求職者の信頼を失うことも――?
「リファレンス」に関する微妙なかけひき
知っているのに伝えられない… 企業と求職者の間に立つ、紹介会社の悩み
何事にもグレーゾーンはつきものだが、転職に関するそれといえば「リファレンス」が挙げられるだろう。前職の会社に問い合わせて、職務経歴書の内容などが間違っていないか確認するというものだが、求職者からすると、なんとなく信用されていないような感じがして、いい気はしないものだ。また、在職中に転職活動を進めている場合などは、それによって活動が会社に分かってしまわないかと不安になることもあるだろう。
各社、やっていることですから…
「今度から、候補者には事前に『リファレンスを行います』と伝えていただけますか。これまでは内々定の段階で連絡していたのですが、だったら辞退する、という方が何人か出てきてしまったのです。こちらとしても効率的に進めたいものですから…」
こう宣言してきたのは外資系企業のP社である。職務経歴書の内容が間違っていないかなどを、前職の会社の関係者に確認する「リファレンス」というプロセスは、外資系企業でよく行われている。しかし、これを嫌がる転職希望者は多いのが実情だ。
P社がいうように、リファレンスを行うといったら、「辞退します」という人材がいてもおかしくはない。前職で何らかの人間関係がこじれて転職する場合、あるいは会社に内緒で転職活動を行っている場合、リファレンスによって問題を引き起こしたくないという気持ちもよく分かる。また、そうした問題がなくても、「この会社は、内々定の段階でリファレンスを行いますよ」と言われれば、なんとなく不安だから応募自体をやめるというケースも増えるだろう。
「もちろんそれは織り込み済みです。でも、私たちの業界ではほとんどの会社が行っていることですしね。それに弊社の場合、2次面接でアジア地区の担当役員が会いますから、役員にわざわざシンガポールから出張してもらって、その後に辞退…というのは非常にまずいんですよ」
外資系企業の場合、人事担当といえども実績をシビアに評価される。採用目標に対しての達成率もそうだが、最終段階での候補者の辞退も、上司の印象をかなり悪くするのだろうと容易に想像できた。
「分かりました。では求人票の『備考』に、最終段階でリファレンスがある旨を明記しておくようにしましょう」
私はP社からの依頼を受けることにした。P社の場合、いきなり前職の会社に接触するのではなく、候補者が「この人にリファレンスを行って欲しい」と対象を指定できる。自分の信頼できる上司や仲の良い同僚などを選ぶケースが多いようだ。だから、そのことを併記すれば候補者としても、一応は安心かなという気がした。
その日から、転職相談でP社を紹介する場合には、念のためリファレンスのことについても説明し、「過剰な心配は不要です」とフォローするようにした。