外部との交流が仕事の意義を見出し自信へとつながる
石坂産業を地域で愛される会社にした“考える”マネジメントとは
石坂産業株式会社 代表取締役
石坂典子さん
建築系廃材の処理を行う石坂産業は、徹底した分別と独自の技術で95%以上のリサイクル率を実現するなど、同業他社との差別化を図り、高い競争力を実現していることで知られます。近年は里山保全を軸とした、自然と地域の共生プロジェクトにも注力。2013年には経産省から「おもてなし経営企業選」に選ばれるなど、志の高い事業展開や組織力の高さが注目を集めていますが、その中心にいるのが同社代表取締役の石坂典子さんです。社員一人ひとりが共通のビジョンを持ち、自主性のある組織を実現するために、何を行ってきたのか。石坂さんにお話をうかがいました。
1972年東京都生まれ。高校卒業後、米国の大学に短期留学。1992年父親が創業した石坂産業に入社。埼玉県所沢市周辺の農作物がダイオキシンで汚染されているとの報道を機に、「私が会社を変える」と父親に直談判し、2002年社長就任。「社員が自分の子供も働かせたい」と言える企業創りを目指し、女性の感性と斬新な知性で産業廃棄物業界を変革する経営に取組み“見せる・五感・ISO経営”に挑戦している。2016年日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」情熱経営者賞受賞、2018年日刊工業新聞社優良経営者顕彰第35回記念特別賞優良経営者賞受賞。平成29年度環境教育推進専門家会議(環境省・文部科学省)委員/㈱ハイデイ日高外部取締役/一般社団法人埼玉県環境産業振興協会理事を務める。
廃棄物の資源化から里山の保護まで、自然との共生を徹底する
石坂さんは2002年に自ら手を挙げて、お父さまが興した産業廃棄物処理の事業を引き継がれたそうですね。どのような思いがあっての行動だったのでしょうか。
1999年に「所沢周辺の野菜がダイオキシンに汚染されている」という報道が流れ、多くの農家が大きな打撃を受けました。後日、この報道は誤りであると分かり、いったん騒動は収束したように見えましたが、騒動の原因は近くに産廃処理施設があるからだと考える人もいたんです。2001年に近隣の住民の方が埼玉県に対して、石坂産業の産業廃棄物処理業の許可を取り消す訴訟を起こしました。
産廃処理は、本当に手間のかかる作業の連続です。私は小さな頃から、産廃処理は社会的意義のある仕事だと感じていて、施設で働く社員のことを尊敬していました。そもそも産業廃棄物は生活を営む結果生じたものであり、廃棄物にまつわる問題はすべての人々に責任があるはず。それなのに、私たちの仕事が悪者扱いされている。産廃処理がなぜ地域に理解されないのかを考えた結果、私たちの仕事が正しく伝わっていないからだと思うようになりました。父は職人気質で、「いい仕事をしていれば、周りから認められるようになる」と考えるタイプ。発信するという概念は全く持っていませんでした。それなら、私がその役割を担えばいいと考え、「私を社長にしてほしい」と、父に申し出たんです。
就任以降は、焼却炉の廃止に始まり、廃棄物の再資源化を主軸とする処理プロセスの変更、国際規格の取得など、さまざまな業務改革に取り組まれたそうですね。
推進するにあたっては、私たちのビジネスの“いいところ”を可視化させることに重点を置きました。産廃処理は、マイナスのイメージを持たれがちです。プロダクトやサービスがあるわけではなく、何をしているのかが見えにくいため、ブラックボックス化しているからです。そこで廃棄物のリサイクル化や原料化など、社会的価値の高い事業を強みとした形態にシフトしていくことに力を入れました。
里山の保護も、そのひとつです。最初は施設周辺のゴミ拾いのボランティアからスタートし、雑木林に捨てられた不法投棄物まで集めるようになったのですが、せっかくきれいにしても、数日するとゴミでいっぱいになってしまいました。理由は明らかで、雑木林に人の手が入らず、荒れていたからです。汚い場所は、汚い状態で維持されてしまうんですね。そこで「手を入れてきれいに保てば、不法投棄もなくなるのではないか」と考え、地権者の皆さんの理解を得ながら整備を進めていきました。
今では、東京ドーム4個分の敷地を弊社が管理しています。しかし、ただ管理するだけではもったいない。この地域の里山は、自然サイクルを生かした農業を実践するため、江戸時代に人の手によって整備されたものです。そこで、生物多様性を維持しながら、人も集まる森に育てています。第三者による認証を受けつつ、子ども向けの環境体験プログラムや地域の皆さんの交流の場を提供する「三富今昔村」という活動を2014年から行っていて、施設見学を合わせると、年間1万人以上の方がいらっしゃいます。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。