緊急事態宣言が全面解除
次の感染ピークを想定して
今から取り組んでおきたい職場の感染症対策
ミネルヴァベリタス株式会社 顧問
信州大学特任教授
本田茂樹さん
新しい働き方を行動変容で定着させる
オフィスで仕事をする際に、注意すべきことはありますか。
感染防止対策として、人の集中と飛沫感染・接触感染のリスクを抑えることが全ての基本です。執務スペースでは、2メートル程度のソーシャルディスタンスを確保することが大切です。隣の席の人と出社が重ならないように勤務ローテーションを組む、デスク同士の間隔を確保してフリーアドレスにする、といった工夫も検討してみましょう。単なる新型コロナウイルス感染症対策ではなく、オフィス空間をどのように有効活用するか改めて考えることも必要かもしれません。
エレベーターや複合機、ミーティングスペースなどの共用部分は、接触感染の原因となり得ます。ボタンやドアノブ、テーブルなどは消毒用アルコールや洗剤を使って拭くと同時に、指で触らなくても済むような工夫をするとよいでしょう。職場の換気も忘れず、そして従業員にマスクの着用とこまめな手洗い、アルコール消毒を促すことも必須です。
手洗いや距離を取った会話などの必要性をわかっていても、アクションにつながらない人もいます。
従業員への働きかけで大切なのは、行動変容を促すことです。意識しなくても自然と取り組めるように、行動のハードルを下げる仕組みをつくることが大事です。
例えば、寒い季節に手を洗うとき、水が冷たいと30秒も洗えないという人もいるでしょう。化粧室の手洗い場の水温を上げ、心地よく洗えるようにするだけでも、手を洗わない人は減るのではないでしょうか。アルコール消毒も、席から遠く離れた場所にあると、そこまで行くのが面倒になってしまいます。職場の島ごとにアルコールボトルを置いておくなど、動線にも配慮した工夫をしましょう。
「体調が悪くても無理して出社する」という点については、これまでの認識を切り替えていくことが必要になってきます。体調が悪くても出社して働くことが、美徳とされていた時代がありました。しかし、感染症にかかって熱や咳などの症状があるのに出社すれば、自分の職場で被害を拡大させてしまいます。
感染症は努力や根性でどうにかなるものではなく、組織の「弱いところ」に攻め込んできます。体調に不安があれば、新型コロナウイルス感染症の可能性が低い場合でも自宅で様子を見るべきです。普通の風邪だったのなら、回復次第出社すればいいのです。影響は最小限に抑えられます。自分自身の安全とともに、組織全体の安全を考えて行動すべきです。
社員の中には、自分から進んで休みづらい、という人もいるかもしれません。社員にそう思わせるような風土があるのなら、ルール化するだけでなく、役員や管理職が率先して行動に移すことで変えていかなければなりません。
施策を決めるにあたって、参考にするといいものはありますか。
業界団体ごとに新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインが出ているので、それを基準にするとよいでしょう。ただし、ガイドラインは業界内の通例に基づいて最大公約数的にまとめたものなので、自社に照らし合わせると現実的ではないものも出てきます。例えば日本旅館協会のガイドラインでは、大浴場の入場人数制限をあげていますが、常時従業員を配置して管理することは、旅館の規模によって難しいかもしれません。別の工夫で対処する必要があります。
また音楽イベントでも、会場の規模のほか、アイドルやロック、クラシックなどのジャンルによっても感染リスクに違いがあることは明らかです。今の時点では安全性の観点から、かなり厳しいレベルで制約をかけていると思われますので、動向をこまめにチェックし、安全性を保ちながら柔軟に対応するといいでしょう。
今後もイレギュラーな勤務形態が続くことになりそうです。従業員に対して、どのようなフォローが必要でしょうか。
程度の差はあれ、ストレスを感じている人が多いと思われますから、いつも以上に心身のケアに目を向けることが大切です。特に在宅勤務の場合は、雑談などのカジュアルなコミュニケーションが大幅に減り、従業員の小さな変化をキャッチしにくくなります。心身の変化を拾い上げる仕組みを用意しておきましょう。通常時から1on1ミーティングを行っている場合は、オンラインでも実施します。また、定期的にコンディションについてアンケートをとるなど、困ったことや悩みなどを申告できるプラットフォームを整えておくことも大事です。
在宅勤務を始めて運動不足になった、という声をよく聞きます。通勤はいい運動になっていたのだと、驚いている人も多いのではないでしょうか。間食の頻度や飲酒量が増えたり、夜更かしをしたりするなど、不規則で不摂生な生活パターンにはまってしまう人もいます。感染症リスクは抑えられても、生活習慣病リスクが高まるようではいけません。企業はITツールをうまく活用し、健康管理を促すとよいでしょう。ヨガやエクササイズの動画コンテンツ配信サービスを利用したり、活動量を管理するスマホアプリを導入したりと、できることはあるはずです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。