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【厚生労働省発】予防から事後対応まで
「パワーハラスメント対策導入マニュアル」の具体的活用法と留意点

弁護士 野口 大/弁護士 大浦 綾子

2. パワーハラスメントとは

(1)パワーハラスメントの定義

法律上はパワーハラスメントの定義はありませんが、マニュアルにおいては「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます」と解説されています。

(1)パワーハラスメントの定義【厚生労働省発】「パワーハラスメント対策導入マニュアル」の具体的活用法と留意点

上記の定義のうち「職場内での優位性」という部分については、「上司から部下へのいじめ・嫌がらせをさして使われる場合が多いですが、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。『職場内での優位性』には、『職務上の地位』に限らず、人間関係や専門知識、経験などの様々な優位性が含まれます。」と指摘されています。

また、上記の定義のうち「業務の適正な範囲を超えて」という部分については、「業務上の必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントにはあたりません。例えば、上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、業務上の指揮監督や教育指導を行い、上司としての役割を遂行することが求められます。職場のパワーハラスメント対策は、そのような上司の適正な指導を妨げるものではなく、各職場で、何が業務の適正な範囲で、何がそうでないのか、その範囲を明確にする取組を行うことによって、適正な指導をサポートするものでなければなりません。」と指摘されています。

(2)パワーハラスメントの行為類型

マニュアルでは、表1のような行為がパワーハラスメントとして紹介されています。マニュアルも指摘する通り、これ以外はパワーハラスメントにならないという意味ではありません。

もともとパワーハラスメントには法律上の定義もありませんので、上記分類はあくまで参考程度というにとどめるべきです。あまり上記分類を強調して研修等を行うと、上記分類以外はパワーハラスメントにならないと受講者が誤解する場合がありますので、留意が必要です。

表1 : パワーハラスメントの行為類型
行為類型 具体例
1.身体的な攻撃 暴行・障害
2.精神的な攻撃 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3.人間関係からの切り離し 隔離・仲間外し・無視
4.過大な要求 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5.過小な要求 業務上合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない
6.個の侵害 私的なことに過度に立ち入る

3. マニュアルを活用した取組みの実施

(1)全体構造

マニュアルにおいては、以下の7つの取組みについて実施するとよいとされています。

[1]予防

1)トップのメッセージ

  • 組織のトップが、職場のパワーハラスメントは職場からなくすべきであることを明確に示す。

2)ルールを決める

  • 就業規則に関係規定を設ける、労使協定を締結する。
  • 予防・解決についての方針やガイドラインを作成する。

3)実態を把握する

  • 従業員アンケートを実施する。

4)教育する

  • 研修を実施する。

5)周知する

  • 組織の方針や取組みについて周知・啓発を実施する。

[2]解決

6)相談や解決の場を設置する

  • 企業内・外に相談窓口を設置する。
  • 職場の対応責任者を決める。
  • 外部専門家と連携する。

7)再発防止のための取組み

  • 行為者に対する再発防止研修等を行う。

(2)トップのメッセージ

[1]トップのメッセージの効果

マニュアルでは、その効果について「企業として『職場のパワーハラスメントはなくすべきものである』という方針を、トップのメッセージの形で明確に打ち出すことが望まれます。トップのメッセージは、方針やガイドライン、規程等と厳格に分ける必要はなく、それらをまたがるような位置付けであっても問題ないでしょう。組織として、そのような方針が明確になることにより、相手の人格を認め、尊重し合いながら仕事を進める意識が育まれます。 組織の方針が明確になれば、パワーハラスメントを受けた従業員やその周囲の従業員も、問題点の指摘や解消に関して発言がしやすくなり、その結果、取組の効果がより期待できます。」と解説されています。

これはパワーハラスメントの予防に限らず、重要です。人事労務部門や担当者レベルのみで対策を打ち出してもインパクトは限定的で、現場や管理職から「パワーハラスメントなんか気にしていたら、日々の業務に支障を来たす」「現場をわかっていない」と反発を受けることもよくあります。現状を変えるためには、常にトップのメッセージが重要な意味を持ちます。

[2]トップのメッセージの例

マニュアル本文では以下のような例が紹介されており、その他にも各種ひな形が用意されています。

「ハラスメント行為は人権にかかわる問題であり、従業員の尊厳を傷つけ職場環境の悪化を招く、ゆゆしき問題です。 当社は、ハラスメント行為は断じて許さず、すべての従業員が互いに尊重し合える、安全で快適な職場環境づくりに取り組んでいきます。 このため、管理職をはじめとする全従業員は、研修などにより、ハラスメントに関する知識や対応能力を向上させ、そのような行為を発生させない、許さない企業風土づくりを心掛けてください。」

(3)ルールを決める

[1]文書等の作成

就業規則その他の職場の服務規律等を定めた文書で、パワーハラスメント行為を行っていた者については、懲戒規定等に基づき厳正に対処すること、相談者の不利益な取扱いの禁止などを明確に定めておくことが必要です。

[2]規程例

マニュアル本文では「就業規則例」「パワーハラスメントの防止に関する規程例」(省略)として以下のような例が紹介されています。

就業規則(例)
パワーハラスメントの禁止)
第□□条 パワーハラスメントについては、第□□条(服務規律)及び第□□条(懲戒)のほか、詳細は「パワーハラスメントの防止に関する規程」により別に定める。

(4)実態を把握する

[1]マニュアルにおける有効な方法

職場でのパワーハラスメントの防止対策を効果的に進めるためには、職場の実態を把握することが必要です。実態を掌握し、問題の所在を明らかにしてから、対策を講じるというのはどの分野においても重要です。パワーハラスメントについては、従業員が実態について声を上げにくい問題であるという側面がありますから、職場の生の声を聞くにはどのような方法が適切かを検討しなければなりません。

この点、マニュアルでは職場の実態把握の方法として、アンケート調査を推奨しています。アンケートでの実態調査は、対象者が偏ることがないようにすることが重要であること、回収率向上のためには匿名での実施が有効であること、またパワーハラスメント防止対策の枠組みを構築後にもアンケート調査を実施して効果を検証すべきであること、が指摘されています。

マニュアルでは、アンケート調査以外にも「安全管理者や産業医へヒアリングしたり、評価面接など個人面談の際に自己申告項目に入れるなど、複数の方法で行うことも有効」とされています。

[2]アンケート項目等

マニュアルには、「アンケート実施マニュアル」、「取組実施前の実態調査アンケート(事前調査)」のひな型、「取組実施後の効果把握アンケート(事後調査)」のひな型が用意されています。

(5)教育する

パワーハラスメント予防対策で最も一般的で効果が大きいと考えられる方法が、教育のための研修の実施です。マニュアルにおいては、研修は、可能な限り対象者全員に受講させ、定期的に、繰り返して実施するとより効果があること、管理監督者向けと一般従業員向けに分けて実施すると効果的であること等が指摘されています。もちろん、企業規模が小さいなどの状況によっては、区分けせずに研修を行うことも考えられます。

マニュアルにおいては、研修においてのポイントが指摘されています。

[1]管理監督者向け研修

  • パワーハラスメントとは何か(定義・行為類型)を確認する。
  • パワーハラスメントの社会的な現状を様々なデータをもとに認識する。
  • パワーハラスメントの加害者、会社の責任について判例を含めて確認する。
  • パワーハラスメントの具体事例を確認し、パワーハラスメントと業務上の指導との違いを認識する。
  • パワーハラスメントの予防方法を認識する。
  • パワーハラスメントに関係する自社のルール(規定、相談窓口など)を確認する。
  • トップメッセージを含める。 など

[2]一般従業員向け研修

  • パワーハラスメントとは何か(定義・行為類型)を認識する。
  • パワーハラスメントが与える影響について認識する。
  • パワーハラスメントの加害者、会社の責任について判例を含めて認識する。
  • パワーハラスメントの具体事例を確認し、パワーハラスメントと業務上の指導との違いを認識する。
  • パワーハラスメントの予防方法を認識する。
  • パワーハラスメントに関係する自社のルール(規定、相談窓口など)を確認する。
  • トップメッセージを含める。 など

マニュアルには、「管理職向け研修資料」「従業員向け研修資料」「自習用テキスト」が用意されています。

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