「一人三役」制度でシニアも女性も大活躍
すべての人が活躍できる、イキイキとした働きがいのある職場をつくる(前編)
三州製菓株式会社 代表取締役社長
斉之平 伸一さん
お互いに助け合う社風をつくった「一人三役」制度
ニッチマーケットへの取り組みを決断され、会社の方針を変えたときには社員に戸惑いもあったかと思います。どのように対応されたのでしょうか。
戦略を大きく変え、ニッチに注力したことで、量産型のビジネスに慣れていた社員の中から、変化に対応できず退社する人が出てくるようになりました。営業でも、これまでの人脈が使えなくなったと辞める人がいました。この状況を受けて私は、「これまでのようなトップダウン型の施策を続けていると、大きな戦略転換をするときに社員に負担がかってしまう。社員の側から意見が出るようなボトムアップ型の会社にしなければならない」と考えるようになりました。またそれは、従業員の7割を占める女性たちが、もっともっと発言できる会社になることでもありました。
もともと私は、「人の潜在的な可能性をいかに引き出すか」を社長としてのライフワークにしています。企業理念にある「すべてのものを真に活かす」、「人が真に生きる経営を追求する」といった言葉は、社会貢献にも尽力された実業家の渋沢栄一翁の考えに賛同してつくったものです。そこで社員が生き生きと働くための施策を社員と共にいろいろと考え、一つひとつ導入していきました。結果、そのような施策が功を奏して、パートから正社員へと引き上げた人の割合は社員の30%を超えています。常に「人の力を引き出す」ことを信念として、パート・社員関係なく仕事をしてもらえる環境にしたいと考えています。
これらの施策への反響は大きく、2016年卒の新卒採用では採用予定人員が2名だったのですが、インターネットの記事や企業ホームページで私たちの考えに共感された方々100名以上から応募があり、8名を採用しました。
施策のうち、特に業績アップの原動力となったのは「一人三役」制度とお聞きしました。この制度はどのような背景から生まれたのでしょうか。
一人三役制度は、メインの業務以外に二つの仕事をマスターしておき、必要なときに他部署で応援ができるようにしておくものです。誰がどんな仕事ができるのかは表にして社内に貼り出してあり、その習熟度も自己申告で「新人」から「達人」まで6段階で示してあります。所属長は表を見れば、誰に頼めばいいかがすぐにわかるようになっています。
この制度をつくった理由は、お互いに助け合う社風をつくりたいと考えたからです。中小企業では、育児や介護支援などのために短時間勤務や休暇制度をつくっても、実際には使われないことが多い。特定の従業員にしか分からない仕事が多く、誰もその代わりができないからです。しかし、社員みんなが一人三役でメインの仕事以外にもできるようにしておけば、ある従業員の子どもが急に病気になったときでも、その人の代わりに仕事をすることができる。そうすれば、その人も安心して帰ることができるでしょう。この制度を導入したことで、社員同士の助け合いが当たり前になったほか、個々がスキルアップを目指すようになるという効果もありました。
社員が意見を出し合う仕組みとして委員会活動が盛んとお聞きしました。どのように運営されているのでしょうか。
一つの委員会が、小さな会社のような活動をすると考えていただければわかりやすいと思います。委員会には部門横断型で各部門から参加します。委員長は役職者以外の人も務め、役職者がその人の下にメンバーとして入ることもあります。このルールは誰もが社長になろうということであり、適材の人が上に立つという考え方で人選します。委員会には自由に使っていい予算として、50万円~300万円が付きます。各委員会で目標と活動計画を発表し、月に1回くらい集まってPCDAを回す形で活動していきます。目標を達成すれば報奨金も出します。
こういった考え方は会社としての組織体系にも通じていて、当社では管理職という言葉は使わずに管理職のことは「支援職」と呼んでいます。お客さまに接する部署が一番上で、その下に「支援職」。逆ピラミッド型の構造となっていますので、組織体系では社長の私は一番下ということになります。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。