帝人株式会社:
「One Teijin」の旗印の下、大胆な人事改革に着手
帝人が取り組む人財育成の要諦とは(前編)
帝人株式会社 人事・総務本部 人事部長
藤本 治己氏
高機能素材、ヘルスケア、ITなどの事業をグローバルに展開する、帝人グループ。2002年10月に事業持ち株会社となったことで経営のスピードは向上しましたが、組織体系が複雑化。事業間、地域間でのコミュニケーション不足が生じ、パフォーマンスに大きな影響が出るようになっていました。この問題を解決し、グループ全体としての一体感を高めるために導入された施策が「One Teijin」です。人事改革・人財育成に関して、さまざまな取組みが行われていますが、実際にどのような変化があり、どんな成果を上げているのでしょうか。人事・総務本部 人事部長の藤本治己さんに、詳しいお話を伺いました。
- 藤本 治己氏
- 帝人株式会社 人事・総務本部 人事部長
ふじもと・はるみ●1983年に帝人に入社。新規事業である医薬品事業に、新卒で第一期生として配属される。1992年、人事部へと異動、採用・教育課に配属。1995年、人事部大阪人事課、1997年三原事業所労務班長。2000年にヨーロッパ駐在員事務所、帰国後の2002年にグローバル人事部採用教育課長。2011年、採用・人財開発部長、2013年、人財開発・総務部長を経て、2016年、人事部長に就任、現在に至る。
帝人が求める「変化を糧に成長する人財」とは?
最初に、藤本さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。
1983年に帝人に入社し、新規事業である医薬品事業に新卒一期生として配属されました。東京に3年、千葉に2年、大阪に3年と、8年あまりの間、各地域で営業部門の立ち上げを担当し、1992年に人事部に異動しました。
当社にはトップダウン型ではなく、ボトムアップ型の仕事をさせるという組織風土があります。人事部に異動したときもすぐに、「これまで人事を外から見ていて、どんなふうに感じていたのか」と聞かれました。「もっと現場に近づかなくてはいけない」「もっと外に対して発信しなくてはいけない」などと、自分の意見をストレートに言いましたが、とがめられるようなことは一切ありませんでした。懐の深い会社だと、あらためて思いましたね。
人事に異動してまず担当したのは、採用と人財育成です。採用で1冊、教育関係で1冊、書籍も出させてもらいました。当時は流通の仕組みがよくわかっていなかったので、書店に直接書籍を持ちこんで販売を依頼し、書棚に置いてもらったこともありました。営業時代のスタイルそのままで、人事の仕事をしていたと言えるかもしれません。
95年1月には、阪神淡路大震災が起こりました。大阪の本社機能が大変なことになり、私も応援に行きましたが、当時の人事担当役員の言葉が今でも忘れられません。「金に糸目を付けずに、できることはすべてやるように。その際、現場で自分自身が判断すること。その責任は、すべて私が取る」。人事部門に来て3年が過ぎていましたが、トップとして腹を据えることの大切さ、人に与える影響の大きさを思い知りました。その後の私の“人事観”にも、強い影響を与えた言葉です。
その後、4月に人事担当として大阪へ赴任し、繊維事業の人事や給与関係を担当しました。その後、欧州駐在の際は、2001年米国のSeptember 11のリスク対応を行い、 2007年からは帝人ファーマに人事総務部長として出向しましたが、2011年に東日本大震災が発生。人事としていかにリスクへ対応していけばいいのか、いかに従業員の身の安全を守ればいいのか、2度の大震災で身をもって経験することになりました。
では、貴社が求める人財像についてお聞かせいただけますか。
「変化を糧に成長する人財」と、ずっと言い続けています。具体的には、自分の軸となる考えを持ち、環境の変化や困難なことにぶつかった際も明るく前向きに挑戦できること。また、グローバルに切磋琢磨し、やると決めたことをねばり強くやりきることができる人財を求めています。
世の中には、確実なものが一切ありません。そのため、物事に対処していくには、まず自分で仮説を立て、アクションを起こしていくことが重要です。成功することも失敗することもあるでしょう。現実には、失敗の方が多いかもしれません。だからこそ、多少の失敗にはへこたれないで、新しいことにどんどんチャレンジして欲しいのです。
特に若い頃は、自分で考えて実行した回数によって、その後の成長の度合いが違ってきます。まずは、自分がやりたいことを一所懸命になってやることが大事ですが、その上で、やりたいことが会社のベクトルと合っていることも必要です。会社のベクトルと合わせるには、周囲の人たちとディスカッションしたり、飲みに行ったりするなど、普段からコミュニケーションを取っていなければなりません。実際、周囲のいろいろな人たちとコミュニケーションが取れている人は、会社のベクトルと大きくずれるようなことはないと思います。
帝人には、そうした人と人とのコミュニケーションを大切にする風土があるのでしょうか。
間違いなくあると思います。例えば、相手がやりたいことや信じていることに対してアドバイスはしますが、止めろと言うことはありません。日ごろから十分なコミュニケーションが取れてて、相手を信じることができるからです。
また、権限について言えば、上から言われてやるものではなく、下から取るものだという風土が帝人にはあります。つまり、「先にやった者勝ち」ということ。普段から上の人とのコミュニケーションが取れていれば、権限は自然と与えられます。
上の立場からしても、権限を与えることで自分の仕事が楽になります。「自分の考えていることを実現してくれるのなら、どんどん任せればいい」と、上の人に思わせることが大切です。そうしたコミュニケーションの観点からも、仕事を縦と横の両方に向かって広げていくことが、自分のやりたいことやおもしろい仕事を実現するための一つの極意だと思います。人事としても、そういうことができる人をどんどん育てていきたいと考えています。
人・組織に関して、帝人にはどのような課題があるとお考えですか。
帝人には真面目な人が多く、枠の中から外へ飛び出そうとする人が少ないように思います。真面目だから、与えられた枠の中ですごく真面目に取り組みます。しかし、その枠はいったい誰が決めたのかについては、あまり真面目には考えていない(笑)。「初めから枠ありき」と思い込んでいるふしがあります。
イノベーションを起こすには、まずその枠を取り払うことが必要です。しかし、自分がやりたいと思っていることがあっても、「それは隣の課の仕事かもしれないから、手を出さない」ということが往々にしてあります。あるいは「これは自分の仕事ではない」と決めてしまっているケース。結局、真面目な人が多いからこのようなことが起きてしまうわけですが、正直、悪い文化だと思います。組織の枠を破って、外に飛び出ていける人をいかに育てるか。これが私の中での大きなテーマとなっています。
もちろん会社組織ですから、範囲を守って、その中できちんと仕事をする人がいなくてはなりません。しかし、それだけでは成長できませんし、イノベーションも起こりません。一般的に、組織には「2-6-2」の法則があると言われます。当社も上の2の人をコア人財と捉え、経営人財へと育てていくための施策に取り組んでいますが、コア人財だけでは会社は変わりません。会社を変えるにはどうすればいいのかというと、私は、真ん中の6の人を上の2のレベルにまで引き上げていくことがポイントだと考えています。そのための取組みの一つが「One Teijin」です。