マタハラを克服すれば企業は強くなれる
人事担当者が知るべき、本当のマタハラ対策とは(後編)[前編を読む]
NPO法人 マタハラNet 代表理事
小酒部 さやかさん
しわ寄せをインセンティブに――人が抜けたときこそ人事の腕の見せ所
あらためてマタハラNetのこれまでの歩みを振り返りながら、小酒部さんの今後の展望や抱負についてもお聞かせください。
立ち上げた当初はバッシングがすごかったんです。「女性の権利ばかり主張して」とか「わがまま団体」とか。そんなつもりは毛頭なく、多様な労働者の職場環境を見直したいと訴えていたのですが、なかなか伝わりませんでした。そこでやはり、ただマタハラ問題を訴えるだけではなく、どうすれば解決できるのか、自分たちなりに対案を打ち出していこうということになって、始めたのがアドボカシー活動です。去年1年間は、署名活動を展開したり、記者会見を開いたり、要望書を政府に提出したりするなど、法改正に力を入れました。そして、被害者支援とアドボカシーに並ぶもう一つの柱が企業への啓発活動で、来年以降はこちらをもっと頑張っていきたいと思っています。経営者や人事担当者はもちろんのこと、働く女性たち自身の意識改革や教育も必要ですから。
働きながら妊娠・出産・育児を迎える女性に向けて、マタハラを受けないようにするために、特に伝えたいことは何ですか。
先ほど上司や人事の方に、女性から報告を受けたら「おめでとう!」といってあげてほしいと言いましたが、それと同じことなんです。妊娠・出産・育児などに関連する制度を利用したら、女性も「ありがとうございます。復帰したら頑張ります」の気持ちをきちんと周囲に伝えるべきでしょう。そこはやはりマナーであり、制度以前の気持ちの問題ですからね。上司への報告もタイミングがポイントで、セミナーなどでは「妊娠がわかったら直属の上司にはすぐ報告してください」と伝えています。「安定期に入ったら言おう」と考える人が多く、私もそうだったのですが、自分の経験からするとできるだけ早いほうがいい。妊娠の初期が一番苦しく、初期流産の危険性も高いわけですから。そのかわり、直属上司は安定期まで周囲への報告は控えるというマナーが必要です。
また、自分が妊娠して初めて、産休・育休制度がどういうものなのかを知る人も少なくありません。中には、産休・育休の間も会社から給料が出ていて、休んでいる同僚を“給料泥棒”だと勘違いしている人もいたりします。「非正規も育休を取れる」ことを知らない女性もまだまだ多い。非正規の育休取得には条件があり、それも今回の法改正で大幅に緩和されましたが、周知徹底はこれからです。そういう意味では、男女を問わず、社員が入社研修時からライブイベントを踏まえたキャリアプランや関連する諸制度について学び、将来に備えられる仕組みを、人事部としても用意しておくべきではないでしょうか。
ありがとうございました。最後にマタハラ防止・解決の中心を担う企業人事の方々に向けて、メッセージやアドバイスをお願いいたします。
繰り返しになりますが、産休・育休のしわ寄せをインセンティブにどう変えるか――人が抜けたときの人材管理こそ、人事担当者の腕の見せどころです。また人事部には、働く妊婦や子育て中の社員をうまくサポートしている現場の上司を、もっと高く評価してほしいですね。逆に優秀な女性が頻繁に流出しているような部署があれば、そこのリーダーや上司に対して何らかのハラスメントを疑ったほうがいいでしょう。マタハラは人権問題であるだけでなく、企業にとっては経営問題でもあります。マタハラが起こり、SNSなどを通じて風評被害が広がれば、企業のイメージダウンは測り知れません。逆に、マタハラ対策をきっかけに企業が働き方の違いや価値観の違いを受け入れ、誰もが働きやすい労働環境――「ダイバーシティ・インクルージョン」を創出することができれば、人手不足、人材不足が深刻化する中、リクルーティングなどにおいて大きなアドバンテージになるはずです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。