2016年01月から運用が始まる「社会保障・税番号制度」。通称、マイナンバー制度は、日本国民と日本に居住する外国人一人ひとりに対して、重複しない固有の識別番号(マイナンバー)を付与し、社会保障や納税などに関する個人情報を一元管理する仕組みです。民間企業でも、給与所得の源泉徴収票や社会保険の被保険者資格取得届などの各種書類に番号を記載して、行政機関などに提出する必要があり、また番号の保管・管理にも厳格な体制が求められるため、関連業務に伴う負担増は避けられません。「でも、これは“面倒くさい”を“いきいき”に変えるチャンス」――そう提言するのは、株式会社チームスピリット代表取締役の荻島浩司CEOです。同社が提供する「TeamSpirit」は、働く人の創造的な時間を生み出すために、勤怠管理や経費精算など毎日使う事務処理のシステムをクラウド上にまとめて自動化したサービスで、導入実績を大幅に伸ばしています。新制度への対応をきっかけに、業務効率化や働き方改革をどう進めるか。そのために、システムには何ができるのか。荻島さんにじっくりとうかがいました。
- 荻島浩司氏
- 株式会社チームスピリット 代表取締役 CEO
1996年、当社設立。株式会社東芝および東芝ソリューション株式会社で金融機関向けパッケージ開発や、オペレーショナル・リスクコンサルティングに従事、2009年よりセールスフォース・ドットコムを利用したクラウド事業に参入、「チームスピリット」を企画・開発。
収集・登録・管理は想像以上に面倒
――システム化必須の企業とは
今年10月からマイナンバーの収集がスタートします。従業員が一人でもいる企業はすべて、制度への対応を求められます。
今年10月には個人へのマイナンバーの通知が始まり、各自治体から住民へ通知カードが郵送されます。それ以降、各企業の人事管理部門では、従業員から個人番号を収集することが開始できるので、マイナンバーを適切に収集・保管・管理する体制を整備しなければなりません。来年1月1日提出分から、社会保障や納税などに関する調書・申告書類にマイナンバーを記載する必要が生じるためです。とは言っても作業そのものは複雑ではないので、従業員が数名程度の小規模事業者なら、とくにシステムを入れなくても、それこそ紙の台帳と手作業の管理で対応できるのでそれほど恐れる必要ははないでしょう。しかし一定以上の従業員数を抱えていると、やはりそうはいきません。関連する帳票は300~400ほどあるといわれ、それらに転記するために、パート・アルバイトを含む全従業員とその扶養家族の分までマイナンバーを収集・登録し、管理しなければならないからです。
従業員からマイナンバーを集める際は、番号の確認と同時に、なりすましを防ぐための本人確認の徹底が必須。しかも一度番号を集めたらそれでおしまいというわけではなく、従業員の入社や退社、異動、扶養家族の変更などが生じるたびに、何らかの対応が必要です。当然、遠隔地にいくつも拠点がある企業や、パートやアルバイトが多く、人の出入りが激しい企業、外部委託者に謝礼や原稿料を払うことが多い企業などでは、対応はより煩雑になります。情報漏えいのリスクも増大するばかり。適切なシステムの導入・改修を検討するのが、やはり合理的な解決策ではないでしょうか。
対応の必要性を認識していながら、システム導入を含め、具体的な準備が遅れている企業は少なくありません。
私たちは日々、“重要で緊急性も高い”けれど“生産的ではない”課題に囲まれて働いています。そしてそれらの解決は、生産的でないがゆえに、後回しになりがちです。マイナンバーへの対応にも、同じことが言えるのではないでしょうか。弊社では、現場のビジネスパーソンが日々接する、重要だけど面倒なタスク――勤怠管理・就業管理・経費精算・工数管理・電子稟議などを手間なく行うための機能をワンパッケージでまとめた、クラウド型ERPフロントウェア「TeamSpirit」を提供し、サービス開始から約3年で360社超のお客様に導入していただきました。マイナンバーが利用できる目的は社会保障と税の分野ですが、TeamSpiritが扱うタスクも、たとえば勤怠管理のデータは給与計算に、就業管理は社会保険につながるなど、社会保障と納税の分野を目的としています。つまり、TeamSpiritのサービスはマイナンバーへの対応にも親和性が高いわけです。
そこでこのたび、TeamSpiritに追加する拡張機能として、マイナンバー登録・保管・管理機能とERPへの連携機能を提供する新サービス「TeamSpirit MN」を、リリースする運びとなりました。発売は10月を予定しています。
新サービスは、すでにTeamSpiritを導入している企業が対象ですか。
いいえ。TeamSpirit MN単独でも、もちろんご利用可能です。【図1】をごらんください。MNのみを導入する場合は、いわば台帳替わりに使っていただくイメージで、人事部門の業務担当者が従業員本人から直接、通知カードと住民票の現物を預かり、マイナンバーを一括登録します。それに対し、ベースになるTeamSpiritと新サービスを組み合せて使う場合は、従業員自身が通知カードと住民票をスキャナ、カメラで収録して登録する、セルフオペレーションが可能になります。TeamSpiritはもともと、人事部門だけでなく、現場で働く社員一人ひとりが使うためのワークフロー・サービス。これに、マイナンバー登録のワークフロー機能を無償追加し、入社時や退職時、あるいは扶養家族が変わったタイミングなど社会保障と税の分野を目的とした個人番号管理が必要となったタイミングでTeamSpirit MNを呼び出し連携することができるので、個人が個人番号登録の有無を判断する必要なく、漏れなく従業員の個人番号を収集することができます。双方の作業負担が大幅に軽減されるわけです。ただし、TeamSpiritのネットワークに入るIDを、マイナンバー登録のためだけにアルバイトや外部委託者にまで付与するのは非効率ですから、そうした雇用形態が多い企業はMNのみ導入し、業務担当者の一括登録で対応するのが得策でしょう。
マイナンバーの登録・保管・管理に特化した新サービスTeamSpirit MNは本来、既存サービスTeamSpirit のアドオン機能でありながら、システムとしてはお互い独立した建て付けになっています。「マイナンバー制度の目的や、情報漏えいに対する重い罰則規定を考慮すれば、開発上、それは当然の帰結でした。
ムダを排し創造的な時間を生み出す“ERPフロントウェア”
御社の基幹商品であるTeamSpiritについてくわしくお聞かせください。「ERPのフロントウェア」とは、どのようなコンセプトなのでしょうか。
先ほども申し上げましたが、多くのビジネスパーソンは、重要、あるいは緊急だが生産的ではないタスクに囲まれて働いています。たとえば、勤怠管理や経費精算、残業申請、工数管理といった日々の事務処理ですね。私たちは、これらの面倒なルーチンワークを徹底して簡素化・省力化することで、働く人の創造的な時間を生み出し、チームワークを引き出すサービスを提供したいと考えました。それが、ERPのフロントウェアTeamSpiritを開発した最大の動機です。
残業時間を計算して給与計算のためのデータを作成する勤怠管理システムや、従業員が立替えた経費の内容を承認して会計データに反映させる経費精算システム、プロジェクトごとに作業時間と経費を集計して原価管理用のデータを作成する工数登録システムなど、支援ツールは各種ありますが、多くの企業ではそれぞれのシステムが縦割りで、データも連係していません。そのため、入力担当者が同じ情報を複数システムに何度も入れたり、忙しい現場の社員が別々の管理部門から同じ内容の問い合わせを何度も受けたりといったムダが生じやすく、現場の生産性を阻害しているのが実情ではないでしょうか。億単位の高額なERPパッケージを導入し、自社専用にしっかりとシステムを作り込むという選択もありますが、社内向けにそこまでリソースを投じられる企業は限られます。
では、どうすればいいのか――従来のアプリケーションの構造【図2】では、たとえば勤怠管理は給与計算に、経費精算は財務会計に、それぞれオプション的な機能として組み込まれています。つまり縦割りシステムの中に、業務担当者が使う基幹システムと、一般社員が使う後から付け足されたオプション機能の部分があるわけです。オプション機能とは、勤怠管理であれ、経費精算であれ、要するに「何らかの情報をしかるべき手順で承認申請し、登録するプロセス」のことでしょう。私たちは、このオプション機能を各システムから切り離し、基幹システムから独立した社内横断的な“承認申請ツール”として再構築しました【図3】。TeamSpiritは、勤怠管理から就業管理、経費精算、工数管理に電子稟議まで、あらゆるワークフローをクラウドで一元管理するサービスを提供。各機能を連動させ、自動化し、さらに必要なデータを給与計算などの既存パッケージに連係することで、“ちょうど良いERP”を実現します。これが、ERPのフロントフェアというイノベーションです。
“本物のクラウド”だから実現できる世界最高水準の安全・安心
具体的にどういう機能がどのように連動し、自動化されるのでしょう。
たとえば勤怠管理でいうと、WebタイムレコーダーやICカード、モバイルなど多彩な方法で出退勤の打刻ができ、打刻と同時に、今日の予定や成果を簡単なコメントで社内SNSに投稿する機能を装備しています。労働時間の管理だけでなく、社員の仕事の可視化や情報共有のツールとしても活用できるので、組織活性化の効果が期待できます。また、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードで勤怠打刻する場合は、利用履歴データの取り込みにより、勤怠管理と経費精算を一度に処理することが可能です。
出張旅費・交際費などは、ワークフローで事前の利用申請ができ、承認を経てはじめて事後精算が可能に。セットで対応・管理する仕組みです。交通費は、組込まれた「駅探」でも検索が可能。EB(エレクトロニックバンキング)との連携による経費立替分の自動振込や会計データの自動作成など、申請・承認・精算・振込・仕訳の一連の業務がすべて電子化されるので、小口現金の管理も必要ありません。現場の社員から経理担当者まで、手間なく、ミスなく業務を遂行できます。こうした諸機能のアイデアについては、すべて社員視点で発想し、使いやすさを追求しました。繰り返しになりますが、TeamSpiritは、現場で日々忙しく働く社員一人ひとりが使うためのサービスですから。
クラウドによるサービス提供そのものは、最近、急速に普及しつつあります。
そうですね。しかし残念なことに、「サーバーがインターネット上にある」だけで、クラウドと称している製品が多いのも事実ではないでしょうか。クラウドによって、せっかくインフラがメンテナンスフリーになったにもかかわらず、アプリケーションの改造や保守に手間や費用がかかるようでは、そのメリットも台無しです。TeamSpiritはマニュアルいらず。直感的な操作によって、ブラウザさえあれば、誰でも設定だけですぐに使い始めることができ、アプリケーションやヘルプデスクまで一体のサービスとして利用できます。法改正に対応するアップデートや、多くのお客様からのフィードバックによる年2回以上のバージョンアップも無償で提供されます。
さらにTeamSpirit のクラウドプラットフォームには、金融機関も利用する、世界で最も安全性・安定性に優れたSalesforce1を採用。マルチデバイスのモバイル環境でも、安心してアプリをフル活用することができます。他と比べて圧倒的にセキュアなシステム環境も、TeamSpiritが多くのお客様に選ばれている理由の一つでしょう。
実際にTeamSpiritを選んだ企業にはどのような変化が起こっているのでしょう。
TeamSpiritは、業界を牽引する優良企業や急成長中のベンチャー企業をはじめとする先進的な企業に数多く導入されています。そうしたお客様にとっては、やはり業務のスピードアップが至上命題。ワークフローや社内SNSなどの機能を活用することで情報共有の加速が促進されたと、非常に高く評価されています。また、急成長企業の中には、組織やビジネスの拡大に内部統制のシステム整備が追いつかず、ただでさえ忙しい現場の社員にも大きな負荷がかかっているという企業が少なくありません。そうした問題の解決にこそ、TeamSpiritが大きな効果を上げているのです
弊社自体、受託型からクラウドのサービス提供へと業態を大きくトランスフォームし、第2のスタートアップの道を踏み出すという“強烈な変化”を体験しました。そしてその変化が私たちに、どんなに忙しくても創造的な時間を自ら作り出すことの重要性を教えてくれたのです。緊急だけど生産的でない社内のタスクを解決して、現場の社員を“いきいき”させるTeamSpiritのサービスは、日々チェックや事務処理に追われがちな人事部門の方々にも、創造的な時間をもたらしてくれるに違いありません。