<特別企画>人事オピニオンリーダー座談会会社のためだけではなく
社会のために生きる人が増えている
個人と企業が対等な時代に人事が考えるべき
「エンゲージメント」とは
ダイバーシティを重視すべきか、あくまでも自社らしさを重視すべきか
アキレス:そうした価値観や肌合いを感じとって採用するという考え方に良い点も大いにありますね。一方で、「合わない人は仲間に入れない」というリスクもあります。また、グローバル企業では日本だけが異質な文化になって、海外との距離が開いてしまうという可能性もあります。「この会社が好き」「商品が好き」だけでなく、「この仕事が好き」「プロジェクトが好き」ということが社員のエンゲージメントを高めるように思います。
田中:その会社の勝ちパターンにも関係すると思いますね。サントリーの場合は「やってみなはれ」に代表されるように、自分で思いを持ってアクションを起こすことも「肌合い」として大事にしている。その上でダイバーシティを重視していきたいと考えています。
髙倉:味の素では、「肌合い」を明文化しようとする取り組みを2年前に始めました。コーポレートフィロソフィーのASV(AjinomotoGroup Shared Value)で、経済的価値と社会的価値の共創ですが、それをグローバル全体で共有できるようになり、この考えに共感することが幹部ポジションへの外部人材採用の基準となっています。この大きな軸を共有した上で、ダイバーシティの視点で、各自の価値観をより重視しています。
アキレス:SAPでも数年前に新たな行動指針を掲げました。「約束を守る」とか「好奇心を持ち続ける」といったシンプルなものですが、5項目にまとめグローバルで共有しています。「違いを受容する」もその一つで、いろいろな形でダイバーシティを推進しています。
伊藤:ダイバーシティの中にそうした基準を作っておくのは大事ですね。最初から会社が求める人材像をはっきり見せていくのか、あるいは入り口はオープンにして、入ってきた社員の中で「肌合い」が合わない人が去っていくようにするのか。前者のやり方のほうが、最初から必要な人材のカラーがはっきりしているので、離職というケースは少なくなるように思いますね。
田中:カラーをどう定義するかですが、その会社の成功につながる独自のカラーは意志を持って重視すればいいのではないでしょうか。当社は「らしさ」を強みとしてあえて維持・強化しています。
源田:その「サントリーらしさ」は、どのように作っているのでしょうか。ソフトバンクでも「チャレンジする」という言葉を大切にしていますが、実際のところそれはいろいろな会社でも掲げられているもので、ともすれば意味のないクレドになりがちな面もあると思っています。
田中:サントリーはある意味ラッキーだと思っていて、「やってみなはれ」の実例やストーリーから伝えられるものがたくさんあります。一方で、過去のストーリーを知っている人も知らない人も、「今の我々は本当に会社の価値観を実践できているのか」を自ら振り返り、強化するような議論も非常に盛んです。
源田:数字で検証できるかどうかは別として、一人ひとりが自分はどれだけできているのかを振り返る機会は重要ですよね。
髙倉:当社の場合は極端かもしれませんが、中期目標の中に「財務目標」と「非財務目標」があります。非財務目標には、「全国民がバランスよく栄養を取れるようにする」などのストーリーを盛り込んでいます。これが中期目標になると、部門もそれを取り入れたストーリーを作る必要があり、個人レベルでも意識しなければいけなくなる。会社としては個人がのびのび働けるようエンパワーメントするのですが、最低限の共通目標を設けておくことが競争力強化の一端になるのではないかと考えています。