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【とび職人】
ダボダボのズボンにも職人の知恵が
高い所から工事の安全と成功を支える建設技能者

命の危険と常に隣り合わせの現場へ真っ先に乗り込み、他の職人や大工のために足場を築く「とび職人」。地上数百メートルの高所でも華麗かつ繊細に動き回る彼らの技術がなければ、あらゆる建設工事は先へ進まない。海外にも同様の職種があり、英語での職種名は「スパイダーマン」。なるほど、言い得て妙である。新国立競技場の建設をはじめ、4年後に迫った東京五輪・パラリンピックの開催準備の進捗をも左右しかねない、現場の担い手の実像とは。

職人が消えた!? 深刻なのは人手不足より人材不足

リオデジャネイロから東京へ、2020年夏季五輪・パラリンピックのバトンがついに手渡された。これからの4年は長いようで短い。開催準備はまさに待ったなしだ。しかし、先の東京都知事選挙でも開催費用負担の見直しが争点となるなど、最終局面に入ってなお、問題は山積している。仮設競技会場などの整備費用が招致段階の約4倍にもふくらむ見通しであることが公表されたのは、今年4月になってから。資材や人件費の高騰に加え、招致段階での見積もりの甘さなどが理由とされているが、むしろ構造的なボトルネックとしてより深刻なのは、賃金コストを押し上げている建設現場の作業員不足である。

とび職人

建築現場の人材不足が、
建築費用の高騰の一因となっている。

公共事業と民間を合わせて1996年度に約82兆円あった日本の建設投資額は、長引く景気低迷と政府による公共工事の削減が続いた結果、2010年度までに42兆円弱とほぼ半減した。激化した受注競争のしわよせが賃金低下やリストラを招き、労働者を減少させた。しかも建設現場の仕事は多くの専門職に分かれ、それぞれに高い技術をもつ職人=「建設技能者」が求められるが、5~10年かけてやっと一人前になる職人の育成が、建設市場の縮小で滞ってしまった。

そこへ昨今の景気回復と重なり、建設投資は一転、上向きに。単なる人手の不足だけでなく、職人という人材の不足が顕在化し、東京五輪の開催準備や被災地の復旧・復興にまで影を落としかねないと危惧されている。総務省の労働力調査によると、建設技能者の数は13年(平均)で338万人。直近のピークだった97年に比べて2割強減り、いまや熟練職人の高齢化も著しい。そんな建設技能者の代表的な職種の一つが、「とび職人」である。

とび職とは、建設現場で働く作業員のうち、もっぱら高所での作業を担う技能者で、危険を伴う専門性の高い職種である。一口に高所作業といってもさまざまな仕事があり、とび職も主に担当している作業によっていくつかの種類に分かれる。まず最も多いのが、建設現場に欠かせない足場を、鉄パイプや“ピケ”と呼ばれる材料を使って設置する「足場とび」。図面から建物をイメージし、後から現場に入る他の職種の職人が安全、かつ作業しやすいように、足場を組んでいくのが主な役割である。次に多いのが「鉄骨とび」。鉄骨造の建築物において、図面をもとにその基礎となる骨組を組む職人で、鉄骨などをクレーンで吊り上げ、高所で組み立てを行う。より専門性の高い職種として、大きな橋の骨組を組み立てたり、建築物の内部に大型機械などの重量物を据え付けたりするとび職もある。「重量とび」と呼ばれ、鉄骨とびと一くくりにされることもあるが、その仕事にはより高度な技術と知識が求められる。

ちなみに、とび職人といえば、地下足袋に「ニッカポッカ」と呼ばれる独特の作業着を身に着けた姿をイメージする人が多いだろう。あの作業ズボンは、第一に脚をスムーズに動かせるように、また足元の障害物にズボンのすその広がりが触れることでいちはやく反応して危険を回避できるように、ダボッとした形状になっているのだという。

現場の華――建設はとびに始まり、とびに終わる

とび職人 イメージ

とび職は「現場の華」。形としては
残らないが、とび職人がいなければ
工事は始まらない。

建設業界では、昔から「建設はとびに始まり、とびに終わる」と謳われ、高所を自在に動き回れることから「現場の華」とも称されてきた。とび職人はまず、どの業者よりも先に工事現場に入って仮囲い(現場の柵)を組み、タワークレーンを設置して建物の基礎となる鉄骨を建てる。

目もくらむような地上数百メートルの高所でも他職が安全に工事できるよう、最初に足場を設置して作業場所を切り開くのも、とび職の役割だ。足場、鉄骨、重機をそれぞれのとび職人が適切に設置して初めて、他の職人は現場に入れる。つまり、とび職人がいなければ工事は始まらないし、とび職の仕事が充分でないと、その先の工程へは一歩たりと進めない。だから、「とびに始まり、とびに終わる」とまで言われるのだ。

とび職人は見習いから始まり、先輩職人の厳しい指導を受けるのも日常茶飯だが、現場の安全と工事の成功を根本から支える責任はそれだけ大きく、重い。職人が自らの仕事に誇りとやりがいを見出すことができる理由の一つだろう。

無事に竣工すれば、足場も、鉄骨も、重機も、とび職人が手がけた仕事は何一つ、目に見えるかたちでは残らない。だが、完成した建造物を見上げたとき、そこに何物にもかえがたい達成感と満足感を得るのだという。

そんなとび職人に求められるのは、体力と根性、集中力、判断力など。精神的にも肉体的にも厳しい仕事だけに、根性と体力は欠かせない。高所での作業は一瞬の油断も許されず、かといって慎重過ぎるとはかどらないので、高い集中力と判断力も重要だ。高所に対して恐怖心を感じないことも条件の一つだが、これは慣れの要素も大きいだろう。

国家資格をとって「職長」にステップアップ

とび職人には、専門の学校や養成機関はなく、基本的に学歴・職歴を問われることもない。とび職や土工など専門の建設会社の面接を受け、採用されれば、最初は見習いの作業員として働き始める。法律により、18歳未満は高所作業が禁止されているので、18歳になるまでは、高所作業を伴わない先輩職人のサポートや資材運搬などが仕事の中心になる。見習いの間は、現場で先輩から教わりながら仕事を覚えていくが、ひと通りの技術と知識を身につけ、とび職人として一人前になるまでには先述のとおり、5~10年はかかるのが一般的だ。

さらに何年か経験を積むと、「職長」と呼ばれるポジションで現場を任されるようになる。他の職人を指揮監督する立場であり、安全面の配慮を行うとともに、作業手順を考えて計画し、その計画どおりに進むように管理を行う。実力重視のとび職人の世界では、若い職長が年上の職人の上に立つことも少なくない。職長になるには、「足場の組み立て等作業主任者」やクレーンなどで“玉掛け”と呼ばれる作業を行うための「玉掛作業者」といった国家資格が必要。

また、「とび技能士」というとび職人の技能を1級~3級の等級で評価する国家検定があり、現場によっては、職人のうちの誰かがこの資格を持っていないと入れない現場もある。学歴はなくても構わないが、学ぶ意欲がなければつとまらない。

厚生労働省が発表した平成29年「賃金構造基本統計調査」によると、とび職の平均年収は38.5歳で421万円。給料の多くは固定給ではなく、日給月給制だ。経験や実力によって日給が異なり、実際に働いた日数×日給が月給となる。日給は、見習いで7000~10000円、一般的な職人で10000~14000円、職長クラスで12000~18000円程度が相場のようだ。年収ベースでは一般の職人で300~400万円台、若い職長クラスで400~500万円台、ベテランの職長クラスで500~600万円台ぐらいだが、人材不足から昨今は上昇傾向にある。

この仕事のポイント

やりがい現場の安全と工事の成功を根本から支える責任
就く方法とび職や土工など専門の建設会社に就職する。見習いの作業員から5~10年かけて技術と知識を身につける
必要な適性・能力・根性と体力 ・高い集中力と判断力 ・高所に対して恐怖心が弱いこと ・技術や資格の取得のために学ぶ意欲
収入年収は一般の職人で300~400万円台、若い職長クラスで400~500万円台、ベテランの職長クラスで500~600万円台 平均年収は38.5歳で421万円(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」平成29年)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 中途採用

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