リスクガバナンスの強化 ~戦略とリスクの統合~
三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部
サステナビリティビジネスユニット GRCコンサルティング部 マネージャー
山内 哲也氏

日本企業におけるリスク管理態勢の現状
「リスク」とは、一般的には損失を表す言葉として捉えられていますが、本来は「目的に対する不確かさの影響」を意味し、損失(ダウンサイド)だけでなく、機会(アップサイド)も含む概念です。企業におけるリスク管理も、損害や不祥事など企業価値を損なう事象への対応だけでなく、適切にリスクを評価し、適切なリスクテイクを実行することで成長機会を拡大することや、戦略未達による価値創造の失敗や機会損失の低減など、「攻め」の観点も含めて実行することが重要となります。
本稿では、日本企業における、「攻め」と「守り」を統合したリスク管理の実現に向けて、その課題と解決策について検討します。
リスク管理のあるべき姿と一般的な課題
リスク管理は、取締役会(経営の監督)と執行役員(業務執行)の双方において、企業戦略と一体的に取り組むことが重要です。取締役会は、企業戦略の方向性を示す際に、戦略に伴うリスクについて十分に検討する必要があります。一方、執行側でも、企業戦略の実行に当たり、戦略にひも付くリスクを適切に管理することが重要となります。
しかし、多くの企業では、リスク管理を実行する監督機能と執行機能の役割が曖昧であり、適切な態勢が構築できていません。また、戦略とリスクが別物として扱われ、切り離されて議論している事例も散見されます。結果として、組織目標にそぐわないリスク管理活動を行ってしまう恐れがあります。
戦略とリスクをひも付けるリスクアペタイトの設定
ここからは、リスク管理態勢の高度化施策について検討します。戦略とリスクを一体的に検討するためには、「リスクアペタイト」を定義することが、効果的な取り組みの1つとなります。リスクアペタイトとは、「価値創造のために引き受けるリスクの種類と量」を意味し、企業目的の達成のために、戦略策定や意思決定時における、リスクに関する方針やよりどころとなります。
具体的には、どのようなリスクをどの程度取ってビジネスを行うのか、どの程度の収益性を目指すのかを明確にし、企業経営の指針とします。これは、企業目的の達成や企業価値向上の基盤となるもので、戦略と整合したリスクアペタイトを定義し、組織としてのリスク管理態勢の高度化を図ることが重要です。
また、取締役会を含めた経営層による、トップダウン型でのリスク抽出も重要です。多くの日本企業では、リスク調査票などを用いて現場レベルでリスクの特定と評価を行い、その結果を集約するボトムアップ型で全社的なリスクを把握しています。この手法は、現場に関連するリスクの把握には効果的ですが、全社戦略に関わるリスクや部門横断的なリスク、または過去事例のない新たなリスク(エマージングリスク)の把握には不向きです。
そこで、経営目線でのトップダウン型によるリスク抽出が必要となります。経営層が議論を行い、全社戦略に関わるリスクについても特定することで、現場レベルだけではなく、より広範で組織の目的に適したリスク管理が可能となります。
まとめ
リスク管理は、企業の成長戦略を実現するための基盤となる、重要な取り組みです。しかし、多くの日本企業において、戦略とリスクに関する取り組みが分断されている事例が多く見受けられます。そのため、企業戦略と整合した全社的なリスク方針や、指針となる「リスクアペタイト」を設定し、適切なリスクの引き受けや収益性を明確にすることが重要です。また、経営層が、全社戦略に関連するリスクをトップダウン型で抽出するなどの取り組みにより、戦略とリスクの統合が進み、「攻め」と「守り」の両面から、リスク管理態勢の高度化を図ることが可能となります。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループのシンクタンク・コンサルティングファームです。HR領域では日系ファーム最大級の陣容を擁し、大企業から中堅中小企業まで幅広いお客さまの改革をご支援しています。調査研究・政策提言ではダイバーシティやWLB推進などの分野で豊富な研究実績を有しています。未来志向の発信を行い、企業・社会の持続的成長を牽引します。
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