見えにくいけれど大切なものを見えるようにする社会学的視点
組織を変えたい人事のための
「組織エスノグラフィー」入門(後編)[前編を読む]
法政大学キャリアデザイン学部 准教授
田中 研之輔さん
エスノグラフィーは、人事が人事の本分を取り戻すためのスキル
もう一つ、大切なことがあります。これからは定年年齢がどんどん上がっていくでしょう。65歳から70歳へ、70歳から75歳へ。個人的には、80歳定年もあり得ると思っています。働き手が決定的に足りませんから。
元気で、知識も経験も豊富なシニア人材には、企業もぜひ残ってほしい。そうなると、組織内のダイバーシティがさらに進むので、働く人の貢献を数字だけで単純に評価することの合理性はますます失われていくはずです。働き方の「質」がより問われ、人事にはエスノグラフィックなコミュニケーションが求められます。定年延長というトレンドと照らし合わせても、組織エスノグラフィーへの注目は、まさに時代の必然であると言えます。
また、80歳まで働く時代が来れば、生涯に3社、4社勤め上げるというキャリアがあっても不思議ではありません。一つの組織の論理にべったりなじむのではなく、複数の組織やフィールドを移動しながら成長してきた働き手には、異なる原理やルールを相対化して見ることのできる“眼”が養われている。つまり、組織エスノグラファーとしての人材価値も期待できるということです。
ありがとうございました。最後に、全国の人事担当の方々へ向けて、メッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、パフォーマンスの数字だけを見て、この人はA、この人はB、この人はCと振り分けるのがメインの仕事なら、これからの時代、人事はもう必要ありません。その部分はすべてテクノロジーが代わってくれますから。人事の本分は、数字やテクノロジーからこぼれ落ちる部分をきちんと見ていくこと。現場で働く人の声や行動に向き合って、目に見えない部分を丁寧にすくい上げていくことが、何よりも求められます。そのためのスキルとして、エスノグラフィーを使ってほしいですね。組織エスノグラフィーが求められる時代は、人事が、人事としての役割をもう一度取り戻す時代と言えるでしょう。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。