企業がレジリエンスを高めるための取り組み

レジリエンスは、ビジネスにおいて「困難や逆境を乗り越え回復する力」を意味する言葉です。企業においてレジリエンスが高い状態とは、「事業を脅かすような危機が訪れても対処できる状態」を指します。事業の不振や天災の発生など、企業には予期せぬさまざまな困難が降りかかります。企業全体で危機を乗り越えるために、普段から取り組めることはあるのでしょうか。

更新日:2023/03/16
企業のレジリエンス対策イメージ

1. 組織のレジリエンスを高めるには

1) BCPに取り組む

BCPとは、事業継続計画のことです。行動計画やマニュアルを作成し、有事に備えて体制を整えることで、大規模災害が起こってから通常の事業へ復旧するスピードを短縮します。自然災害や感染症の拡大時なども、事業を継続するための制度や仕組み、ガイドラインの整備が必要です。また、近年はテレワーク環境などを狙ったサイバー攻撃も増加しており、セキュリティー対策の重要性も高まっています。従業員の意識を高めるための啓もう活動や、訓練なども有効です。

2)ダイバーシティを推進する

高橋俊介氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授)は、『日本の人事部』が行ったインタビューにおいて、予測不能な現代で「変化対応能力のある組織」をつくるには、「ダイバーシティの推進」が重要としています。多様な人材が活躍できる環境を整えることで、イノベーションが促進し、ビジネスモデルの変化に耐え得る組織の構築ができると説いています。

近年、ダイバーシティ経営という言葉が浸透しつつあります。日本企業は欧米に比べて人材の流動性が低く、同質性が高いといわれていますが、ダイバーシティを推進することで、発想の源泉を豊かにすることができます。

2. 従業員のレジリエンスを高めるには

1)社内のコミュニティーを形成しエンゲージメントを高める

『日本の人事部』が2021年2月に行った「HRコンソーシアム」において、佐々木丈士氏(Facebook Japan株式会社人事統括)は、従業員のレジリエンスを高めるには、人事が社内のコミュニティーの形成を促し、従業員同士をつなげることでエンゲージメントを高め、アウトプットを高めることが重要だとしています。特にコロナ禍においては、在宅勤務により社内でのコミュニケーションの機会が減少しているため、オンラインでのコミュニケーションをどのように実現していくかが重要なポイントになると述べています。

2)レジリエント・リーダーを育成する

金井壽宏氏(神戸大学名誉教授)は、逆境に陥っても自ら回復し、また部下のやる気を引き出せる「レジリエント・リーダー」の育成が重要だと説いています。レジリエント・リーダーには高いセルフ・コントロール能力が必要であり、部下に対しては前向きに働きかけ、不安や心配を払拭するような行動が求められると述べています。

レジリエント・リーダーが組織に多くいることで、その組織は自然としなやかで強い組織になるといえるでしょう。

3)従業員のキャリア・オーナーシップを支援する

キャリア・オーナーシップイメージ

先述の高橋氏は、従業員がレジリエンスを高めるには「キャリア自律」が必要だとし、主体的にキャリア開発を行うことを推奨しています。

「キャリア自律」は「キャリア・オーナーシップ」とも呼ばれ、従業員が自分のキャリアを主体的かつ能動的に開発していくことを指します。キャリア自律においては、企業が従業員のキャリアを決めるのではなく、従業員自身が決めていくことが重要です。

高橋氏は、キャリア自律を育むには「変化に強い良い習慣を数多く持つこと」とした上で、方法として多くの人と交流し、つながりを形成していくことを挙げています。また、従業員が能動的にキャリア開発に取り組むことは、結果的に変化の強い組織につながるとしています。

キャリア自律は従業員が自ら実践するものですが、企業として機会を提供することは重要です。例えば、ジョブローテーションや他企業との交流の機会などを通じて、良い刺激を与えることで、従業員がキャリアを描きやすくなるでしょう。

4)課題解決能力を高めるための人材育成

レジリエンスを高めるために個人に何が必要か」では、獲得的レジリエンス要因として「課題解決志向」「自己理解」「他者心理の理解」を挙げました。これらの能力を開発するための研修やセミナーなどもレジリエンスを高める上で有益です。

アンガーマネジメントやアサーティブコミュニケーションといった対話方法を学ぶことで、組織で問題が生じた際にスムーズに対処でき、協働の促進によって課題解決の見通しも立てやすくなります。

自己理解を深めるためには、1on1ミーティングなどを通して定期的に業務を振り返ることも有効な手段の一つです。

「レジリエンス」について深く知る記事一覧

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企画・編集:『日本の人事部』編集部

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