「一人三役」制度でシニアも女性も大活躍
すべての人が活躍できる、イキイキとした働きがいのある職場をつくる(前編)
三州製菓株式会社 代表取締役社長
斉之平 伸一さん
埼玉県の菓子製造企業である三州製菓は、「一人三役」「会議の男性発言禁止タイム」「一善活動」などのユニークな制度を実施し、女性やシニアを積極的に活用、好業績へとつなげています。社長を務める斉之平伸一さんは、就任当時7億円程度だった売上を昨年度は25億円と約3.5倍もの規模に成長させ、27年連続営業黒字を達成しました。「えるぼし」三つ星認定、APEC女性活躍推進企業50選への選出など、数々の賞を受賞し、三州製菓を「働きがいのある会社」として成長させてきたことでも注目を集めています。人がイキイキと働ける職場をつくるにはどうすればいいのか――。斉之平さんに、詳しいお話をうかがいました。
さいのひら・しんいち●1948年生まれ。1971年、一橋大学卒。松下電器産業(現パナソニック)を経て、1976年に父が創業した三州製菓に入社。1988年社長に就任。埼玉県経営者協会 副会長、日本経団連中小企業委員会委員、埼玉県立大学理事などを務める。経営改革により、2013年3月 経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」、2014年11月 経済産業省「APEC女性活躍推進企業50選」日本5社のうちの1社に選定されるなど、数々の受賞歴を持つ。「子育てサポート企業(くるみん認定企業)」「厚生労働省 女性活躍推進企業(えるぼし)三つ星」認定。2016年6月 内閣総理大臣表彰「男女共同参画社会づくり功労者」受賞。著書に『脳力経営』(致知出版社)、『3倍「仕事脳」がアップする ダブル手帳術』(東洋経済新報社)がある。
大企業にはできない、多品種少量生産でニッチマーケットを切り開く
斉之平さんは5年のサラリーマン経験を経て、お父様が創業された三州製菓に入社されました。入社当時はどのような状況だったのでしょうか。
大学を卒業後は松下電器産業に入社し、5年間勤務しました。三州製菓に入社したのは、28歳のときです。入社から12年後の40歳で社長に就任し、それから28年間、社長業を務めています。当社は菓子専門店を中心に、せんべいやあられなどの米菓、揚げパスタ、バウムクーヘンといった洋菓子の製造販売を行っています。就任当時は売上7億円という規模でしたが、昨年度は売上25億円と3.5倍ほどの規模になりました。
このように成長できた要因は、ビジネスモデルの変更にあります。私が就任した当初はスーパーやコンビニエンスストアに、問屋経由で少品種大量生産の菓子を販売していました。しかし、大手企業を競争相手として同じ土俵に立っても、私たちのような中小企業の規模ではなかなか勝てません。そこで製品は大手が手をつけていない高級商品、取り引き先は和洋菓子専門店といったように、ニッチマーケットに絞り込む戦略に転換したのです。
具体的には、どのように会社を成長させていったのでしょうか。
せんべいで言えば、高級米菓を何種類もつくり、全国の和洋菓子専門店や地域の一番店に直取引をしてもらって、それを広げていくという戦略を取りました。また、全国のテーマパークなどにも取引を広げていきました。ニッチマーケットを広げながら同時に商品数も増やし、対応できる分野を広げていったわけです。
菓子の大手企業は量を売る必要がありますから、販売先はスーパーやコンビニエンスストアになります。一方、私たちが狙ったのは全国の菓子専門店など、多品種少量生産の分野です。しかしその場合、たくさんの種類の商品を作る必要があるので、それを可能にする生産システムが必要でした。また、新商品の企画開発が重要ですから、常にアイデアを考えなければなりません。商品全体に対し、新商品が30%以上を占める状態を目標にし、今はパッケージを変えるだけのものも含めて、毎月20~30アイテムの新商品を作っています。
こういった状況で重要なのは、企画開発部門です。以前は男性中心の部署でしたが、今は女性だけの部署になっています。弊社のお客さまの中心は女性であり、店舗ごとにきめ細かく商品を考え提案することは、男性よりも女性のほうが適していると感じています。
女性が力を十分に発揮できるよう、社内会議の進め方にルールもつくりました。社歴の長い男性や役職者の男性が出席している会議では、どうしてもそういう人たちの発言が強くなり、若い女性などは発言しにくいものです。そこで会議中に男性の発言禁止タイムを設け、女性の声だけを聞く時間をつくるようにしました。
また、新商品開発では、顧客の要望を聞いて製品化するまでのスピードの速さも問われますので、ITに積極的に投資し、社内伝達や意思決定のスピードを向上させました。顧客の要望はグループウェアに入れて即座に共有化。それを企画担当や工場長、製造部門の担当者が見て、素早く企画、試作までもっていくようにしています。要望を素早く形にできることは、そのまま強みになります。ITへの取り組みでは、2005年、2006年にIT応援隊IT経営百選で最優秀賞もいただきました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。