<特別企画>人事オピニオンリーダー座談会会社のためだけではなく
社会のために生きる人が増えている
個人と企業が対等な時代に人事が考えるべき
「エンゲージメント」とは
近年、人事領域において「エンゲージメント」への注目が高まっています。「従業員が会社に対して愛着を持てているか」という観点から、「個人と企業が一体となり、ともに成長できる関係を作れているか」という観点へと議論が広がってきているのです。多様性と個の尊重が重視される時代に、企業と個人はどのように結びついていくべきなのでしょうか。そのヒントを探るために、人事のオピニオンリーダーとして活躍する7名を招いて座談会を開催しました。エンゲージメントから考える2019年の人事のあり方とは――。
- アキレス美知子氏/SAPジャパン株式会社 バイスプレジデント人事戦略担当
- 伊藤伸也氏/日本郵政株式会社 人事部 企画役 (兼)経営企画部門 お客さま満足部 (兼) 日本郵便株式会社 人事部 人材研修育成室
- 源田泰之氏/ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長
- 鈴木清美氏/エーザイ株式会社 人財開発本部 タレントストラテジー部 部長
- 髙倉千春氏/味の素株式会社 理事 グローバル人事部 部長
- 田中憲一氏/サントリーホールディングス株式会社 ヒューマンリソース本部 グローバル人事部 部長
- 樋口知比呂氏/株式会社SMBC信託銀行 人事部 部長
「個人と会社の関係性が対等な時代」にエンゲージメントを高めるポイントとは?
伊藤:そもそも、エンゲージメントはマーケティングで最初に使われた言葉なんですが、社員満足を追求するだけではなく、顧客や社会との深い絆を一緒に考える必要があるのではないかと思います。先日、2018年の西日本豪雨で被災した郵便局を激励して回ったのですが、復興は少しずつ進んでいるものの、街がほぼ崩壊した地域もあり、半年たっても、まだお客さまが街に戻って来ていない状況でした。当時は郵便局内にまで土砂が入ってしまったため、近隣局や他県の郵便局社員がボランティアで集まり、毎日のようにみんなで泥をかきわける大変な作業に追われていたそうです。困っている仲間たちを助けたい、という強い思いが動いたんですね。こうした尊い行動こそがエンゲージメントにつながっていくのだと感じました。社員満足度だけではもう、会社と社員の絆は測れなくなっています。皆さんの会社では、どのようにエンゲージメントを測っていますか。
アキレス:以前務めていた住友スリーエムで、「社員が満足しているからといって、生産性が高いとは限らない」というポイントを学びました。「うちはいい会社だよね」と言いながら、業績が伸びていないようでは意味がないと。エンゲージメントとは、自発的に仕事に打ち込む、上司から言われなくても仕事に没頭してしまうような状態で、業績にもプラスの効果があります。SAPでは毎年エンゲージメント調査を行っていて、「社員がどれくらいエンゲージしているか」「上司や会社をどれくらい信頼しているか」といったことを全世界で測っています。この結果が1ポイント上がると業績に100億円の影響があるとの試算があり、経営指標として大変重視しています。
樋口:当社では「従業員意識調査」と銘打っていますが、個の尊重や成長の機会といった指標をエンゲージメント向上の重要なポイントとして見ています。銀行業という立場では、エンゲージメントは「信用力」にもつながっていると考えています。銀行はお客さまから信用されて事業が成り立ちます。そのため、従業員がどれだけ会社を信用できるか、会社が従業員をどれだけ信用できるかがとても重要です。
源田:エンゲージメントが高まると社員のモチベーションが高まり、生産性が上がるという仮説はありますが、エンゲージメントそのものは人によって変わってきますよね。例えば海外を中心に、優秀なエンジニアには非常に高い年収レベルを提示していて、そこだけが注目されがちですが、これはベースでしかなく、すべての人が年収でエンゲージメントが上がるわけではありません。誰と働くのか、何をするのかが重要ではないでしょうか。そのポイントを見出し、何を重視するべきかを知りたいと思っています。
髙倉:味の素では過去8年ほど組織風土診断を行ってきましたが、2017年には初めて3万4千人のグローバル全従業員へのエンゲージメントサーベイを実施し、同時に社長の360度サーベイも行いました。今までは「社員が会社をどう思っているか」という観点でしたが、現在のように個人と会社の関係性が変化し、ある意味対等な視点が必要な時代には、サーベイ結果の見るべきポイントが違うのではないかと考えています。
鈴木:エーザイの社員は、エンゲージメントが非常に高いです。2017年に実施した全社サーベイの結果は5段階評価で、会社への満足度の平均はグローバル全体で3.8でした。当社は「薬とソリューションで社会を変える企業」というビジョンのもと、2016年度から会社と個人の関係性を見直し、「雇用の保証から対等な関係性へ」というメッセージを打ち出しました。その後に行った調査で高いエンゲージメントを示したのは、ある種の驚きでした。もちろん、入り口としてエーザイを好きな人が入社してくることも影響しているとは思います。
田中:サントリーもそれに近いかもしれません。採用時にはダイバーシティも重視しつつ、、本人と会社の価値観がオーバーラップしていることをとても重視しています。この基準は明文化されているわけではなく、面接に関わっている人の中に明確なコンセンサスがある、という感じですね。
髙倉:当社も似ています。採用基準の中で「肌合い」のようなものが暗黙知として共有されています。