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社会人として働くことに健常者も障がい者もない
“当たり前”を取り入れた、これからの障がい者雇用とは

楽天ソシオビジネス株式会社 代表取締役社長

川島 薫さん

トライアル雇用で精神障がいの雇用が大幅増

採用面では、どのようなことを意識しているのでしょうか。特に“続く人材”の獲得に興味があります。

面接は3回行い、三次面接には私も入ります。職務経歴書も参考にしますが、個人的にはそれほど重視していません。仕事で頑張ってきたこと、大切にしていること、気をつけてきたこと、障がいのことなどを、遠慮せずにたずねます。

川島 薫さん(楽天ソシオビジネス株式会社 代表取締役社長)

そして、子どもの頃の話ですね。どのようなお子さんだったのか、ご両親から障がいについてどのような説明を受けているのかなど。休みの日の過ごし方を話してもらうこともあります。「言いたくないことは、話さなくていいよ」と相手を気遣いながら、マニュアルにはないところでその人らしさを見つけていきます。

じっくりと話を聞いていると、上司とうまくいかなかったんだな、会社に不満があったんだな、ということがわかってきます。他責にしがちな人は当社に来ても不満が募ると思うので、採用には至らないですね。

乱暴な言い方をすると、当社は「自分の給料は自分で稼げ」という考えなので、自律が最も大切になってきます。やりたいことがある、会社に入って自分を成長させたい、などと目をキラキラと輝かせて話す人は、やはり魅力的に感じます。しかし、言葉だけで判断しては絶対ダメなんです。面接で話しているうちに、この人にはあのチームが合いそうだ、この仕事がピッタリだ、などと具体的なシーンが沸いてくるんですね。そうなれば大丈夫。入社後も活躍してくれます。

また、ご家族の理解も重要です。障がいは本当に多様で、一人ひとり異なります。身近に仕事の悩みを相談できる人がいるかどうかは必ず確認しています。入社時の身元保証人は、血縁関係の方にお願いしています。

3ヵ月間のトライアル雇用も行っていると聞きました。

精神障がいと知的障がいのある方が対象です。うつ病や統合失調症などの方は不安を抱えていて、一度つまずくと克服までに時間がかかってしまうので、私たちも丁寧にマッチングを心がけています。

実務に入る前に実習を2週間行い、入社の意思や適応について見極めます。その上で、トライアル雇用に入ります。期間中のプログラムには、ビジネスマナーなどの研修も盛り込んでいます。

トライアル雇用では、毎日出社できる体力を養うことも重視しています。会社に慣れてきた1ヵ月後くらいからが本番です。だんだん疲れが出てきたり、周囲と合わなくなってきたりするなど課題も見えてきますから。実務を通じて他者を受け入れること、担当の仕事を完遂することの経験も大切です。

3ヵ月の間に面談を1、2回行いますが、そのうち1回は私も入ってじっくりと話を聞きます。トライアル雇用の人たちは通常の採用ルートと異なるので、採用面接と同様にその人のバックグラウンドを確認する機会を設けます。

精神障がいのある人は、大人になって障がいに気づくケースが大半です。社会に出てつまずいたきっかけ、幼少期からの人づきあい、人前で話すのに緊張するかなどを詳しく聞いていきます。面談で気づいた点は、評価シートを介して現場にフィードバックします。

最後に配属を想定した面談を経て、採用が決定します。トライアルを通じて難しいと判断した場合は、採用には至りません。2017年から開始しましたが、これまで50人以上がトライアルを通じて入社しています。現在では、障がいのある社員の3分の1近くを占めています。

それはすごいですね。

トライアル雇用を始めた頃、世間では発達障がいが認知され、急増していると話題になっていました。また、楽天グループの規模はどんどん拡大していましたから、コンスタントに人材を採用する必要がありました。そこで、精神障がいのある人にも社内に活躍の場を設けられないかと考えたのです。

トライアル雇用の導入について、社内では「面白い」「大変だ」という二つの意見がありました。私は後者で、最初は難しいのではないかと感じていました。IT企業ならではのスピード感から人の出入りが激しく、ざわざわとした環境でちゃんと働けるのかどうか。勤怠管理が複雑になりがちですし、気持ちを制御できずに周りに危害を加えるリスクも懸念していました。

しかし、一人の社員がその考えを変えてくれました。楽天に新卒で入社した後に、発達障がいであることが発覚した社員です。楽天ソシオビジネスに移ってからも、最初は組織になじめずにいました。けれどもコミュニケーションを重ねていくうち、几帳面さや物事の捉え方などに健常者にはない強みを見つけることができたのです。次第に“彼が活躍するにはどうすればいいのか”という発想で、仕事のアサインの仕方や指示の仕方を工夫するようになりました。

そのあとはトライアル雇用の実現に向けて、動きが本格化しました。「まいた種の花が大きく咲いてくれればいいじゃない。うまくいかなければ改善すればいいんだし」と、周りを説得しました。そもそも現場はオーバーフロー気味で、仕事はたくさんあります。コストはかかりますが、他の企業にはなかなかまねのできない仕組みができたと自負しています。

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この記事ジャンル 障がい者雇用

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