「一人三役」制度でシニアも女性も大活躍
すべての人が活躍できる、イキイキとした働きがいのある職場をつくる(後編)[前編を読む]
三州製菓株式会社 代表取締役社長
斉之平 伸一さん
政府は2020年までに女性管理職の割合を30%にするという目標を掲げていますが、三州製菓はそれを上回る35%を目標に設定。現時点ですでに27.5%を達成しているといいます。社長の斉之平伸一さんは「労働関連の政府や機関の新たな取り組みには積極的に応募し、そのことをバネに社内の取り組みを推進している」と語ります。「一人三役」「委員会活動」など、社員間に「助け合う風土」を醸成し(前編参照)、企業に自律的な改革を促してきた斉之平さんに、人を軸に会社を変える手法について引き続きお話をうかがいました。
さいのひら・しんいち●1948年生まれ。1971年、一橋大学卒。松下電器産業(現パナソニック)を経て、1976年に父が創業した三州製菓に入社。1988年社長に就任。埼玉県経営者協会 副会長、日本経団連中小企業委員会委員、埼玉県立大学理事などを務める。経営改革により、2013年3月 経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」、2014年11月 経済産業省「APEC女性活躍推進企業50選」日本5社のうちの1社に選定されるなど、数々の受賞歴を持つ。「子育てサポート企業(くるみん認定企業)」「厚生労働省 女性活躍推進企業(えるぼし)三つ星」認定。2016年6月 内閣総理大臣表彰「男女共同参画社会づくり功労者」受賞。著書に『脳力経営』(致知出版社)、『3倍「仕事脳」がアップする ダブル手帳術』(東洋経済新報社)がある。
自身も常にアンテナを張り、公募への応募を制度推進のきっかけとする
斉之平さんは、経営者として実業家である渋沢英一翁の教えを大切にされているとお聞きしました。その教えはどのように活かされていますか。
私の座右の銘は「天意夕陽を重んじ、人間晩成を貴ぶ」。天は、美しい夕日を重んじる。人間も晩年がもっとも大切であるという渋沢栄一翁の言葉です。私も今68歳ですので、これからいかに社会に貢献するか、社会にどのように記憶されるのかを常に考えて仕事をしたいと思っています。社会貢献として重視しているのは、教育、福祉、女性活躍の三つの分野です。
地域や人に貢献したいという思いは、「すべてのものを真に活かす」「人が真に生きる経営を追求する」という経営理念にも通じます。社員の育成に関してもボトムアップによって自律型の社員が育つこと、社員自身が決定できる範囲を広げること、社員のモチベーションが高くなる環境をつくることを心がけています。
重視される柱の一つである女性活躍推進に関して、御社は優良な企業に与えられる「えるぼし」で最上級の三つ星を獲得されています。社内改革はどのように進められたのでしょうか。
平成28年4月1日に全面施行された女性活躍推進法で、女性の活躍推進に関する状況などが優良な企業について厚生労働大臣の認定を受けることができる制度が創設されました。認定は基準を満たす項目数に応じて3段階あり、中小企業は努力義務となっていますが、私たちはあえて応募し、三つ星をいただきました。
私は、労働に関する政府や機関の新たな取り組みの公募があれば積極的に応募し、それをきっかけにして社内の取り組みをさらに推進させるようにしています。申請して悪いところがあれば指摘していただき、改善していく。ここでは社長が宣言することが大事なポイントだと考えています。社長が宣言すれば、多少無理をしてでも確実にその取り組みが形になりますから。
私自身も「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」といった、さまざまな外部組織に積極的に参加し、情報を収集しています。短時間正社員などのような新たな社会の動きはそういった活動から先取りして導入しました。社長がそういうところに出向いて、会社に取り入れられる情報を見つけることも大事だと思います。
政府方針で企業は2020年までに女性管理職の割合を30%にするという目標がありますが、御社はそれを上回る35%を目標にされています。達成するために、どのような方法をお考えですか。
私たちは2020年までに35%と、5%上乗せして宣言しました。そのための施策は、男性一人を管理職に昇進させるのであれば、同時に女性を一人必ず昇進させるようにするというものです。男性一人だけの昇進を認めてしまうと女性比率は下がりますが、男女1名ずつなら比率は上がっていきます。そこで現場には「管理職を任せられる女性を探してくれ」と頼んでいます。現場から「そのような人材がいない」と言われることもありますが、それは人の見方次第です。私は潜在的な可能性を常に見ていますし、人はその役職に就けばより頑張ろうとしてくれる。役職につくことで、おのずと実力はついてくると考えています。
もちろん、ただ頑張れというだけでなく、出産や育児、介護などの事情があっても勤務が続けられるよう、さまざまな支援制度を用意しています。駅近くの直営販売店2階にサテライトオフィスを用意しており、子どもが小さいうちはそこで仕事をすることが可能です。有給休暇の取得を推進し、平均83%の消化率を実現しました。社員全員に毎年配布している会社手帳には、社員一人ひとりの年間の有給休暇計画がすでに印刷されており、これを見れば誰がいつ休むのか、一目瞭然です。ほかにも支援制度として、フレックスタイム制度、短時間正社員制度、育児短時間勤務、所定外労働の免除などがあります。女性の管理職比率は毎月の経営会議で確認しており、現状では27.5%まできています。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。