えるのです。
前者の「タスク・コンフリクト」は企業にとって重要な対立であり、意見の違いを乗り越えて協調していく必要があるということですね。
はい。そのヒントになり得るものとして、近年ではコンフリクトの表現に注目する研究が進んでいます。誰かの意見に反対だとしても、「私は反対だけど一緒に考えよう」と伝えるのと、「あなたの言っていることは間違っている」と一方的に否定するのとでは、相手の受け止め方はガラリと変わりますよね。
自分と相手の意見が違うことをはっきり伝えることは大切です。「うーん、どうなんだろう?」と濁した反応をしていては、議論が前に進みません。一方では自分の意見に固執しすぎないことも重要。「もうこれは決まったことだから」と異論を切り捨ててしまうと議論になりません。
つまり、「対立の有無をはっきり伝えられるか」という軸と、「自分の意見を柔軟に変えられるか」という軸があるということです。多くの人が直感的に仕事がしやすいと感じるのは、対立のポイントをはっきり示しつつ、柔軟に考えてくれる相手でしょう。「その意見には賛成できないけれど、一緒に考えようか」と反応してくれる上司がいれば、タスク・コンフリクトを起こしつつも、それを乗り越えて新しい価値を生み出せるのではないかと思います。
日本企業では、「対立の有無をはっきり伝える」ことがはばかられると感じている人も多そうです。
そうですね。直接的に反対意見を言うことを好ましく思わない風土の企業も多いでしょうし、ましてや部下から上司へは、直接意見をぶつけるのも難しいかもしれません。「察しろよ」といった文化ですね。
最悪なのは、対立の有無をはっきり伝えない上に、柔軟さも持ち合わせていない上司がいる組織でしょう。部下は「あの上司に言っても無駄だ」と感じるようになり、だんだんとあきらめが広がって、表面的には波風なく落ち着いた感じのまま、組織が内側から腐っていきます。その中で出世するのは、上司に忖度(そんたく)して空気の読める人ばかりです。
だからこそ、「対立の有無をはっきり伝える」「自分の意見を柔軟に変える」というポイントを大切にしてコミュニケーションを図っていくべきなのです。
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