誰が、なぜ退職代行を利用するのか
パーソル総合研究所 研究員 児島 功和氏

近年、離職時の退職代行サービス利用が注目を集めている。一方で、退職代行サービスの大手運営企業に対する弁護士法違反容疑での家宅捜索が広く報じられるなど、民間業者による業務の適法性やその範囲をめぐる課題も顕在化している※1。
それにしても、なぜ離職時に退職代行を利用する就業者がいるのであろうか。正社員のような無期雇用の就業者は、退職日の2週間前までに勤務先に申し出ることで退職が可能となる※2。会社を辞めたいのであれば、上記基準に従って、その意思を職場に伝えるだけでよいことになる。しかし、退職代行利用者はそれが何らかの理由でできなかったということである。その理由や背景とは、いかなるものであろうか。
退職代行サービスは、その登場以来、利用の是非をめぐって常に賛否両論を巻き起こしてきた。退職代行利用者は「協調性がない」「無責任」といった、利用者個人に向けられた批判的な言説も根強い。他方で、退職代行サービス運営企業は、退職代行サービスの利用理由として、上司のハラスメントが最も多いことを指摘している※3。後述するように、パーソル総合研究所の調査結果からも、退職代行利用者の背景には上司からのハラスメント問題があることが分かっている。しかし、それだけであろうか。
退職代行利用者の実態については、退職代行サービス運営企業からの情報が多く、実態調査は極めて少ない。本コラムでは、パーソル総合研究所「離職の変化と退職代行に関する定量調査」の結果から、誰が、どのような理由から退職代行を利用しているのかを明らかにしたい。
※1日本経済新聞「「退職代行モームリ」を家宅捜索、報酬目的で弁護士紹介疑い 警視庁」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD2214B0S5A021C2000000/(2025年11月17日アクセス)。
※2民法第627条第1項「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」
※3Minutes by NIKKEI「新入社員9人は入社直後に退職代行に駆け込んだ やめられる会社には理由がある」https://www.nikkei.com/prime/minutes/article/DGXZQOCD309D40Q5A630C2000000(2025年11月17日アクセス)。
退職代行利用者は「チームワーク」重視
まず、どのくらいの人が退職代行サービスを利用しているのだろうか。パーソル総合研究所の調査によると、離職者のうち退職代行利用者は5.1%、離職者全体の約20人に1人であった(図表1)。退職代行利用者の年代構成では、20~30代が約5割で、退職代行を利用せずに離職した一般離職者の20~30代が約4割であるのに比べると、退職代行利用者の年齢層は低い(図表省略)。
前職の在籍期間を見ると、「1年未満」は、退職代行利用者が約4割に対して、一般離職者が約2割であり、退職代行利用者には早期離職者が多いことが分かる。
それでは、退職代行利用者に対して向けられる一般的な批判「協調性がない」「無責任」などは、実態に即しているのであろうか。それを見たのが図表3のキャリア観を尋ねたものである。退職代行利用者の値は一般離職者の値を100%とした時の数値である。退職代行利用者は、一般離職者と比べて「周りの人と密に力を合わせて働きたい」が高いことが分かる。すなわち、退職代行利用者は「チームワーク」重視なのだ。
図表4は、前職に対する意識を見たものである。退職代行利用者は一般離職者以上に辞めた会社に対して「申し訳なさ」を感じており、自身を「裏切り者」と感じていた。「チームワーク」重視だからこそ、このように感じているのだろう。これらの特徴は、世間一般のイメージとは異なるものである。
退職代行利用の背景には「孤独」がある
退職代行サービス利用者は職場での「チームワーク」を重視しており、図表では示さないものの一般離職者よりも「自分がいなくなると、職場の業務が滞るのではないかと心配だ」と回答する割合が高く、責任感が強い。
しかし、このように職場を「チーム」として意識し、チームの一員としての責任感が強い退職代行利用者であるが、職場では孤立し、孤独を感じていた(図表5)。一般離職者に比べて、退職代行利用者は同僚に相談できず、相談相手が上司だけという者も多い(図表6)。それだけではなく、私生活でも家族や友人にも相談できない者も多い。
退職代行利用者は相談相手の上司に深く傷つけられている
退職代行サービス利用者は一般離職者よりも同僚に相談できず、上司を相談相手とする割合が高かった。しかし、退職代行利用者は一般離職者よりもその上司からハラスメントを受けている割合が高く(図表7)、「行動を細かく管理・指示してくる」などの非礼な言動を受けていた(図表8)。
退職代行利用者は「チームワーク」重視であり、職場に対する責任感が強い。しかし、職場では孤立し、孤独感を覚えており、上司にしか相談できない者も多い。いわば上司に生殺与奪の権利を握られている状態であるが、その上司からハラスメントを受けるなど、深く傷ついているのである。その結果、逃げ場を失う状態となり、退職代行サービスに駆け込むという構図が私たちの調査から浮かび上がってきた※4。
この背景には、過労死・過労自殺の研究で知られる大野正和は、日本の職場の特徴として職務範囲や内容が固定的ではなく、職場集団の状況に応じて弾力的に変化する点を指摘している※5。
日本の職場では、「職務範囲」「職務内容」は、「固定、不変なもの」ではなく「組織、集団内の状況に応じて」「弾力的」に変化して「伸縮」するのである。「職場集団内の他の構成員のうごき」に敏感に反応して自分の仕事の内容や範囲が変化する。自分のやることが、他者から決められていたり自主的判断で決定されるのではなく、つねに自分とまわりの職場集団の構成員との関係によって「流動する」。仕事のうえでは、絶えず周囲への「志向性」が要求されるのである。
仕事は個人の判断で完結するのではなく、周囲との関係に応じて流動し、常に他者への志向性が求められるのである。退職代行利用者は、このような職場秩序を強く内面化し、周囲に適応してきた一方で、その秩序から離脱する行動を選択したといえる。図表9にこれまでの議論を踏まえて、就業者が退職代行利用に至る道筋を整理した。
※4図表では示さないが、退職代行利用者は一般離職者よりも「キャリア自律」に関する肯定値が高く、自身でキャリアを切り拓いていこうとする意識が強く、日頃からキャリアを切り拓くために積極的に動いていることも分かっている。
※5大野正和(2003)『過労死・過労自殺の心理と職場』149頁、青弓社
まとめ
近年、離職時の退職代行サービスの利用が注目を集めている。しかし、退職代行利用者の実態に迫る調査研究は少ない。そこで、本コラムでは、パーソル総合研究所「離職の変化と退職行動に関する定量調査」の結果に基づき、退職代行利用者がどのような背景を持つ就業者で、職場や仕事にいかなる考えを持っているのか、辞めた職場で何を経験したのかを明らかにしてきた。具体的には次のとおりである。
- 離職者のうち退職代行利用者は5.1%、離職者全体の約20人に1人であった。年代構成では、20~30代が約5割で、退職代行を利用せずに離職した一般離職者が約4割であるのに比べると、退職代行利用者の年齢層は低い。
- 退職代行利用者は、一般離職者と比べて「周りの人と密に力を合わせて働きたい」が突出して高い。すなわち、退職代行利用者は「チームワーク」重視であった。
- 職場を「チーム」として意識し、チームの一員としての責任感も強い退職代行利用者であるが、職場では孤立し、孤独を感じていた。一般離職者に比べて、退職代行利用者は同僚に相談できず、相談相手が上司だけという者も多い。
- しかし、退職代行利用者は、一般離職者よりも上司からハラスメントを受ける割合が高く、非礼な言動にさらされていた。こうした状況で、退職代行利用者は逃げ場を失い、最後の手段として退職代行サービスの利用に至る構図が見えてきた。背景には、職場秩序への強い適応と、上司との関係悪化というギャップがある。退職代行利用者は、日本的な相互依存の職場秩序を内面化した存在でありながら、その秩序から離脱する選択をした存在である。
退職代行利用者を通俗的な若者論や上司のハラスメントなどの要因に安易に単純化すべきではない。退職代行利用の背景には、上述のような本人の志向と職場の問題(より広い視点で見ると、日本の職場の特性)が複雑に絡み合っているのである。
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、社員研修などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
https://rc.persol-group.co.jp/

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