業務委託契約と労働契約の違いと、業務委託が労働契約にみなされないための注意点
近年、多様な働き方が普及し、企業の社員ではなく、フリーランスとして働く人が増えています。企業が業務委託契約で仕事を依頼するケースも珍しくありません。
業務委託契約も労働契約も、同じ職場で企業のために働くことに変わりはありません。しかし、労働契約と業務委託契約とでは、契約形態が異なります。業務委託契約と労働契約との違いや、業務委託契約を締結するときの注意点を解説します。
業務委託契約と労働契約の法的な違い
個人事業主となる業務委託契約と、労働者となる労働契約とでは、契約形態や内容・性質が異なります。民法では、業務委託契約に該当する「請負」「委任(準委任)」の契約を以下のように規定しています。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
● 民法第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
● 民法第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
- 【引用】
- 民法 | e-Gov法令検索
また、労働契約法第6条では、労働契約を以下のように規定しています。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
個人事業主と業務委託契約を結んだ場合、受注者側は、自身で確定申告を行って所得税を支払い、社会保険は自身で国民健康保険や国民年金に加入します。業務委託契約でも独占禁止法や下請法の保護は受けられますが、労災保険の適用はなく、業務災害や通勤災害に被災しても自己責任となります。
労働者側にとって労働契約の大きなメリットは、労働法の手厚い保護が受けられることであり、業務委託契約との重要な違いの一つです。契約の名目が業務委託契約であったとしても、労働者性が認められて労働者に該当すれば、労働基準法が適用され、労働時間の規制や残業代など、時間外・休日・深夜労働の割増賃金が発生します。また、労災保険の補償を受けることも可能です。労働基準法上の労働者に該当すれば、労働組合法の労働者にも該当するため、発注者の団体交渉の拒否や労働組合の組合員になったことによる契約の解除などが禁止されます。
業務委託が労働契約にみなされないための注意点
企業が業務委託契約で仕事を依頼していたつもりでも、受注者から「これは労働者性があるものだ」と主張され、係争に発展することがあります。労働契約と見なされれば、労働法に従い、保護をしなければなりません。
業務委託契約が偽装契約とみなされれば、訴訟などの大きなリスクを抱えることになりかねません。労働者性の有無を判断する際の判断基準や注意点について解説します。
労働者性の判断基準
業務委託契約を結ぶ際は、雇用契約や労働契約とみなされないように、業務の依頼内容や形式に細心の注意を払わなければなりません。業務の依頼・指示の内容によっては労働者性が強まり、労働者とみなされる可能性が高まります。
労働者性の判断基準として、以下のことが考えられます。
仕事の依頼や業務の指示について、受注者が拒否できないようなことがあると、労働者性が強まります。自分で諾否を決められるようにする必要があります。
● 業務遂行上の指揮命令がない
発注者から具体的な指揮命令を受けていると、労働者性が強まります。業務の内容や遂行方法は本人に任せて、細かい指示や契約にない指示をしないようにする必要があります。
● 時間や場所などの拘束性が少ない
自社のオフィスに長期間拘束するような行為はなるべく避け、勤務場所や勤務時間の指定を必要最小限にします。始業時刻・終業時刻も、強制しないほうがよいでしょう。
● 代替性がある
依頼した業務を他者が代わりに行うことや、補助者を付けることを認めないことは避け、遂行方法を本人に任せる必要があります。
● 専属性が低い
他社の発注業務を行うことを制限・制約することは避けなければなりません。依頼した業務に時間がかかり、他社からの発注を受けられないほど時間的に余裕がなければ、専属性が高く、労働者性が強まります。
● 報酬の労働の対償性が低い
報酬は作業時間をベースに決めるのではなく、成果や遂行の内容で決定するようにします。
これらの基準に一つでも該当すれば労働者とみなされるのではなく、さまざまな要素から総合的に判断します。
その他、業務のシフトや研修制度などがあって、自社の組織に組み入れるようなことがあると、労働者性が強まります。契約内容に交渉の余地がなく、報酬の基準や算出方法を発注者が一方的に決定することも同様です。
係争に発展した例
2023年11月、フリーランスのカメラマンが通勤中に事故に遭い、労働基準監督署が労災と認定したケースがありました。フリーランスは個人事業主であることが多いため、労災の対象外となるのが一般的です。しかし労働基準監督署は、働き方の実態を考慮して、「会社の指揮命令下で働く労働者」と判断し、労災を認定しました。労働者性の有無の判断は難しい問題ですが、争いとなったときは、業務委託で働く者に労災が適用される事例もあるため、注意しなければなりません。
リスクがある契約内容は避ける
労働者性の有無は司法で争われることが多く、一歩間違うと訴訟問題や信用問題に発展しかねません。業務委託契約を結ぶ際は、トラブルにならないように、リスクの有無をよく考慮してから契約を結ぶ必要があります。
自社の従業員を業務委託契約と労働契約で併用することも、トラブルになる可能性があります。自社の従業員としての業務と業務委託の業務との線引きが難しく、業務遂行上の指揮監督の範囲も明確にすることは困難です。
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