通勤手当の課税について
自宅から会社までの通勤費用を支給する通勤手当。支給する金額は会社が任意に決めることができますが、通勤手当には課税・非課税の仕組みがあります。自社で税金の処理をしている場合も、外部に委託している場合も、通勤手当の課税について正しく理解して運用することが重要です。
1. 通勤手当の課税・非課税判断の基本
通勤手当は原則非課税だが一定額以上は課税対象
※通勤手当の計算方法や基本的なルールの解説はこちら
通勤手当の所得税については、原則非課税ですが、一定額を超えた分は課税対象になるという複雑な仕組みになっています。
手当というと住宅手当、扶養手当、残業手当など、生活の補填や労働の対価という側面を持つものが多くあります。これらは原則として給与所得に含まれ、課税対象として所得税が徴収されます。
しかし、通勤手当の場合は、会社に通勤するための費用弁償の意味合いが強いため、生活の支援や労働の対価という側面を持たず、基本的には課税対象としては見られません。
ただし、通勤手当も一定額を超えると課税対象となります。制度をよく理解していないと、年末調整などで所得税を誤って算出することや、認識不足による過少申告や申告漏れにつながる危険性がありますので注意しなければなりません。
課税・非課税の基準は国で定められている
通勤手当の課税・非課税については、所得税法などで基準が定められており、通勤方法や通勤距離によって算出の方法が異なります。通勤手当自体は会社の裁量で自由に支給内容を決めることができますが、所得税法上の取り扱いとは異なりますので、混同しないように注意が必要です。それぞれの通勤パターンごとの仕組みを知り、個々の従業員の所得税の計算を正しく行わなければなりません。
2. 通勤手当の課税・非課税額の計算方法
通勤パターンごとに課税・非課税額の算出方法を見ていきましょう。それぞれ、国税庁の解説するルールと照らし合わせながら解説していきます。
電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合
まずは、電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合の課税・非課税の考え方です。公共交通機関を利用する場合、非課税額は国税庁のホームページに下記の通り記載されています。
例:1ヵ月当たり20万円の定期代を支給している
→15万円分は非課税、5万円分は課税対象
※3ヵ月、6ヵ月定期券など、一定期間分の定期代をまとめて支給している場合は、定期代の総額を月数で割って、1ヵ月分に換算して考えます。
新幹線・グリーン車は「最も経済的かつ合理的な経路」か?
例として、新幹線とグリーン車の取り扱いを考えてみましょう。ポイントは、それらが「最も経済的かつ合理的な経路および方法」であるかという点です。
新幹線の利用は、時間を大幅に短縮できるため、遠隔地からの出勤などに有効であり、「最も経済的かつ合理的な経路および方法」に該当すれば非課税の対象となります。対して、グリーン車の利用は、経済的かつ合理的とはいえないため、課税対象です。ただし、心身の不調などによりやむを得ない事情があれば非課税となる可能性もあるので、グリーン車を利用せざるを得なかった理由を明らかにした上で、税理士に相談するなどして対処しましょう。
マイカーや自転車などの交通用具を利用する場合
マイカーや自転車などの交通用具を利用する場合は、各通勤距離(片道)に応じて非課税限度額が定められています。指定された限度額を超えた分は課税対象になるので注意が必要です。
以下は、国税庁によって公表されている、1ヵ月当たりの非課税限度額を表にまとめたものです。
片道の通勤距離 | 1ヵ月当たりの非課税限度額 |
2㎞未満 | 全額課税 |
2㎞以上10㎞未満 | 4,200円 |
10㎞以上15㎞未満 | 7,100円 |
15㎞以上25㎞未満 | 12,900円 |
25㎞以上35㎞未満 | 18,700円 |
35㎞以上45㎞未満 | 24,400円 |
45㎞以上55㎞未満 | 28,000円 |
55㎞以上 | 31,600円 |
引用:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁
例:通勤距離片道8㎞の従業員に5,000円の通勤手当を支給
→非課税限度額は4,200円、超過する800円分が課税対象
交通機関+交通用具を利用する場合
公共交通機関とマイカーなどの交通用具を組み合わせて通勤している場合は、下記の通り定められています。
(1) 電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1か月間の通勤定期券などの金額
(2) マイカーや自転車などを使って通勤する片道の距離で決まっている1か月当たりの非課税となる限度額
例)1ヵ月当たりの定期代13万円、自動車による交通費3万円を通勤手当として支給
→非課税限度額である15万円を超過した1万円分が課税対象
徒歩通勤の場合
そもそも徒歩通勤者に通勤手当を支給するケースは少ないかもしれませんが、徒歩通勤に関しては、所得税の取り扱いについて規定がありません。徒歩通勤者に通勤手当を支給している場合は、従業員全員に同額の通勤手当を支給しているケースが一般的ですので、全額課税対象として考えるのがいいでしょう。
4. 通勤手当の課税額を算出する際の注意点
基本的には所得税法などに定められた基準に沿って考えれば間違いありませんが、より正確に税額を算出するために、いくつか注意点があります。通勤手当の課税額を算出する際に見落としがちなポイントを解説します。
1日当たりの通勤手当を支給している場合は、月単位で算出する
パート・アルバイトや日給制の労働者などのように、所定労働日数や勤務日数が月によって異なる場合、通勤手当を1日単位の金額で支給することがあります。この場合、通勤手当は1ヵ月単位で算出するため、その月に支給する通勤手当の1ヵ月の合計額で非課税限度額を見極めるようにしてください。
例:片道12㎞をマイカー通勤している従業員に、1日当たり1,000円の通勤手当を支給
1ヵ月に15日出勤
1ヵ月当たりの通勤手当は、15,000円(1,000円×15日)
→12㎞をマイカー通勤している場合の非課税限度額は7,100円なので、超過している7,900円分が課税対象
タクシーを利用した場合は、利用状況により判断する
タクシー利用については、利用した状況が「経済的かつ合理的である」かどうかによって判断が変わってきます。
例えば、定時に退勤したにもかかわらず、電車に乗りたくないがためにタクシーを利用した場合、これは非課税とはなりません。一方で、残業によりやむを得ず退勤が遅くなり、利用できる電車やバスがなくなってしまった場合など、タクシー以外に交通手段がないときはタクシーの利用が最も合理的だといえます。
タクシーの利用は個別判断が必要な特殊ケースであり、法令に特別に定めもないため、課税・非課税の判断は税理士などに相談するのが望ましいといえます。
非課税部分があっても社会保険料算出の対象になる
通勤手当の取り扱いについて混同しやすい点として、所得税は原則として非課税となっても、社会保険料を算出する際の基となる報酬月額には含まれることがあげられます。通勤手当は、実費分の支給であれ定期券の現物支給であれ、いかなる場合も社会保険料を算出する際の報酬の対象となります。従って、通勤手当の額が大きくなるほど、社会保険料の金額も上がることになります。
通勤手当が非課税となるのは、あくまで所得税の話です。保険料や年金の算出とは全く別物だと覚えておきましょう。
5. 通勤手当を非課税とするための手続きについて
毎月の通勤手当の課税・非課税分を分けて記録しておく
毎月の給与所得にかかる源泉徴収税額を算出する際は、国税庁が公表している源泉徴収税額表を用いて算出します。このときの給与所得に、通勤手当の非課税分は含みません。非課税分を含んでしまうと、所得税を多く徴収してしまうことになるので、注意が必要です。
また、年末調整時に確認しやすいように、通勤手当の課税・非課税分を分けて記録するようにしましょう。転勤や引っ越しなどに伴い通勤手当額が変更となるケースも多いので、年末にまとめて確認しようと思うと、ミスが発生しやすくなります。
通勤手当の非課税分は、年末調整の際に給与所得に含まない
1年の所得税を清算する年末調整の際にも、通勤手当の非課税分を給与所得に含めずに計算します。所得税を正しく計算するには、通勤手当を正しく処理することが重要です。
社会保険料の取り扱いと同じように、給与所得に通勤手当を全額含めるのが正しいと勘違いしているケースが多いので、注意してください。給与所得に含めてしまうと、税額が多く算出されたり、税務署に指摘を受けたりする可能性もあります。
毎月の給与支払い時に通勤手当の非課税処理を誤っていても、年末調整で修正することは可能です。しかし、年末調整時に税額を誤ってしまえば、修正や還付の手続きに大変な手間がかかります。年末調整は、1年分の所得税額を確定させる重要な業務なので、ここでのミスは避けたいところです。
6. 通勤手当の課税・非課税は、国の基準に沿って正確に判断しよう
通勤手当の課税・非課税については、知識が曖昧な状態で判断せずに、基準に沿った手続きをすることが重要です。所得税法などに規定されていない事案が発生した場合は、税理士や税務署に確認しましょう。税金関係のミスやトラブルは、後からの修正に手間がかかる上に、従業員からの信用を失うことにもなりかねません。
通勤手当の取り扱いは、基準が明確になっている分、一つひとつの作業を確認しながら正確に行えば、トラブルが起きる可能性は低くなります。国税庁のホームページも充実しているので、参考資料を丁寧に確認しましょう。
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