在宅勤務者のメンタルヘルスの現況 在宅勤務は何をもたらすのか
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 政策研究事業本部 共生・社会政策部 研究員 森芳 竜太氏
本稿では、2020年10月時点で在宅勤務を行っている者を対象として実施したアンケートの結果に基づき、メンタルヘルスの不調を抱えている可能性が高い労働者にどのような特徴があるのか、また、企業の取り組み・上司によるマネジメント・個人のセルフケアがメンタルヘルスの状態とどのように関連しているのかについて分析を行った。
平成 28年国民生活基礎調査と比較して、メンタルヘルスの不調を抱えている可能性が高い労働者が多い傾向が見られた。
メンタルヘルスの不調を抱えている可能性が高い労働者には、職種は「現業職」「サービス職」、勤め先や職場での勤続年数は「1~2年未満」「2~3年未満」、仕事の性質は「業務範囲が都度替わる・明確ではない」、コロナ禍以前からの仕事の時間は「増加」しているといった特徴が見られた。
企業による従業員の健康管理のための取り組みは、「コロナ禍以前(2020 年1月)から、積極的に取り組んでいる」場合、情報提供や相談窓口の設置などのメンタルヘルス対策に取り組んでいる割合が高く、こうした企業では従業員のメンタルヘルスの状態も良い様子がうかがわれた。なお、中堅・中小企業ではこうした取り組みが進んでいない傾向も見られた。
上司が意識的に取り組んでいるマネジメントの内容を見ると、メンタルヘルスの状態が悪い労働者は「該当するものはない」と回答している割合が高く、上司が業務の内容や部下の特性に合わせたマネジメントを行う重要性が示唆された。
個人による健康管理は、メンタルヘルスの状態が良い労働者では、「規則正しく朝・昼・夕の食事をとっている」「バランスのとれた食事をしている」など、多くの項目で実施している割合が高く、在宅勤務下においても意識的に規則正しい生活を送ることが、メンタルヘルスの不調を予防することにつながることがうかがわれた。
1. はじめに
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、多くの企業でテレワークが導入・実施された。当初は緊急時対応として急速に普及拡大したテレワークであるが、2020年4月から5月の緊急事態宣言から間もない2020年7月時点においても、テレワークの本格活用を進めるといった企業が一定数存在しており(※1)、「新しい働き方」のひとつとして位置づけられつつある向きもある。
一方、短期間でのテレワーク導入、またその長期化に伴い、課題も浮き彫りになってきている。企業からは、テレワークに向かない職種との不公平感、テレワーク勤務者の評価制度、組織内のコミュニケーション不足などが主な課題として挙げられており、従業員からは上司や同僚とのコミュニケーション、就業環境などが挙げられている(※2,3)。
こうした課題からもうかがえるように、テレワークの普及拡大により、従業員は、これまでとは異なる働き方に、短期間で適応する必要が生じたと考えられる。仕事の進め方だけでなく、在宅での就業環境・機器など、仕事をするための環境整備面での課題も生じ、こうした点は少なからずストレス要因となっていることが推測される。また、テレワークによって在宅で過ごす時間が増えたことで、私生活のあり方も変化していると考えられ、仕事・私生活両面の変化が、心身に影響を及ぼしていることが懸念される。
厚生労働省では、「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」において、企業が「過重労働対策やメンタルヘルス対策を含む健康確保の措置を講じる必要がある」とし、「テレワークを行う労働者の健康確保を図ることが重要」としている。テレワークが普及拡大する中で、従業員のメンタルヘルス対策に取り組む必要性もいっそう高まっていると考えられる。
こうした問題意識に基づき、本稿では特に精神面への影響に着目し、在宅勤務者のメンタルヘルスの現況を検討する(※4)。分析にあたっては、2020年10月時点で在宅勤務を行っている労働者2000名を対象としたアンケートの結果を活用し、どのような層が特にメンタルヘルスの不調を抱えている可能性が高いのかを、K6(※5)という尺度を用いて検討する(アンケートの概要は最終ページに記載)。
あわせて、厚生労働省による「労働者の心の健康の保持増進のための指針」において、メンタルヘルス対策を「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」に区分していることを踏まえ、「全社レベル」における企業の取り組み、「職場レベル」での上司によるマネジメント、「個人レベル」のセルフケア(健康管理のための取り組み)の三つの階層と、労働者のメンタルヘルス対策の関係性を検討する(※6)。
(※1)独立行政法人労働政策研究・研修機構「テレワークは今後も定着していくか? 生産性の高いテレワーク実現に向けた方策提言」2020年7月31日
(https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/042_200731.html)
(※2)独立行政法人労働政策研究・研修機構「『ニューノーマル』へシフトする企業」2020年12月11日
(https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/051_201211.html)
(※3)厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会 第4回 資料1」2020年11月16日
(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kintou_488802_00001.html)
(※4)テレワークは、一般に在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイル勤務に区分されるが、コロナ禍で主に拡大したのは在宅勤務であることから、本稿では在宅勤務を行う労働者に注目している。ただし、本調査では自宅等で勤務を行う労働者の他、サテライトオフィス勤務を行う労働者も調査対象に含んでおり、両者を合わせて「在宅勤務者」と呼称している点に留意されたい。
(※5)うつ病・不安障害等の精神疾患のスクリーニングを目的として、Kessler ら(2003)によって開発された尺度(日本語版は Furukawa ら(2008)によって開発)。国民生活基礎調査においても活用されている。
分析にあたっては、(a)神経過敏に感じましたか、(b)絶望的だと感じましたか、などの 6 項目について、各項目の選択肢を「全くない」(0 点)、「少しだけ」(1 点)、「ときどき」(2 点)、「たいてい」(3 点)、「いつも」(4 点)と点数化し、合計点(以下、K6 得点)を算出した後、国民生活基礎調査に合わせてカテゴリ化して用いた。以上の通り、K6 得点が高いほど、精神的な不調を感じている度合が強いことを表す。
Kessler, R.C., Barker, P.R., Colpe, L.J., Epstein, J.F., Gfroerer, J.C.,Hiripi, E., Howes, M.J, Normand, S-L.T., Manderscheid, R.W., Walters,E.E.,
Zaslavsky, A.M. (2003) Screening for serious mental illness in the general population Archives of General Psychiatry. 60(2),184-189.
Furukawa TA, Kawakami N, Saitoh M, Ono Y, Nakane Y, Nakamura Y, Tachimori H, Iwata N, Uda H, Nakane H, Watanabe M, Naganuma Y, Hata Y,
Kobayashi M, Miyake Y, Takeshima T & Kikkawa T (2008) The performance of the Japanese version of the K6 and K10 in the World Mental Health Survey Japan. Int J Methods Psychiatr Res, 17, 152-158.
(※6)本調査は在宅勤務の実態把握を目的に実施した調査であるため、企業の取り組み・上司によるマネジメント・セルフケアに係る調査項目の設定にあたっては、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に沿う形で作成したものではない点に留意されたい。
2. 性・年代別にみたメンタルヘルス不調者の状況
性・年代別にK6得点の分布を見ると、性別による大きな差は見られず、若年層でK6得点が高い者が多い傾向が見られた。平時の状況と考えられる「平成28年国民生活基礎調査」と比べると、いずれの性・年代でも、在宅勤務者にはメンタルヘルスの不調を抱えている可能性が高い人(以下、高リスク者)が多いと言える(※7)。
なお、この傾向は当社が 2020 年 5 月に実施した調査(以下、前回調査)と同様である。前回調査では調査対象者の在宅勤務の実施状況を問わなかったのに対して、本調査は調査対象者を 2020 年 10 月に在宅勤務をした人に限定している。在宅勤務が感染不安を軽減するという点で、メンタルヘルスの状態改善につながる可能性も指摘されているが(※8)、在宅勤務者以外を含む前回調査と比して本調査における K6 得点の分布に大きな違いは見られなかったことを踏まえると、依然として多くの高リスク者が存在している様子がうかがえる(※9)。
(※7)平成28年国民生活基礎調査では、K6得点が10点以上の者の割合は、概ね10%~15%程度であった。なお、本調査は15歳~59歳の男女を対象としているが、前回調査、平成28年国民生活基礎調査は20代から60代の男女を対象としている点に留意されたい。
(※8)尾島有美「緊急事態宣言下におけるテレワークの有用性」2020年7月27日(https://www.murc.jp/report/rc/other/survey_covid-19_200727/)
(※9)在宅勤務を実施していない労働者のメンタルヘルスの状態は、本調査からは明らかにできていないため、今後の検討が求められる。
(※10)(図表出所)森芳竜太「緊急事態宣言下における人々の精神的な不調」2020年6月1日(https://www.murc.jp/report/rc/other/survey_covid-19_200601/)
3. 高リスク者の特徴(1)基本属性
それでは、在宅勤務者のうち、高リスク者にはどのような特徴があるのだろうか。
回答者の属性別に、K6得点が「10点以上」の回答割合を見ると、職種別には「販売職」「サービス職」等の現業職の回答者において、勤め先での勤続年数別には「1~2年未満」「2~3年未満」のコロナ禍以前に就職したと想定される回答者において、いずれも「10点以上」の割合がわずかに高くなっている。さらに、K6得点が「5点以上」にまで範囲を広げると、とりわけ勤め先での勤続年数や職場での勤続年数が短いほど、回答割合が高くなっている(※11)。
現業職については、他職種と比べると対人接触が多く、感染不安が上記結果の要因となっている可能性もあるが、これまで在宅勤務を行うことが想定されていなかった中、急に在宅勤務を実施することとなり、(現業職に比べれば在宅勤務を行いやすいと想定される)他職種に比べると業務の進め方や環境整備などの課題が大きく、それが上記結果の要因となっている可能性もあるだろう。
また、勤続年数については、勤め先での勤続年数だけでなく、職場での勤続年数が短い場合でも、高リスク者が多いという特徴があった。したがって、新卒社員や中途採用の社員に限らず、異動直後の社員などにおいても、メンタルヘルスの不調を抱えやすい可能性が考えられる。
4. 高リスク者の特徴 (2)仕事の性質
また、在宅勤務の向き不向きは、仕事の性質によっても異なると考えられる。仕事の性質上、在宅勤務に不向きな者が在宅勤務をせざるを得ない状況に置かれた場合、そのことが業務遂行上の課題を生じさせ、ストレス要因となっていること(さらには、メンタルヘルスの状態悪化を引き起こしていること)も懸念される。
そこで、仕事の性質別に、K6得点が「10点以上」の回答割合を見ると、「業務の自律性・裁量性」や「個人で行う仕事か、チームで行う仕事か」では、「どちらとも言えない」において「10点以上」の回答割合がやや高いものの、全体として大きな傾向の違いは見られないのに対して、「業務範囲の明確性」については、「業務範囲が都度替わる・明確ではない」ほど、「10点以上」の回答割合が高くなる傾向が見られる。
「業務の自律性・裁量性」や「個人で行う仕事か、チームで行う仕事か」は、業務の進め方に係るものと解釈できる。従業員規模や業務の内容などによって、自律性・裁量性が大きい方が効率的な場合もあれば、指揮系統に沿って対応した方が効率的な場合もあると考えられるが、そうした方向性が明確でない(どちらとも言えない)場合、業務遂行上の課題が生じ、ストレス要因となるのかもしれない。
対して、「業務範囲の明確性」は、そもそも業務が何を目指しているものか、それを踏まえて個人が行うべきことは何かといった役割に係るものと解釈できる。とりわけ、コミュニケーションが取りづらいとされる在宅勤務下では、個の役割が明確化されている方が仕事を進めやすいと想定されることから、「業務範囲が都度替わる・明確ではない」ほど業務をしづらく、それに伴って高リスク者の割合が増える傾向が見られた可能性がある。
5.高リスク者の特徴(3)労働時間の変化
さらに、在宅勤務で通勤時間が削減された分を仕事に費やすなど、かえって労働時間が増加した層も存在すると考えられる。こうした層では、メンタルヘルスはどのような状態にあるのだろうか。
コロナ禍以前(2020年1月以前)に比べた際の、2020年10月1週間当たりの仕事の時間(通勤時間を除く)の変化別に、K6得点の分布をみると、K6得点が「10点以上」の回答割合は、仕事の時間が「増加」した層と「変化なし」の層で大きな傾向の違いは見られなかった。しかし、「5点以上」まで範囲を拡大すると、仕事の時間が「増加」した層では「変化なし」の割合を大きく上回っていた。
したがって、在宅勤務を行っている労働者において、労働時間が増加した層でメンタルヘルス不調者の“予備軍”とも言うべき存在が増えていると考えられる。労働時間の増加、およびそれに伴うメンタルヘルスの状態悪化は、在宅勤務だけが要因とは言えないが、移動時間の削減分を仕事に費やしたり、集中するあまりかえって長時間労働になってしまったりする場合もあるだろう。企業による労務管理、長時間労働防止の取り組みは、在宅勤務下にあっても依然として重要であると言える。
6. 「企業の取り組み」とメンタルヘルスの関係
ここまで、高リスク者にどのような特徴があるかを確認してきた。続いて、メンタルヘルス対策における、「全社レベル」の企業の取り組み、「職場レベル」での上司によるマネジメント、「個人レベル」のセルフケアの三つの階層について、労働者のメンタルヘルスの状態との関連を見ていく。
初めに、企業の取り組みと、K6得点の関係を見ていく。企業が従業員の健康管理のための取り組みを開始した時期別に見ると、K6得点が 10点以上の者の割合は、「コロナ禍(2020年1月)以前から、積極的に取り組んでいる」(18.4%)に比べ、「コロナ禍(2020年2月)以降、積極的に取り組み始めた」(30.4%)、「現在でも、特に取り組んでいない」(28.8%)の方が高くなっている。
また、取り組みの開始時期別に、実際に取り組んでいる内容を見ると、「『ストレス解消・メンタルヘルスケアに関する』情報提供、研修・イベントの実施等」や「体調やメンタルヘルス面での悩みの相談対応」は、「コロナ禍(2020年1月)以前から、積極的に取り組んでいる」企業の回答割合が高い。特に、相談対応では、約18ポイントの差がある。
これらのことから、コロナ禍以前から従業員の健康管理に取り組んできた企業は、コロナ禍以降に取り組み始めた、または現在も取り組みを行っていない企業よりも従業員のメンタルヘルス対策のための取り組みを進めており、実際に従業員を見ても、高リスク者の割合が低くなっている様子がうかがえる。
さらに、従業員規模別に、従業員の健康管理のための取り組みを開始した時期を見ると、従業員規模が大きいほど「コロナ禍(2020年1月)以前から、積極的に取り組んでいる」の回答割合が高い傾向が見られる。
また、従業員規模別に取り組み内容をみると、「『運動に関する』情報提供、研修・イベントの実施等」や「『食事・栄養に関する』情報提供、研修・イベントの実施等」は大きな傾向の差が見られないのに対して、「『ストレス解消・メンタルヘルスケアに関する』情報提供、研修・イベントの実施等」や「体調やメンタルヘルス面での悩みの相談対応」については、規模が大きいほど実施している割合が高い傾向も見られる。
したがって、とりわけ中小・中堅企業において、従業員のメンタルヘルス対策に取り組む必要性がうかがわれる。自社独自でメンタルヘルス対策を進めることが困難な場合には、事業場外の資源を活用するといった対応も求められるようになるかもしれない。
7.「上司によるマネジメント」とメンタルヘルスの関係
続いて、上司が意識的に取り組んでいるマネジメントと、K6得点の関係を見ていく。K6得点別に、上司が意識的に取り組んでいるマネジメントを見ると、K6得点が高い層では、「上司はあなたの話をよく聞いてくれる」「上司はチームワークを大事にしている」「上司はあなたの仕事ぶりをよく見ている・把握している」「雑談の機会が多い」などの回答割合が低くなる傾向が見られた。
また、「該当するものはない」の回答割合は、K6得点が「10~14点」および「15点以上」のいずれにおいても 5 割を上回っており、そもそも上司が、選択肢に挙げたようなマネジメントに意識的に取り組んでいない様子もうかがえる。
どのようなマネジメントが有効かは、仕事の性質や個人の性格特性等、様々な要因に左右されることから、ここで挙げたようなマネジメントを行うことが、メンタルヘルス対策として普遍的に有効であるとは言えないが、先に見た通り、仕事の性質とメンタルヘルスの状態に関連性があることも踏まえると、少なくとも職場の実態に即してマネジメントを工夫することは、部下のメンタルヘルス対策にもつながると考えられる。
8.「個人のセルフケア」とメンタルヘルスの関係
最後に、個人のセルフケアと、K6得点の関係を見ていく。K6得点別に、健康のために気を配っていることを見ると、 K6得点が10点以上の層では、多くの選択肢について回答割合が低く、一方で「特に何もしていない/該当するものはない」の回答割合が高い傾向が見られる。
コロナ禍においても、毎日同じ時間に食事をする、毎日運動をする、睡眠のリズムを保つなどの規則正しい生活習慣は、メンタルヘルスの状態を改善するうえで重要と指摘される(※12)。こうした生活習慣を整えるうえでは、メンタルヘルスに大きな不調を抱えていないことが前提になる面もあると考えられ、セルフケアとメンタルヘルスは双方向的な関係にあると想定されるものの、単に身体的な健康のためではなく、精神的な健康を維持するうえでも、生活習慣を整えることの重要性がうかがわれる。
(※12)日本うつ病学会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ:先の見えない中であっても、日常の生活リズムには気を付けよう」2020年4月7日
(https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/2020-04-07-2-covid-19.pdf)
9.まとめ
本稿では、在宅勤務を行っている労働者を対象にしたアンケート調査に基づき、どのような労働者がメンタルヘルスの不調を抱えている可能性が高いのか、また、労働者のメンタルヘルスの状態と、企業・上司・個人による取り組みはどのように関連しているかについて分析を行った。
まず、「販売職」や「サービス職」といった現業職や、勤め先や職場での勤続年数が短い社員がメンタルヘルスの不調を抱えている可能性が高い様子がうかがわれた。さらに、仕事の性質としては、「業務範囲が都度替わる・明確ではない」場合に、メンタルヘルスの不調を抱えやすい可能性が認められた。新入社員や中等採用の社員だけでなく、異動直後の社員についても、仕事の進め方が分からず、上司や同僚などに聞きたいことが多いため、不安を感じやすい可能性が指摘されているが(※13)、本調査の結果からもこうした傾向が確認されたと言える。
このほか、コロナ禍以前に比べ労働時間が「増加」している層でも、メンタルヘルスの不調を抱えている可能性が高い様子が見られた。在宅勤務下では、社員(部下)の仕事の状況が把握しづらい、労働時間を適正に把握しづらいといった課題もあるとされるが、こうした課題を解消し、長時間労働を抑止していくことも今後いっそう求められるだろう。
また、企業がメンタルヘルス対策に取り組んでいる場合や、上司が現場の実態に即したマネジメントに力を入れている場合、さらに労働者自身が生活習慣の改善に努めている場合は、総じてメンタルヘルスの状態が良い傾向もうかがわれた。したがって、上記のような高リスク者の特徴を捉えつつ、全社における対策・職場のマネジメント・個人によるセルフケアの見直しを進めていくことがメンタルヘルス対策につながると考えられる。
2020年4月から5月の緊急事態宣言を経て急速に拡大したテレワークは、新型コロナウイルスの感染拡大の収束後においても、「新しい働き方」のひとつとして位置づけられると考えられる。一方、テレワーク中心の働き方をする場合、対面の場合と比べてコミュニケーションを取りづらく、業務上の不安・孤独を感じやすくなる可能性、またその発見が遅れる可能性も指摘されており(※14)、従業員のメンタルヘルス対策に取り組む必要性はいっそう高まると予測される。
今後、テレワーク下におけるメンタルヘルス対策を推進していくうえでは、企業が自社のテレワークの位置づけを明確化することがカギになるのではないか。本稿で見てきた通り、企業や上司、個人による取り組みは、まったく新しいものでなくても、メンタルヘルス対策として有効である様子がうかがわれる。したがって、企業がテレワークを取り入れるかどうかを明確化することは、従来からのメンタルヘルス対策、また、今までのマネジメントや生活習慣を踏まえつつ、それらをテレワーク環境により適したものへと見直していく嚆矢(こうし)にもなるだろう。
本稿では、在宅勤務を行う労働者のメンタルヘルスの状態、および企業・上司・個人の取り組みとの関係を検討したものの、因果関係は明らかになっていない。今後、労働者の健康維持のためには、さらなる検討が行われることが望まれる。
(※13) 厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会 報告書」2020年12月25日
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15768.html)
(※14)脚注 13 に同じ
インターネットモニターを対象としたアンケート調査実施を委託。調査はスクリーニング調査と本調査の2段階。スクリーニング調査で以下の条件に合致する回答者を本調査対象とした。
<スクリーニング条件>- 15~59 歳
- (自営業主、経営者ではなく)企業・役所・団体に雇われており、主にオフィスでの仕事(デスクワーク)をしている
- 2020年10月の 1 週間当たりの在宅勤務の日数が1日以上(在宅勤務:ここでは、自宅などでの勤務の他、サテライトオフィスでの勤務を含む)
- 回収数:27,952 サンプル
- 男女別(2区分)、年齢階層別(15~29歳、30歳代、40歳代、50歳代)(4区分)、在宅勤務日数別(1日、2・3日、4日以上)(3区分)の全24 区分(=2×4×3)それぞれについて、83 サンプル(一部 84サンプル)、合計 2,000サンプルとした。
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