有給休暇が残ったまま従業員が退職したときはどのようにするか
従業員が退職する際によくある疑問として、未消化の年次有給休暇についてのものがあります。年次有給休暇の残日数が残ったまま従業員が退職するときの年次有給休暇の取り扱いや、退職時の年次有給休暇の買い取りができるかについて解説します。
残った有給休暇はどうなるか
年次有給休暇は退職後に使うことができないため、退職と同時に未消化の年次有給休暇は全て消えてしまいます。そのため従業員は、退職するまでに年次有給休暇の消化を検討することが一般的です。
年次有給休暇の利用は労働者の権利といえるため、労働者が事前に日付を指定して取得することを希望すれば、企業は断れないのが原則です。しかし、退職前までに顧客の引き継ぎや仕掛け中の業務を終わらせなければならないため、退職する従業員が業務多忙で消化しきれないケースがよくあります。企業としてはトラブルを避けるためにも、従業員が退職するときの年次有給休暇の取り扱いや処理の方法について考えておかなければなりません。
最終出社日と退職日を別で設定
従業員退職時の対処法としてよくあるのが、最終出社日と退職日を別で設定する方法です。最終出社日と退職日の関係について具体例を示して解説します。
最終出社日と退職日を別で設定する方法の具体例
例えば年次有給休暇の残日数が20日ある従業員が3月31日に退職する場合、最終出勤日を2月28日などに設定し、年次有給休暇の残日数をすべて消化する期間を設ける方法があります。
【退職日】3月31日
【所定労働日数】20日
3月1日~3月31日までの暦日数から会社の休日の日数を引いた日数
【最終出勤日】2月28日
20日の年次有給休暇が消化できる日付を設定
このように、実際に退職する日と年次有給休暇の消化を考慮した最終出勤日を分けて設定する方法は、従業員の退職日がわかっていて、退職までの期間に余裕がある場合に効果的です。
ただしこの方法は、退職日までの期間に余裕がなければ困難です。余裕がない場合、引き継ぎや仕掛け中の業務を終えられなくても、法的には従業員が希望通りに年次有給休暇を取得することを認めざるを得ないことになります。なお、この場でも、年次有給休暇を消化しきれない日数が残れば、退職時に未消化の年次有給休暇は全て消えてしまいます。
最終出社日を早めてほしいと言われたら
転職を理由に従業員が退職する場合、転職先との兼ね合いなどの事情で「年休をすべて消化するために最終出社日を早めてほしい」と言われるケースがよくあります。しかし、業務の引き継ぎをしっかりと終わらせてほしい企業側としては、最終出社日を早めることをできれば避けたいところです。とはいえ、「最終出社日を早めたい」とは「有給休暇を使いたい」ということであり、年次有給休暇の取得を企業が断ると労働基準法違反になってしまうため、基本的に従わざるを得ません。
退職の申し出は「30日前」や「14日前」などと就業規則や雇用契約書などで定めているケースが多いでしょう。正式な退職届や退職願の提出は「30日前」や「14日前」でも問題ありませんが、従業員から退職する旨の相談があった際は、年次有給休暇の残日数を考慮して最終出社日と退職日を設定できるようにするのが望ましい対応と言えます。
残った年休を買い取ることはできるか
労働基準法では、年次有給休暇の買い取りは原則として認めていません。労働者の年次有給休暇の申請を拒否するようなことがあれば法違反になります。ただし、やむを得ず企業の側から従業員が退職することによって消滅してしまう年次有給休暇を事後的に買い取ることを打診しても、法律違反には該当しません。本来であれば年次有給休暇は買い取りできないと考えるべきですが、これは退職後に取得できたはずの年次有給休暇について、金銭補償を民事的に行う例外的な対処法です。
従業員側から買い取りを要求された場合、法的には会社側に応じる義務はありません。しかし、過去に買い取りをしてきたケースがあると、応じる必要があるため注意が必要です。また、年次有給休暇を買い取るルールを就業規則に定めれば、それは労働条件となり、民事上の契約としての履行義務が企業に発生します。そのため、就業規則に年次有給休暇の買い取りのルールを定めることはおすすめできません。
従業員が退職する際、年次有給休暇の取得をめぐってトラブルになることはよくあります。特に年次有給休暇を買い取る規定も過去に買い取った事例もない場合は、従業員との関係性を考えて柔軟に交渉することが重要です。
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