部署や年齢、性別も超えて役員をロールモデルに――
あいおいニッセイ同和損保に学ぶ
「女性管理職の育成」とは
人事部 ダイバーシティ推進室長
福岡 藤乃さん
管理職候補層まで含めてメンタリングチェーンを拡大
メンター制度を実施して3年。取り組みの効果をどのように分析していらっしゃいますか。印象に残っている参加者の感想や意外な反応などがありましたら、お聞かせください。
トライアル実施後に最初のヒアリングを行なったのですが、メンティーの実に9割近くから「効果があった、やって良かった」という回答があり、翌年の本格導入へとつながりました。印象的だったのは、あるメンティーが当初はやりたくないと言っていたのですが、いざトライしてみたらキャリアに対する不安も消えたし、精神的な支えにもなって大満足だったと、180度変わったことです。まさにメンターを引き受けた方々のおかげだと思います。
アンケート結果からは、女性管理職の経験不足を補い、ネットワークを構築するというねらいについても、メンターを通じて貴重な経験を間接的に学んだり、社内人脈を広げたりすることができて、大きな効果があったことが分かりました。
メンターを務められた役員の方々からの反応はいかがですか。
メンター側でも、「女性社員を育てる必要性があらためて理解できた」など、ポジティブな評価がアンケート結果の大勢を占めました。「自分自身も成長できた」「新しい視点が生まれた」、なかには「いままで女性がどう思っているか考えたこともなかったが、考える機会になった」という声もありましたね。実際、メンティーの中から理事への推薦を受けた女性管理職が出ています。その意味では「役員への意識付け」という“隠れ目的”についても、期待どおりの成果が上がっているのではないかと思います。
一方、制度の課題についても、役員から貴重なアドバイスを受けました。本気で女性役員の誕生を目指すなら、ライン長レベルからメンティーを選んでいては遅い、より早い段階からメンタリングに参加させるべきだという意見です。こうしたアドバイスを受けて今年からは、メンティーを経験した女性管理職にもメンターを担ってもらい、メンティー対象者の拡大を図っていきます。
そもそも日本ではなぜ、女性の管理職や経営幹部が育ちにくいのでしょう。福岡さんご自身は、どこに原因があると思われますか。
もちろん制度の不備や男性中心の古い価値観が障壁になっている面は否めません。ただ、女性側にも原因があるとすれば、それは会社側が役職に就けたいと思う女性ほど、真面目すぎる、完璧をねらいすぎる傾向があるからではないでしょうか。仕事のすべてを理解して、完璧にできないと、組織のリーダーになれないのではないかと考えてしまう。失敗を恐れるあまり、ステップアップのチャンスを自ら遠ざけてしまうように感じています。
では、男性が皆そこまで完璧に行っているかというと、そうでもない。実際にはたくさん失敗して、落ち込んで、たまにはお酒を飲みながら上司にお説教されたり、励まされたりして、成長していくのが普通だと思います。女性だって、そんなふうに背中を押してくれる味方がいれば、挑戦する勇気がもっと湧いてくるのではないでしょうか。それが、メンターなのかもしれません。
ありがとうございました。最後に、ダイバーシティ推進室としての今後の抱負をお聞かせください。
全社員を対象にした最新のアンケート結果(2012年度)によると、「あなたの職場は性別・年齢等に関係なく、いきいきと働ける環境にあると思いますか」という問いに対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した社員があわせて80.2%に達し、前年に比べて3ポイント以上アップしました。また「あなたはダイバーシティ(とりわけ女性活躍)が推進されていると思いますか」という質問にも、約8割がイエスと答えています。こうしたデータによってPDCAを回し、施策をさらにブラッシュアップしていくつもりです。
また今年度から、各部門に女性社員の能力開発に関する計画書の提出を依頼しました。これがしっかりと実施されるかどうか。いまだ旧態依然の役割が残っている部門がありますが、計画の進捗を管理することによって、いやでもドアを開けて新しい風を入れてもらうことになります。最終的にはダイバーシティ推進室がなくなることが私たちの究極の目標です。まだまだ先は長いと思いますが、今後は女性社員はもちろん、経営層にとどまらず現場の管理職、男性社員も巻き込みながら、女性活躍の支援体制をつくっていきたいですね。
(取材は2013年8月6日、東京・渋谷区のあいおいニッセイ同和損害保険 本社にて)