出る杭を伸ばす組織を目指して
大企業病に挑む若手・中堅有志団体One JAPANが、
人事に求めること(前編)
One JAPAN 共同発起人・代表/パナソニック株式会社
濱松 誠さん
「大企業病」――意思決定のスピードが遅く、変化を好まない組織風土。そこで働く若手社員たちは、近年の急速な経済環境の変化の中で、変革の必要性を感じながらも、身動きがとれない悩みを抱えています。こうした大企業の「変われない空気」を打破するため、2016年9月に発足したのが、大企業の若手有志団体のプラットフォーム「One JAPAN」。パナソニックや富士ゼロックス、NTTグループなど、日本を代表する大企業45社の有志団体によって構成される「One JAPAN」では、各企業の若手・中堅社員が持つ力を結集させ、活性化や共創を生むコミュニティ作りを目指しています。企業の垣根を超えた場を主体的につくりだしたことへの高い評価と、大企業の組織風土変革の推進力としての期待から、「HRアワード2017」企業人事部門「特別賞」を受賞したその取り組みについて、共同発起人・代表である濱松誠さんにお話をうかがいました。
はままつ・まこと● 1982年京都府生まれ。大学卒業後、2006年パナソニックに入社。海外営業、インド事業企画を経て、本社人材戦略部に異動。グループ採用戦略や人材開発を担当。2012年、若手主体の有志団体「One Panasonic」を立ち上げ、組織の活性化やタテ・ヨコ・ナナメ・社外の交流に取り組む。2016年には同社初となるベンチャー企業(パス株式会社)への派遣人材に抜擢。現在は、同社家電部門にて、IoT家電事業の事業開発に従事。
大手企業の若手・中堅有志社員が集まるコミュニティ「One JAPAN」
まずは、日本の人事部「HRアワード2017」企業人事部門 特別賞の受賞、誠におめでとうございます。
ありがとうございます。多くの人事担当者の方々の投票によって選んでいただいたことを、とても光栄に思います。私も昨年まで人事にいたので、知り合いの人事担当者の方からも、たくさんの祝福の言葉をいただきました。皆さまのご期待に応えられるよう、さらに活動を広げていきたいと思っています。
One JAPANは「大企業の若手・中堅有志団体のコミュニティ」として、2016年に立ち上げられました。まず、成長意欲のある若手社員が集まる場をつくろうと思った背景について、お聞かせいただけますか。
社内で「One Panasonic」という若手有志団体を2012年に立ち上げたのですが、そのきっかけは、私がパナソニックに新卒入社した2006年、内定者との懇親会を企画したことにまでさかのぼります。私がまだ内定者だったころ、先輩社員と交流する機会はほとんどありませんでした。入社前に社内のことを知る手段も限られていて、ベンチャー企業や外資系企業に就職した友人たちが内定先の先輩社員と懇親を深めたり、社長と食事したりしているのがうらやましかったんです。そこで、後輩には同じ思いをさせまいと企画したのが、その懇親会でした。
大企業は採用人数が多いため、同期との結束力が強いように思われがちですが、何せグループの従業員が30万人規模という巨大組織。新人が同じ部署に配属されることはあまりありません。あっても数名程度です。20代の社員が少ない部署も多く、大企業の若手社員は意外と孤独なのです。「各部署に配属された若手社員同士がつながれるきっかけになれば。」そんな思いで6年間、内定者懇親会を続けていたら、400人の若手ネットワークができていました。
2011年にパナソニック、パナソニック電工、三洋電機が統合し、2012年、会社として「One Panasonic」のスローガンが掲げられたのですが、そこで若手社員たちにもこのスローガンを「自分ごと」として捉えてもらえるよう、全社の若手社員がつながりあう交流会を企画したのが、若手有志団体「One Panasonic」発足の経緯です。
「One Panasonic」では、どのような活動をされていたのでしょうか。
One Panasonicでは、若手社員同士の交流で「横」のつながりをつくるのはもちろん、経営幹部を招いて若手社員に向けたメッセージを近い距離で直接発信してもらうことで「縦」の結びつきを強めたり、部課長クラスのミドルマネジメント層と部署を超えた「斜め」の関係をつくったりするサポートも行っています。また、「モノ博」という、社内で新たに開発した商品やその部署一押しの商品を集めた展示会も有志で実施しました。パナソニックは事業部が分かれているため、社員でも他部署の商品を知らないことがあります。展示会を行うことで、自社の商品や技術を知り、他の事業への理解を深めることができる。パナソニックでいうところの「クロスバリューイノベーション」につながる、そう思ったんです。
「One Panasonic」発足から3周年の際に実施した参加者のアンケートでは、参加によって「意識が変わった」という回答が全体の91%に上りました。さらに、「行動が変わった」という回答も82%。若手社員たちには、それぞれの思いを共有することで、「挑戦していいんだ」「挑戦できるんだ」という意識の変化が生まれたように感じています。
社内の有志団体にとどまらず、One JAPANとして社外まで輪を広げようと決意したきっかけは何でしたか。
One Panasonicを立ち上げて1、2年ほど経った頃、共同発起人の大川陽介さん、山本将裕さんと出会いました。大川さんは富士ゼロックスで、楽しく働きたいという思いを持った社員同士がカジュアルにつながる有志団体「秘密結社わるだ組」を、One Panasonicと同時期に立ち上げていました。その頃、山本さんも大企業の組織文化への課題感から、何かできないかを考えていて、のちに所属するNTT東日本で、NTTグループを横軸として人と人との縁をつなぐ「O-Den」を立ち上げます。One PanasonicのことをSNS等で発信していると、日々、社外の同年代の人たちとつながる中で、「同じような活動をしているので、意見交換をしたい」「One Panasonicのような団体を作りたいから、話を聞かせてほしい」という、大きく分けて二つの声が寄せられるようになりました。
そこでまずは5、6社の団体が集まり、「有志活動の大変なところ」や「活動において工夫しているところ」など、事例の共有が中心の勉強会を行うことにしました。開催して良かったのは、まず「同じ課題に立ち向かう仲間がいる」と知ることができたこと。それから「どの団体も、悩みはほとんど一緒」だと発見できたことです。それなら、情報やナレッジシェアリングのできる場があった方が、それぞれの団体の機動力が上がるのではないかと考え、「One JAPAN」の発足に至りました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。