カギは「トップと現場の共創」と「仕掛けづくり」にあり
クリエイティビティが高まるオフィス空間づくりとは
働く場を選択する裁量と居場所の確保がポイント
ABWは、ナレッジワークにおけるクリエイティビティの効果から導入されている側面があります。実際にはどれほど期待できるものなのでしょうか。
クリエイティブな組織風土を評価する「KEYS」の8要素
- 組織的奨励
- 上司による奨励
- 仕事グループからのサポート
- 自由
- 十分な資源
- 挑戦的な仕事
- 仕事負荷のプレッシャー
- 組織的障害
キーワードは“自由”にあると思います。ハーバード大学のテレサ・M・アマビール教授らは、クリエイティブな組織風土を評価する「KEYS」という指標を発表していて、“自由”はKEYSを構成する8要素の一つとして挙げられています。ここで言う自由とは、自己裁量の度合いです。仕事を自分でコントロールできているという自覚が、内発的動機付けに深く関わってきます。
内発的動機付けとはモチベーションの要素の一つで、これがあることで仕事が自分事化し、没入できます。ABWには“働く場所を選択する”という裁量がありますから、自分で仕事を動かしている実感が得られやすい。そうした意味でクリエイティビティに寄与していると言えます。
さらにクリエイティビティが生まれるプロセスには準備、孵化(ふか)、ひらめき、検証と四つのフェーズがあると言われ、それぞれのフェーズと空間には相性があります。ABWなら周りのノイズをシャットアウトした小部屋や、逆に遊び心のある刺激的なオープンスペースなど、プロセスに応じた選択ができるので、アウトプットの質が高まると考えられます。
自由度を高めることは、大切なのですね。
ところが、そう単純な話でもありません。ある企業と共同で、都内のオフィスワーカー3,000人に行ったアンケート調査の結果を紹介しましょう。自身のオフィスレイアウトを、「固定席」、自席が自由な「単純フリーアドレス」、自席が確保されたうえで目的別に作業場所を選べる「固定席型ABW」、自席も完全に自由な「ABW」の四つから選択してもらい、カテゴリ別のクリエイティビティやワーク・エンゲージメントなどの度合いを調べました。
クリエイティビティについては、固定席や単純フリーアドレスの群よりも、固定席型ABWやABWの群のほうが高いスコアになりました。調査結果の中で特に興味深かったのは「ストレス度合い」。心理的ストレスの平均スコアが最も低かったのは、固定型ABWの群でした。一方、スコアが最も高かったのは単純フリーアドレスの群だったのです。
都内のオフィスワーカー3,000人に行ったアンケート調査
●クリエイティビティ
①固定席や②単純フリーアドレスの群よりも、
③固定席型ABWや④ABWの群のほうがスコアが高い
●ストレス度合い
- 平均スコアが最も低い…③固定型ABW
- 平均スコアが最も高い…②単純フリーアドレス
②「単純フリーアドレス」…自席が自由
③「固定席型ABW」…自席が確保されたうえで目的別に作業場所を選べる
④「ABW」…自席も完全に自由
意外ですね。固定された席は安心感につながるのでしょうか。
あり得ますね。ある程度席が決まっていることで、所属意識が醸成される側面もあるのでしょう。シンプルに言えば、“居場所がある”という実感なのだと思います。
例えば、大学は席も教室も固定されていませんが、大学に来なくなる学生を見ていると学内のコミュニティーに所属していない傾向が見られます。しかし、部活やサークルに入っている学生の場合、部室やラウンジなど居場所があります。大学に行けばとりあえず知り合いがいて、そこで情報交換もできるのでドロップアウトしにくい。自由度が高いことは大切だけれど、ホームベースがないと根無し草的になりやすいのかもしれません。
それはオフィスでも同じで、例えば在宅勤務を基本とする従業員のロイヤリティは低下しやすいと考えられます。ワークスペースの改善に精力的な企業でも、必ずしも全員がフリーアドレスではないケースが見られます。営業職はフリーアドレスだがエンジニアやスタッフ部門は固定席といったように、職種やチームごとの仕事の進め方に応じたワークスペースの選択が重要です。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。