人事マネジメント「解体新書」 第五回
「女性」を活かせる会社でなければ生き残れない!
少子・高齢化が一段と進み、労働力人口の減少傾向が止まらない。一方で、「男女雇用機会均等法」が施行されて以降、男女の格差がなく、女性にも開かれた職場づくりが企業の「努力義務」へと課されてきた。女性活用は、日本経済を支えていくという観点でも、極めて重要な課題なのである。にもかかわらず、一部の企業や業態を例外として、その実態は“お寒い”ケースが少なくない。どうして、日本ではなかなか女性活用が進まないのか?思うに、制度として表面上整備されているようでありながらも、そこには根深い「男性社会」の壁(偏見)が存在し、それが女性活用を阻んでいる側面があるのではないか。本音の話、女性活用にあたって私たちはどうしていけばいいのか。今回は、この古くて新しい問題にスポットを当ててみた。
なぜ、女性活用なのか
◆女性活用は、今後の企業生き残りの「条件」に
女性が生き生きと仕事ができれば、会社は絶対に伸びる!と固く信じて疑わない私であるが、女性を活用することの「意味」について、いま一度整理してみよう。
まず中・長期的に考えた場合、日本における若年労働力の減少は避けられず、これまでのように「男性正社員」を中心とした体制を維持することが極めて困難になってきている。人事マネジメントにおいても「ダイバーシティ(多様性)」の実現が叫ばれているように、少しでも早く女性が活躍できる“土壌”を形成しておく必要がある。
また、社会環境の変化とともに、企業と市場の関係も大きく変化してきた。特に女性の社会進出が盛んになるに従い、女性が消費者の声を代弁するケースが増えてきた。女性の経済力が高まり、購買決定権が大きく女性にシフトしてきたのだ。すると、新たな市場に密着した企業活動が重要となってくる。そのため、女性を活用してきめ細やかな商品やサービスを企画、販路を拡大することなどによって、市場ニーズを着実につかんで成長している企業が出てきた。例えば、医薬品メーカーや食品メーカーなど、一昔前までは「男性の職場」と考えられてきた分野で、最近では女性が活躍することが珍しくなくなってきた。
さらに、女性の高学歴化が進み、大卒女子の就職率も高まり、男子と変わらないレベルに達してきた。私見だが、学生時代の成績を比べてみると、男性よりも女性に優秀な人がかなり多いのではないか。実際、採用面接や筆記試験の結果をみてもそう感じる。もはや、女性だから「補助業務」を担当させていればいいという時代ではなくなってきているのだ。現在では、補助業務はどんどんとアウトソーシングされていく。その点から考えても、女性も男性と同じように「基幹業務」を担当してもらわなくては経営が成り立たないのである。今日的な能力や知識・スキル、さらにきめ細やかでかつスピード対応が求められる現在、これまでのように長期雇用を前提とした男性正社員を中心としたシステムに依存した形で諸々の企業活動を進めていくことは難しいし、何より合理性に欠ける。
◆女性を活かすことのできる企業の「業績」が伸びる
女性を活用することの「有効性」を証明するデータを紹介しよう。21世紀職業財団が実施した「企業の女性活用と経営業績との関係に関する調査」によると、女性の能力発揮促進に取り組んだり、管理職へ登用するなど、女性の活用が進んでいる企業ほど業績は良いという結論を出している。なかでも驚くべき結果は、「5年前と比較した女性管理職比率の変化」が「大幅に増えた」企業の売り上げ指数が173.7であるのに対し、「大幅に減った企業」の指数は83.5と、実に2倍以上の差があることだ。女性を活かせる企業になることが、今後の成長に向けての必須条件となっていることが如実に出ている。図1にその概要をまとめてみたが、詳しい結果を知りたい方は、21世紀職業財団のホームページを参照してみてほしい。
◆法的な整備も整い、「管理職」へ登用する企業も徐々に増えてきた
さらに、ここ20年あまりの間で、女性の労働市場への参加を促す法的なフレームも整ってきた。1986年の「男女雇用機会均等法」を皮切りに、1992年「育児休業法」、2000年「改正男女雇用機会均等法」「男女共同参画社会基本法」、そして2007年の新たな「改正男女雇用機会均等法」へと歩んでいくプロセスにおいて、女性を活用していこうという社会的な「コンセンサス」が醸成されていった。
このような“追い風”から、女性を管理職へと登用する動きも徐々にではあるが、活発化してきた。厚生労働省の調査によると、2006年の女性の係長相当職の割合は10.8%、課長相当は5.8%、部長相当は3.7%と、1989年時点に比べ、それぞれ2~3倍に増えている。ただ、係長相当職でもまだ1割強にとどまっており、いかに女性管理職を増やしていくかが、今後の課題の1つである。
◆しかし、人事制度改革の取り組みは“足踏み状態”に
ところで、景気回復以降の近年における「人事制度改革」の動きのなかにあって、女性活用に関してはどうも各企業の取り組みは全般的に遅れており、“足踏み状態”が続いている。
『日本の人事部』では2007年4月に「人事部・一般従業員それぞれが見た『我が社の人事制度』に関するアンケート」を発表したが、そのなかで過去3年以内に人事制度の改革を実施した企業に対して、具体的にどのような人事制度の改革が行われていたかを聞いている。その結果は、
2.定年の延長・・・14.7%
3.育児休暇の充実・・・7.5%
4.柔軟な勤務時間への対応・・・7.0%
5.女性雇用の改革・・・1.3%
6.その他・・・25.3%
となっており、何と「女性雇用の改革」は全体のわずか1.3%にとどまっていた。
今年4月から「改正男女雇用機会均等法」が施行され、女性活用に対する改善が期待されているが、積極的な企業は少数派なのである。「成果主義の導入」やその他の制度改革と比べると、非常にトーンダウンしている。これも、企業が本音部分では女性活用に本気ではないからだ。その理由について、制度改革推進の“イニシアティブ”を握っているのは多くは「男性管理職」だからである、と断じるのは私だけではないだろう。このことについては後述する。
重要なのは「男女差」ではなく、「個人差」
◆女性を活用しないのは、人的資源の無駄遣い
そもそも、社会人としての能力やレベル、スキルに「個人差」はあっても、「男女差」はないはずである。
前述したように、女性の戦力化を推進し、女性に活躍の場を与え、女性が働きやすい環境づくりのためのインフラを整備している企業では、女性の生産性が高まり、業績も向上している。女性を活用しないというのは、人材という経営資源の大いなる無駄遣いと言わざるを得ない。
また、せっかく女性を採用したものの、「期待したほどの成果が上がらない」「むしろ手間隙がかかってマネジメントに苦労する分、会社側の負担が大きい」と今度は一転して女性活用に消極的となり、従来のような男性中心の人材活用方針へと戻ってしまう企業もある。ここはもう一度、「個人差」という観点から、女性を活用することの意味を知ってほしい。
◆「個人」に期待する企業ほど、「利益率」が高くなっている
別の調査であるが、経済産業省がまとめた男女共同参画研究会報告「女性の活躍と企業業績」によると、男女を区別せず、「男性だから」「女性だから」という発想がない企業では、個々人の能力・成果に基づく評価・処遇をする傾向(=実力主義)があるとレポートしている。
そして、女性が活躍でき、経営成果も良好な優良企業というのは、「女性が活躍できる風土を持つ」「女性を上手に使って利益を上げるような企業の人事・管理能力が高い」企業だと評価している。具体的な特性としては、「男女間の勤続年数格差が小さい」「再雇用制度がある」「女性管理職比率が高い」などであった。(図2)
◆男女に関係なく、「個人」の能力を信じ、仕事を任せてみよう
単に女性比率が高いから、利益率が高いという単純なことではない。そうではなく、女性も活躍できるような人事・労務管理を行っていること、すなわち女性が活躍できる「風土」を持っていることが、真の要因であるという結論を出している。そして、それは男性においても同様だ。
つまり、女性が働きやすいかどうかではなく、「性差」にとらわれず「個人」の成長に期待し、能力を活かすことができている企業においてこそ、業績が高くなっているのである。つまり、男女に関係なく、個人の持つ能力を信じ、思い切って仕事を任せてみることがとても重要なのだ。
それなのに、未だ「女性は扱いにくい」「女性の前だと気を遣うので、どうも叱れない」といった男性管理職の声を聞くことがあるが、これなどは自ら「マネジメント能力がない」「人を判断する目がない」と言っているに等しい。こういうタイプが管理職でいると、その下で働く女性社員はたまったものではない。企業業績に対してマイナスということだけにとどまらず、彼女たちのモチベーションダウンを招き、優秀な人材が流出してしまう危険性がある。少子高齢化がさらに進む今後、このような状態が続けば企業力を失うばかりである。
女性活用の「基本」
◆女性活用方針の明確化、インフラ整備が「前提条件」に
以上述べたような現状を踏まえて、改めて女性活用のあり方の「基本」を整理してみることにしよう。それには何よりも、経営トップの理解の下、「女性活用方針」を明確に定め、宣言し、そのための制度面での整備を図り、全社的に女性活用の風土を形成していくことである。これらが「前提条件」となる。
実際問題、女性の戦力化は人事部門の思い、あるいは女性社員本人の努力だけで実現できるものではない。むしろ、それだけでは“空回り”することが少なくない。「男性と等しく女性を活用していく」というトップのメッセージを明確に示し、全社的に女性活用の“必然性”に対するコンセンサスを確立することを最優先したい。
具体的には、現場の管理職、同僚の男性社員(女性社員)、さらに顧客・得意先まで、さまざまなレベルでの理解と強力が欠かせない。これら各方面への周知徹底も並行して行っていく。
と同時に、各種人事施策・制度面で女性が活躍できる基盤を整備することも忘れてはならない。これには、以下の2つの観点からのアプローチが必要だ。
1.母性保護から
産休だけではなく、育児・介護休業制度の充実を図るなど、柔軟な勤務形態で働くことができるよう、女性の就業を取り巻く環境整備を促進することである。能力の高い女性が健全な家庭を営みながら、職場でも活躍できる環境を用意することは、近年の「ワーク・ライフ・バランス」に果たす企業の責任が注目されるように、不可欠な事項である。充実した私生活を送ることができる環境が、より高い仕事のパフォーマンスを実現していくことを意識してほしい。
2.人事制度から
ともすると、男性正社員中心の人事制度となっていた各種制度の見直しも必要となってくる。男女の別による賃金格差はあってはならないことだが、現実には担当業務が異なるという名目により、賃金格差の残っている企業も散見される。昇進・昇格、教育機会・研修内容などについても、同様のことが当てはまるだろう。また、制度的には格差はなくても、基幹職務への就業や各種意思決定への関与機会などの面で、依然として男性優位の考え方が色濃く残っている企業も少なくない。こうした部分での改善が急務である。
◆制度運用でカギを握る「現場の管理職」の存在
見かけ上、制度面で男女格差は解消されているといっても、運用の面では歴然と格差が存在しているケースが多い。これでは、女性の活躍を期待することは難しい。重要なのは、基盤整備というハード面だけではなく、女性活用の運用面であるソフト面を充実させることである。そして、そのカギを握るのが「現場の管理職」の存在である。多くは「男性管理職」となる。
はっきり言って、これら管理職の理解と現場での指導の方向性のいかんで、女性活用の成否が決まるといっても過言ではない。しかし現実をみると、それにはほど遠い…。例えば、何気なく彼らはこんな言葉を発しているのではないだろうか。
・初対面にもかかわらず、いきなり「結婚の予定はいつ?」「彼氏はいるの?」
・連日、残業が続いているのに一所懸命頑張っている女性に向かって、「無理しなくてもいいよ」「旦那さん(彼氏)が心配しないの?」
・新しいクライアントの前で、同行した上司が開口一番「今回は、女性ですみません…」
・営業成績が上位にいる優秀な女性に対して、「君、女性にしては凄いね」「何か特別なことやってるんじゃないの」
・会議で反対意見を述べたら、「可愛い顔をしている割に、厳しいことを言うんだね」
もちろんセクハラ発言などは問題外だが、それにしてもこのような女性のヤル気を失わせる言葉を発してしまう男性管理職はいまだに多い。というのも彼らは、これまで男性中心の組織のなかで育ってきたこともあり、女性の活用に慣れていない。だから、女性の気持ちをきちんと理解できないし、マネジメントの仕方もよく分かっていない。こうした男性管理職の下にいくら優秀な女性を配属してもモチベーションは下がる一方で、女性戦力化がうまくいくはずがない。百害あって一利なし、である。彼らを外せ、とは言わない。けれども、男性管理職の「意識改革」は早急に行ってほしい。そうしないと、優秀な女性ほど辞めていくことになる。
◆女性活用には、現場の男性管理職の「意識改革」が不可欠
具体的には、男性管理職向けの研修などで、経営トップの強い女性活用方針を伝え、女性活用が今後の企業の生き残りのために不可欠の道であるということを徹底して教え、十分な理解を得ることである。さらに、能力や資質の差は男女差によるものではなく、あくまで個人差に過ぎないこと。そして、適切なマネジメントを行っていけば、女性は男性と全く変わらない、あるいは男性以上の能力を発揮できるということを周知徹底することである。
そのためにもこれまでの男性正社員中心のビジネスの進め方を排し、女性に配慮した部門、部署経営を行う必要があることを気づかせることである。それは同時に、男性社員にとっても有用なことなのは、賢明な読者はもうお気づきのことだろう。
このように女性社員のモチベーションを高め、戦力化を実現していくことが管理職としてこれから強く求められる要件であり、それが生産性を高め、ひいては企業業績の向上につながるということを、その任にある方には十分自覚してもらいたい。
とにかく、女性社員にも男性と同じように仕事を任せてみよう。そうすることによって、彼女たちは自覚し自律し、責任感もより強くなっていく。そして、結果を出すだけでなく、周囲が思う以上に成長していく。これは断言してもいい。以下に紹介するカゴメの「女性活躍推進プロジェクト」における女性社員の「変身ぶり」は、そのことを見事に証明している。
事例:カゴメ「女性活躍推進プロジェクト」にみる女性社員の自律と成長
◆女性の「離職率」を3年以内に半減させる!
食品メーカー大手のカゴメでは、この10年あまり女性総合職を積極的に採用してきた。ただ一方で、5年以内に44%が離職しているという現実があった。「少子化が進み、労働力不足が深刻化するなか、これは非常に大きな人材のロスです。さらに当社の商品の場合、8割が女性ユーザー。商品開発や売り方などについて、よりいっそうの女性活用が求められています」と語るのは、今回のプロジェクトメンバーであり事務局も兼務した人事総務部人事グループの芦原幸子さんである。
もちろん、これまでも育児支援を手厚くするなど、カゴメではさまざまな手を打ってきた。しかし、なかなか総合職の女性社員が定着していかなかった。そこで、女性社員の離職率を3年以内に半減するために、会社からの押しつけではなく、女性社員の視点から考えた働きやすい職場環境や仕組みについて議論し、経営へと提言する「女性活躍推進プロジェクト」(通称:リリコプロジェクト)を発足させた。2006年9月のことである。プロジェクトメンバーは入社5年目以上、公募により全国から14名(後に1名加わり15名)が選出された。
◆「無」から「有」を生み出すまでのプロジェクトを体験
「約半年間で6回に及ぶプロジェクトでは、日常業務から離れ1ヵ月に1回の頻度で行うワークショップと、その間における自主活動(他社へのヒアリング、社内アンケート、情報収集や分析・レポーティング、発表資料の作成など)を行い、最終的に『経営への提言』として経営に対して離職率の低下に向けた提言策『カゴメ女性社員が活躍するための提言~強いカゴメになるために~』を報告しました」(芦原さん)
プロジェクトにおいては、メンバーが自律的に考え、行動するために次の2つの方法を採用した。
1.ワークショップ形式
「講師(教える)→生徒(教えられる)」という一方通行の学び方ではなく、「ファシリテーター⇔参加者」という双方向のやり方を重視し、ファシリテーターの問い掛けや問題提起に対して全員が当事者となって考え、発言するというスタイルを取った。
2.プロジェクトマネジメント経験
2人1組で行う「プチプロジェクト」においては、各々が1ヵ月交代でプロジェクトマネージャーを担当。また、『経営への提言』では全員で1つの提言をまとめ上げるというハードな経験を通じて、「無」から「有」を生み出すまでの一連の流れ(プロジェクト全体)を体験した。
「プチプロジェクト」では、カゴメの抱える女性の問題について以下の7つのテーマを設定し、社内外へのヒアリングや調査を行い、徹底的に話し合った。
2.長時間労働
3.モチベーション
4.両立支援制度
5.先取り不安
6.出産・育児関連
7.コミュニケーション
ここで浮かび上がったのは、制度よりも意識や風土の問題。「結婚と出産が一番だよね」「こんなに残業して、だんなと子どもがかわいそう」など、男性管理職の何気ない一言で傷つく女性は少なくなかった。上司とのより良いコミュニケーションが彼女たちのやる気を左右することも分かった。
◆メンバー間の交流を促進、連帯感が強まる
「事務局を担当していたのですが、あるメンバーが参加できなかったときにプロジェクトに加わり、以降、ずっと参加することになりました。正直、最初は大変でしたけど、自分自身にとって得がたい経験を積むことができました」と言うのは人事総務部秘書グループの升明理恵さん。実は升明さんは他社の「一般職」に当たる業務職だが、「総合職の人たちと交わってプロジェクトに参加できたことは、とても有意義なことでした」(升明さん)
プロジェクトが進むに従い、メンバー間にも“なかだるみ”や“齟齬”も出てきたという。しかし、やり続けることで、そうした問題も払拭していった。年齢や担当職務が異なる女性社員同士の交流が促進していき、相互の連帯感を強める効果も出てきたというわけだ。
「例えば、営業職の女性にとって、他社へインタビューに行ったり、仮説を検証したり、いろいろな事象を概念化したりする作業などは、初めての経験でしょう。さらに、7つのプロジェクトで得られた結果を1つにまとめ、それを経営者への提言として発表したわけですが、これはとても難題でした。それこそ、プレゼンテーションの直前まで皆で議論していましたから。プロジェクトのメンバー全員にとって、このような体験はこれまでしたことがなかったわけで、まさに“修羅場体験”でしたね」(芦原さん)
ちなみに、経営に対して「女性の活躍推進に必要な3つの要素」としてまとめたのが図4である。マネジメントやコミュニケーションも大事、制度を整えることも大事だが、それらの大前提として「カゴメにとって女性活用は必要である」と、全社員が共通して認識することが必要不可欠だと彼女たちは判断した。だからこそ、まず取り組むべきことは、女性活躍推進の土台となる「意識の共有化」だと訴えていった。そして、コミュニケーションやマネジメントにおいてやるべきことを、彼女たちなりの視点で整理していった。この提言はカゴメの抱えるさまざまな問題を浮き彫りにし、想像以上に経営者の心を大きく動かしていった。
経営者の前でプレゼンテーションを行うのは全員が初めてだった。というよりも、この年代でそういう経験を積むことは男性でも少ないだろう。しかし、経営への提言という最終ゴールに向けて半年間という期間、皆で徹底して議論し合うことにより、これまで表面にあまり出てこなかった彼女たちの「潜在能力」が、「顕在能力」として弾けることになった。俗に言う「一皮むけた経験」だ。
◆プロジェクト「成果物」として得られたもの
今回のプロジェクトではさまざまな成果が得られたが、それは以下のような「プロセスによる成果」と「最終成果」の2つに分けることができる。とはいえ、それなりの修羅場経験を経なければ、こうした成果を得ることはなかなか難しい。
(1)プロジェクトを進めるプロセスで得られたもの
- 参加メンバー間のネットワーク構築
- 自分や仲間に対する気づき
- コミュニケーションスキルの向上
- 課題設定力・概念化力・統合力の向上
- 曖昧耐性の強化
- 完遂力
- チーム力
(2)最終成果物
- 経営者の巻き込み
- 職場での報告会開催
- 女性活用のための課題整理と着手すべきテーマの明確化
◆「経験」を通してでしか人は成長できない
「チームとして何かをつくり上げていくことは大変でしたが、同時に面白い経験でもありました。長いプロジェクトの間、ときには着地点のみえないときもありましたけれど、全員で意見を言い合い、やり切ることで何かしらの結果を得られたこと、これは私にとって非常に大きな自信となりました」(芦原さん)
「今回のプロジェクトを経験することにより、私としては社内カウンセラーとしてのキャリアパスを発見することができました。この4月から、産業カウンセラーの資格を取得するために学校へ通っています」(升明さん)
2人に共通するのは、「変わった自分」を意識できていること。そして、仕事をすることに楽しさ、面白さを強く感じ始めていること。おそらく、それは他のメンバーも同様だったことだろう。結局、若い頃にこのようなプロジェクトに代表される修羅場経験を積むこと、そしてたとえ小さくても何かしらの成功体験を積むことにより、人は仕事に対して「本気」の思いを持つことができる。半年間での経験であるが、カゴメのプロジェクトに参加した女性たちは、周りが考える以上に大きく成長していったことは想像に難くない。
女性の働きやすい職場は、男性も働きやすい
◆女性活用が組織の“あるべき姿”につながる
女性だからと補助的な業務を粛々とこなすことのみに専任していたら、変革は起こらない。成長することも難しい。カゴメのプロジェクトのように、本気の仕事(解決を迫られている課題)を与えられ、ぎりぎりの局面で成し遂げなければならない状況に追い込まれたからこそ、彼女たちは大きな成果を出すことができたのである。そして、これまでは男性ばかりがその点で“いいとこ取り”をしてきたわけだが、これは健全な状態ではない。
大切なのは、「女性にも男性と同じような仕事を与えること。管理職も女性をパートナーとしてみて、対男性と同じような支援をする」というごく当たり前のことである。このように本質的かつ合理的な「関係」とするだけで、思いもよらない大きな変化が本人(そして組織)に起きることを、カゴメのケースは示してくれた。言うまでもないが、女性の働きやすい職場は、男性も働きやすいのだ。その意味でも、女性を活用することが、組織の“あるべき姿”へとつながっていく。
◆仕事を通しての“ダイナミズム”を実感させる
仕事を通じて得られる「喜び」を男性が独占してはいけない。人口の半分は女性が占めている。パートナーとして切磋琢磨していくことにより、お互いが成長していく。また、男性と比べ幾つかの面でハンディを背負う女性が活躍できる「場」を整備していくことは、いろいろな立場で働く人のことを考えても有用なことである。その結果、組織のあり方やマネジメントがより“目的的”となり、ともすれば機能不全を起こしている現在の男性中心のものから“まっとうな組織”へと変貌していくと思っている。
繰り返しになるが、女性活用において大切なことは、女性に責任のある仕事を任せてみることである。当初はうまくいかないケースもあるかもしれない。そこは我慢で、とにかく彼女たちを信じて待つことだ。そして、そこでのさまざまな経験から、彼女たちは仕事に対する興味・関心や働きがいを覚えていき、自らの力でもって成長していく。こういう仕事を通しての“ダイナミズム”を実感してもらうことが彼女たちはもちろん、組織にとっても一番ではないだろうか。生き生きと働くための環境整備が「必要条件」としたら、これらは「十分条件」と言える。というか、これがなくては真の女性活用はない。
で、結論。タイトルにもあるように、「女性」を活かせる会社でなければ生き残れない!である。ただ、いきなりそこまでは難しいという方には、女性の本音、あるいは感情といってもいいかもしれない。傾聴と共感の気持ちをもって、そうしたものを少し自分のなかに取り入れていくことにより起こるちょっとした「変化」を味わってみてはどうか。内なる“女性化”の疑似体験である。それが、より良いパートナーとなるための第一歩となるだろう。
そして、女性は自分の能力に、もっと自信を持ってほしい。学生時代、男性より優秀だった人は多いはず。だから会社でも、きっとできる。
解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)