【「特別な休暇制度」の導入&活用方法】「従業員の多能工化」との合わせ技で生産性もアップ!
特定社会保険労務士
假谷 美香
4. 特配休暇制度の導入を阻むものはあるのか?
特配休暇制度の導入によって、従業員のモチベーションが上がったり、生活が充実し心が安定したりします。メリットを十分理解できる反面、企業では、導入に対してハードルが高いと思われることも多々あります。意識調査では、特配休暇制度を導入していない理由として、「年次有給休暇だけで十分である」(64.7%)、「人員に余裕がない」(51.0%)が挙げられています。
残念なことに、これ以上の詳細な調査結果がないため「年次有給休暇だけで十分である」と回答している企業の年次有給休暇の取得率は不明です。特配休暇制度を効率的に活用している企業では、概ね年次有給休暇の取得率も高く、休暇もきちんととって仕事も効率的に取り組むということが企業文化として根付いています。例えば、レーズンサンドで有名な北海道の六花亭は従業員が700名ほどいますが、年次有給休暇の取得率は100%、それに加えてさまざまな特配休暇制度を従業員が取得したうえで、売上を増やしています。
特配休暇制度の導入を考える場合、まず経営者の頭の中に浮かぶのは「労働分配率のアップ」です。「労働分配率」とは、粗利益(付加価値)に対する人件費の占める割合です。経営者としては、休みが増えることによって単純に「働かない日が増える」という懸念が湧きます。休みが増えれば労働日そのものが減って残業代が増加する、そして粗利益が変わらないまま人件費だけが増えるという図式です。このイメージから特配休暇制度の導入に二の足を踏む会社も多いのではないでしょうか? それを裏付けているのが、理由の二つ目の「人員に余裕がない」です。
筆者が、顧問先に特配休暇制度の導入や年次有給休暇の取得促進を勧める場合、必ず「生産性の向上を図る施策を打ちつつ、こんな制度を導入してみてはどうでしょうか?」と提案するようにしています。確かに、特配休暇制度を導入すれば従業員のモチベーションが上がり、その結果生産性が向上するかもしれません。しかし、それを経営者が確信としてイメージすることは困難です。
重要なことは、特配休暇制度の導入を一つのチャンスと捉えるということです。特配休暇制度の導入とともに、効率的に仕事をする方法を従業員全員で考え、実行に移し、その人がいなくても他の人が代わってその仕事ができるよう、従業員の多能工化を図るということを進めていくことが、企業の発展に寄与することとなるのです。
5. 特配休暇制度を導入する際の注意点
(1) そもそもどんな休暇制度を定めるか、まず目的を明確にする
特配休暇制度を導入し、効果を上げている会社には二つの特徴があります。それは、従業員のニーズとその会社の文化に合った休暇制度を導入しているということと、従業員の多能工化が図られているということです。
今は、“特配休暇制度ブーム”といった感がありますので、さまざまな会社が特配休暇制度を導入しています。導入した会社に従業員のモチベーションや生産性の向上にどのような変化が見られたかを質問すると、「残念ながら、思ったほどの効果は出ていない」とか「リフレッシュ休暇が良いって聞いたから制度を作ってみたけど、あんまり使う人がいないんだよね」「大体仕事が忙しくて取れる状況じゃないんだよ」という答えが多く返ってきます。
そのような会社に導入の経緯を伺うと、「よその会社で入れたと聞いたから」「休みが増えれば従業員が喜ぶと思ったから」といった、明確な目的を定めて導入していないケースがほとんどです。
制度の定着や、ある程度の効果を得ることをねらうのであれば、まず、導入前にどんな休暇を導入すべきか、従業員のニーズを確認し目的意識を持ったうえで自社の文化に合った休暇制度を導入されることをお勧めします。
(2)制度として定着させるため、ルールを作成する
特配休暇制度の導入を決定したら、次はその名称を決めます。一般的な名称でももちろん結構ですが、できれば、その会社らしい、休暇の内容がわかりやすく伝わる名前が良いでしょう。
次に、申請や取得に関するルールを決めます。当然、就業規則の「特別休暇」の項目に規定を設けます(規定例参照)。ルールの作成で重要なことは次の四つですが、もっとも大切なことは、(4)です。
(1)その休暇がどのようなときに、どのぐらいの日数取れるのかを明確にすること
(2)取得の際の手続きを決定すること
(3)無給にするのか有給にするのかを決定すること
(4)労使双方が誤解を生まない明確な表現でルールを作ること
(3)取得しやすいシステム作り
特配休暇制度を制度として定着させるには、取得しやすいシステム(仕組み)を作ることが重要です。
実際に休暇制度を導入している企業では、「職場の雰囲気」や「上司・同僚の理解」「休暇中フォローできる人員の確保」「経営陣からの取得の勧め」が必要であると考えられています。せっかく休暇制度を作っても、最初に周知をしたのみで具体的な取得の方法も知らせないのでは、従業員にとって取得しにくい制度になります。また、実際に取得しようとすると周りから冷たい視線が突き刺さるという状況でも、定着しにくくなります。
実際に運用レベルで成功している企業は、周知用のチラシを作成したり、社内報に記載したりする(導入時のお知らせと、適宜実際に取得した人の感想も掲載する)等の工夫をしています。なんと言っても、経営者からの働きかけは非常に有効です。事あるごとに経営者が特配休暇制度の目的を説明し取得を勧めると、おのずと取りやすくなります。
また、繰り返すようで恐縮ですが、忘れてならないのは、「従業員の多能工化」です。この仕事はこの人しかできないということになると、休暇が取りにくくなります。一つの業務は多くの人ができるように日頃からワークシェアリングをしたり、教育を行ったり、誰が休暇を取っても業務に支障がないようにしておくことが大切です。
多くの会社で特配休暇制度が導入され、活力のある企業が増えることを、心より期待しています。
■規定例
(特別休暇)
第○条 従業員が次の事由により休暇を申請した場合は、次の日数を限度として特別休暇を与える。この休暇を取る場合は、原則として事前に所定の様式により所属長へ届出を出さなければならない。
(1)結婚休暇(本人が結婚をするとき):6日
(2)配偶者出産休暇(配偶者が出産をするとき):3日
(3)忌引休暇
実養父母・配偶者・子(実子・養子を問わず)の死亡6日
実祖父母・配偶者の父母・孫・実兄弟姉妹の死亡 3日
(4)誕生日休暇:1日
(5)○○○休暇:○日
(6)○○○休暇:○日
(7)○○○休暇:○日
2. 第1項(1)から(3)までの特別休暇の期間中に休日が介在する場合には、当該特別休暇日数に通算せず、労働日で換算するものとする。
3. 第1項(1)の結婚に関する休暇については、入籍日または結婚式の日から1年以内の期間に取得するものとする。また、当社における本人の結婚休暇の取得は、従業員1人につき1回限りとする。第1項(2)・(3)の出産・死亡に関する休暇については、事由発生の近隣日に取得するものとする。
4. 第1項(4)の誕生日休暇については、本人の誕生日に取得するものとする。ただし、所定休日に誕生日が到来する場合は、近隣日に取得するものとする。
5. 会社は特別休暇取得者に対して、事前もしくは事後速やかに事実を知るに足る書類もしくはこれに代わるものの提出を求めることがある。
6. 特別休暇については、有給とする。
かりや・みか ● グリーン社会保険労務士事務所。特定社会保険労務士。中央大学商学部卒業。人事制度の導入、教育訓練、企業における従業員のメンタルヘルス対策など、人事労務のスペシャリストとして各種コンサルティングを行っている。著書に「就業規則のつくりかた」(同文館出版)、「経営者のための社会保険料適正化講座」(保険毎日新聞社)等。
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