DXの視点『ピアボーナスから考える従業員エンゲージメント』
第一生命経済研究所 主席研究員 柏村 祐氏
従業員エンゲージメントの維持向上を図るテクノロジーとしてピアボーナスが登場している。ピアボーナスとは同僚からもらう第二のボーナスを意味する。
このボーナスは、同僚の働きぶりに対する感謝や称賛の気持ちをSlackやTeamsなどのチャットを通じて送ることができる。貯まったボーナスは、会社によって事前に定められたルールに基づいて商品、サービス、お金に交換できる。
既に中小企業やフォーチュン500企業の5,000以上のチームが利用しているアメリカのピアボーナス「HeyTaco」は、同僚に対する感謝や称賛の気持ちをタコスマークで表現する。タコスマークは、1対1、あるいは複数の人へ向けたメッセージに付けて送ることができる。また、受け取ったタコスが貯まったら、事前に会社が用意した報酬メニューから自分自身の好きなものを選択できる。
同僚の働きぶりに感謝や称賛の気持ちを報酬として還元する仕組みを実現したピアボーナスを利用する場合、会社が考える行動指針に沿った行動が報酬の対象に合致しているかがポイントとなる。もし経営者側が良いと考える働きぶりと従業員が思い込みで良いと考える働きぶりがずれている場合、経営者側が考える行動指針に合致しない働きぶりに対して感謝や称賛が行われてしまう。
このような意図しない感謝や称賛の発生を防ぐために、メッセージを送付する際のハッシュタグの活用が有効と言える。ハッシュタグとは、SNSで良く利用され「#(ハッシュタグ)」をキーワードの前につけて投稿内容の意味するものを強調するものである。例えば、ある企業が重視する行動指針が「excellence」「motivation」「respect」としよう。これらのキーワードの前に「#(ハッシュタグ)」をつけてメッセージをやりとりすることにより、メッセージを見た従業員は、どのような行動が行動指針に合致した感謝や称賛に値するのか把握できる。
また、ピアボーナスの仕組みは、「#(ハッシュタグ)」がついたメッセージを受け取った人のランキングを一覧で表示する機能も実装されており、どの従業員が組織に貢献する行動をしているか可視化されるため、経営者側が期待する行動指針に沿った行動を促進できる。
コロナ以前の職場は、同じ場所に従業員が集まって働いていたため、従業員の行動を把握し、職場でのちょっとした会話・雑談を通じたモチベーションアップやコミュニケーションは比較的容易にできた。しかし新しい日常としてリモートワークが一つの働き方となった今、物理的に離れた状況下で従業員の行動を把握し、コミュニケーションを取ることが困難となっており、どのようにして従業員エンゲージメントの維持・向上を図るかが問われている。
ピアボーナスは、リモート環境下でも感謝や称賛を感じられる体験価値を従業員に対して提供することで、自発的に会社に貢献しようとする意欲を促進する従業員エンゲージメントの処方箋と言える。
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