「デジタル人材」の能力開発・確保をめぐる企業の取り組みに関する調査
概要
研究の目的
プロジェクト研究「デジタル人材の能力開発・キャリア形成に関する調査研究」は、日本の「デジタル化」を支える「デジタル人材」の能力開発・キャリア形成、およびデジタル化が進行する状況下での人材育成・能力開発における現状の把握分析から、それぞれにおける課題を明らかにし、政策的対応の方向性・内容について検討することを目的とする。
既存の調査・研究や政策文書を検討した結果、日本で「デジタル人材」として捉えられてきたのは、①デジタル環境を用いて企業組織内におけるデジタル化やDXを推進していく人材、②デジタル環境の下で働く人材、③デジタル環境の構築に携わる人材であり、現状の分析にあたってもこれらの人材をめぐる実態の把握が必要である。そこで①、②の人材をめぐる実態を把握するための非IT企業を対象とした調査と、③の人材をめぐる実態を把握するためのIT企業を対象としたアンケート調査を行った。
研究の方法
- 農林漁業、情報通信業、複合サービス業、公務を除いた産業に該当する、従業員100人以上の全国の企業4000社を対象とした「デジタル人材の確保と能力開発に関する企業調査」〈以下、「デジタル人材調査」)
- 従業員30人以上の「情報サービス業」「インターネット付随サービス業」に該当する全国の企業2000社を対象とした「デジタル化・DXに向けた人材の確保と能力開発に関する調査」〈以下、「IT企業調査」)
を実施。
いずれの調査も郵送回収法で2024年1月26日~3月21日にかけて実施し、デジタル人材調査は347社が回答(回収率8.7%)、IT企業調査は215社が回答(回収率10.8%)。
主な事実発見
- デジタル人材調査に回答した企業においては、デジタル技術を活用した事業内容・事業の進め方の見直し・改革として、大半の企業に存在する人事管理機能の強化や、競争激化に対応するための製品/サービスの高付加価値化や顧客ニーズのきめ細かい把握・反映などを進めていこうとする動きが見られる。ただ、これら比較的実施されている取り組みについても、いずれの日常的業務領域におけるデジタル技術を用いたツールやシステムの活用よりも低い。
- デジタル人材調査に回答した企業の多くは、業務遂行・事業運営におけるデジタル技術の活用における課題として、育成まで含めてデジタル技術導入を支える人材の確保を挙げる。しかし、回答企業の約半数は業務遂行・事業運営におけるデジタル技術の活用に向けた能力開発を行っていない。
- デジタル人材調査に回答した企業のうちデジタル技術の活用に向けた能力開発を実施している企業でも、その方針は一般的な正社員の能力開発の方針とは異なる傾向にある。能力開発のイニシアティブについては個々の社員が主導するという方針を持つところが多数を占め、手段についてもさほどOJT重視に偏らない。対象についても選抜した社員を対象とするという企業が多数を占める。これらを踏まえると、デジタル技術の活用を支えるための能力開発は実施される場合でも、社員を対象とした一般的な能力開発とは別に位置づける企業が多いと見ることができる。
- デジタル人材調査に回答した企業の約3分の2は、デジタル技術やその活用に関連した、社員の「リスキリング」(学びなおし)の取り組みを行っていない。また国家試験である「情報処理技術者試験」の資格や、いわゆる「ITベンダー」が運営する「ベンダー系資格・試験」も、ほとんどの回答企業で能力開発や能力評価の目的で活用されていなかった。
- IT企業調査において、自社で雇用/就業しているIT技術者の仕事として半数以上の企業から回答があったのは、「ソフトウェア・ディベロップメント」、「アプリケーション」、「プロジェクト・マネジメント」、「ネットワーク」、「データベース」、「セキュリティ」といった仕事であり、これらの仕事の従事者が、企業のデジタル技術の活用を支える中心的な担い手と捉えることができる。IT技術者の自社における確保状況については、「必要な人材は十分に確保できている」という企業は1割強にとどまり、約8割は「必要な人材を確保できていない」と認識している。
- IT企業調査に回答した企業のうち約6割はIT技術者の育成・能力開発がうまくいっていると評価し、約3割はうまくいっていないと評価している。うまくいっていないと評価した企業の半数以上は、中堅社員が不足していることを理由として挙げている。
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(独立行政法人労働政策研究・研修機構 /4月3日発表・同法人プレスリリースより転載)
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能力開発関連制度