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【ヨミ】メンタルヘルス

メンタルヘルス

メンタルヘルスとは?

「心の病気」そのものを指す言葉ではなく、「心の健康状態」(精神的健康)を問う言葉。人は心が健康であれば、ポジティブな状態を安定的に保つことができます。仕事に対して意欲的な姿勢で臨むことができ、日常的にもいきいきとした生活を送ることができるでしょう。
WHO(世界保健機構)では「健康」について「病気でないということではなく、身体的、心理的、社会的に満たされた状態(Well-being)であること」と定義しています。このようにメンタルヘルスは、精神的健康として身体的健康に対比して用いられる言葉であり、「精神が健康なので、病気ではない」という視点だけでは不十分なのです。

更新日:2024/02/06

1.特別な病気ではなく、ストレスや悩みを抱えている状態も、メンタルヘルス不調に当てはまる

メンタルヘルスは、特別な病気や病状だけを指すものではありません。「うつ病」や「パニック障害」といった病名が付いている状態だけでなく、ごく普通に働いている人が何らかのストレスや悩みを抱えて気分が落ち込んでいる状態も、メンタルヘルス不調に当てはまります。つまり、現代では誰もがメンタルヘルス不調になり得るわけです。そこで、気持ちが落ち込むことなく、調子の良い状態で生活していくことが大切であると考えられるようになり、メンタルヘルスに関する取り組みが注目されるようになったのです。

近年は働く環境や仕事内容、組織風土、人間関係などが大きく変化しているため、ストレスとなる要因が以前よりも職場に増加しています。仕事や人間関係の不安や悩みが解決しないまま過度のストレスを抱えたり、長時間労働が必要以上に続いたりすると、メンタルヘルス不調へとつながりかねません。

厚生労働省の「過重労働による健康障害を防ぐために」によると、月100時間を超える残業や、2~6ヵ月平均の月の残業時間が80時間を超えると、健康障害のリスクが高まるそうです。長時間労働の下でこのような状況に陥り、心の健康を損なう人が急増しているため、企業にとってメンタルヘルス対策は大きな課題となっています。

2.メンタルヘルス対策が求められる背景

「心の病」についての調査データから分かること

では、働く人のメンタルヘルスの現状はどうなっているのでしょうか。このテーマを長期間リサーチしている日本生産性本部「メンタルヘルス研究所」が2017年に行った「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケートの結果を見ると、「心の病」の年代別割合は、40代、30代が3割を上回って最も多くなっています。さらに、10~20代の若年層も3割近くまで上昇しており、過去に行った調査結果と比べて、各世代の比率が平準化していることが明らかとなりました。つまり現在では、職場におけるあらゆる年齢層の人たちが「心の病」にかかるリスクがある、ということ。一般的に、仕事の責任と権限がアンバランスであることが「心の病」を引き起こす要因の一つでいわれますが、そのアンバランスさが各世代共通となってきていることが近年の特徴と言えます。

第8回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果~「心の病」の多い世代で20代が急増。各世代共通の課題に~(公益財団法人日本生産性本部)

出典:公益財団法人日本生産性本部:第8回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果

メンタルヘルスが及ぼす悪影響とは?

メンタルヘルスの悪化は、従業員と会社に対して大きな悪影響(デメリット)をもたらします。

従業員 ・遅刻・欠勤の増加
・作業効率の低下、業務上のミス・遅延、ケガ・事故の発生
・休職・離職の発生 など
会社 ・組織活力・生産性の低下、収益の悪化
・求職者・退職者発生によるコスト負担増
・スキャンダルによる企業イメージの低下 など

まず従業員の場合、心の病が原因でストレスがたまると、遅刻や欠勤が増加します。作業効率が低下して業務上のミスや遅延が起きたり、ケガや事故へとつながったりすることもあります。結果的に長期療養による休職や離職を余儀なくされるケースも少なくありません。

そのような状況に陥った場合、ビジネスパーソンはキャリア形成と生活の維持において重大なリスクを抱えることになります。企業にとってもそれは同様で、組織活力の停滞など、さまざまな悪影響が起こることも考えられます。組織全体の生産性が低下すれば、収益にも大きく影響するでしょう。

休職者が出た場合、医療費の負担をはじめ、傷病手当見舞金、代替となる人件費などが必要になります。退職となった場合は、人材補充のための募集・採用に関わる費用など、さまざまなコストもかかります。さらに、労働災害が適用されると次年度から労災の保険金が増加することになり、労災から民事訴訟に発展すれば損害賠償が請求されます。当然、裁判に関わる費用や弁護士費用なども膨大なものとなるでしょう。

こうした影響は、コスト面だけに止まりません。過重労働による自殺者が出た場合、会社のイメージダウンは不可避と言えます。取引先・株主からの信頼を失うほか、従業員のモラルダウン、募集・採用活動への悪影響といった「負の連鎖」を引き起こすことにもなりかねません。企業存続の危機に陥ることも十分に考えられます。

このように、従業員のメンタルヘルス不調によるさまざまな影響を考えると、企業にとってメンタルヘルスへの対応は喫緊の課題と言えます。メンタルヘルス対策の速やかな実施は、会社全体で取り組むべき「リスクマネジメント」として不可欠であり、重要な企業戦略と位置付けることができます。

3.職場のメンタルヘルス対策 その体制作りと実務対応

メンタルヘルス対策は「四つのケア」が効果的

企業はどのようにしてメンタルヘルス対策を行っていけばいいのでしょうか。まず、企業には労働契約法の下、「安全配慮義務」が課せられています。厚生労働省の指針では「職場の心の健康づくりの体制の整備」など、会社が策定すべき「心の健康づくり計画」を定めています。具体的な進め方としては、「セルフケア」「ラインケア」「内部EAP」「外部EAP」という四つの切り口で対応していくことを提唱しています。

メンタルヘルス「四つのケア」

(1)セルフケア

セルフケアは、従業員自らが行うストレスへの気づきと対応のことで、メンタルヘルス対策の第一歩はここから始まります。自分でストレス反応をコントロールする方法を学び、職場でのストレス耐性を高める「セルフコントロール研修」という手法が効果的です。

「セルフコントロール研修」は、自分自身のストレスの現状を知り、上手にストレスと付き合うための「心理学的スキル」を学ぶためのものです。人はストレス要因に遭遇したとき、プラスとマイナスの二通りの捉え方をします。例えば、新しい仕事を担当することになった場合を考えてみましょう。新しい仕事を「脅威」と捉えるか、それとも「コントロール可能なもの」と捉えるかで、その後の状況は大きく違ってきます。脅威と捉えた場合、不安な気持ちに包まれ、自分ではどう対処していいのかが分からなくなり、ストレスがどんどん溜まっていきます。一方、コントロール可能なものだと思えば、不安な気持ちになることは少ないでしょう。困難なこともポジティブに捉え、難しい仕事に対してやりがいを感じ、積極的に対処していくようになります。このように、ストレスに遭遇した際にどういう捉え方をし、どんな対処方法を取るのかは分岐点といえます。

また、自分自身でストレスに対処していくセルフケアを行う場合、以下に示したような行動やスキルを習得することが効果的です。

【感情・思考の状態の記録】

ストレスを感じたとき、自分の「感情・思考」の状態を記録として毎日付けていくこと。日々の感情・思考の記録を付けることにより、自分の認知のパターンや傾向に気づき、ストレスを感ることのない、別の考え方を探すことができるようになります。

【リラクゼーションスキル】

リラクゼーションとは、ストレスを受けて発生した感情や生理反応をできるだけ軽減していくこと。リラクゼーションすることによって体の反応を変えれば、感情も変えることができます。「筋弛緩法」「呼吸法」「自律訓練法」などの手法(スキル)を学ぶことによって、ストレス感情の減少のほか、肩こりなどの筋肉の緊張を減少させることができるようになります。

【マインドフルネス(瞑想)】

マインドフルネスとは、雑念を持たず、いま起こっていることに集中する心のあり方のこと。緊張感から解放され、最も自分の力を発揮できる状態です。このようなマインドフルネスの状態となるために用いられる方法が「瞑想」です。静かな場所で目を閉じて瞑想し、雑念や無駄な思考のないところに自分の心を持って行くことにより、ストレスが解消され、精神的にも肉体的にも緊張が緩和されていきます。アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズが、瞑想を習慣にしていたことはよく知られています。

【対人関係スキル】

会社組織において、対人関係を良好に保つことは大変重要です。適切なコミュニケーションが求められる中、相手に自分の意見や考えをうまく伝えることができれば、自信へとつながっていくでしょう。「アサーション」(自分の考え・意見として、言うべきことは言う)と呼ばれる対人関係スキルを習得すれば、職場における人関関係を円滑に進めることができるようになります。

アサーションを行う際のポイントは、「私は~」という主語(アイメッセージ)を使い、自分の気持ちを伝えること。自分が主語となるので自覚的となり、考えていることを率直に表現することができます。また、初めから「無理です」「できません」といった否定的な言葉は使わず、相手に状況を説明し、相談していく中で「こうしたら可能です」など、譲歩案を提示していくようにします。その際、相手とは常に対等であることを意識し、自分が上司である場合には、普段から命令口調を改めるようにします。

(2)ラインケア

ラインケアは、管理者が行う職場環境などの改善と相談への対応のこと。言うまでもなく、管理者にとって部下のマネジメントは重要な仕事です。メンタルヘルス対策の場合、部下の健康状態とともに労働時間や仕事の量・質をチェック。部下がストレスを溜めていないか、またそのストレスに対処しているかどうかを見極め、心身ともに健康で仕事に取り組めるよう管理・指導し、部下の心身の健康に配慮することが求められます。

そのためには、不満や抱えているストレス、仕事に対する意欲や気力などについて、部下からしっかりと話を聴く時間を確保する必要があります。心の問題の予兆に気づいて相談に乗ったり、必要に応じてアドバイスを行ったりするなど、早い段階から問題に気づいて対処できるよう、心掛けなくてはなりません。

(3)内部EAP

「EAP」(従業員支援プログラム)は「Employee Assistance Program」の略称で、メンタルヘルス対策として相談室を設けたり、カウンセラーを配置したりするなどして、従業員を支援するプログラムのこと。職場のストレスや、上司や部下との人間関係、セクハラ・パワハラ、キャリアに関する問題、プライベートな悩みなど、働く人の仕事の生産性に影響を与える原因と客観的に向き合い、解決の糸口を探して、健康な状態で安定して働くことができるようにサポートします。

EAPは、内部で行う場合と外部で行う場合があります。健全な職場環境を保持するには、職場内に専門スタッフがいることが望ましいでしょう。内部EAPは、自社内の産業保健スタッフなどが職場環境やストレスの状況について評価し、管理者と協力して改善をしていくことを目的としています。そのため、現場との密接な連携が必要です。

(4)外部EAP

社内に専門スタッフを雇用することが難しく、「外部EAP」を利用する企業が増えています。その背景には、大きく分けて二つの理由があります。一つ目は、コストが安いこと。二つ目は、内部EAPと比べて利用率が高いこと。

外部EAPはプライバシーが厳格に守られているので、従業員は安心して利用することができます。その結果、疾患に至る前の早期対応も可能となります。主な社外の専門機関には、公的機関である地域産業保健センター、産業保健総合支援センター、中央労働災害防止協会のほか、民間の専門医療機関やEPA(従業員支援プログラム)などがあります。

誰もがイキイキと働ける組織を目指して
昨今では「ウェルビーイング」「ワーク・エンゲージメント」「健康経営」などのキーワードとともに語られることも増え、従業員の心身の充足度を高めるための一歩進んだ取り組みも目立つようになりました。メンタルヘルス対策を支援する、さまざまな外部サービスや選び方のポイントをご紹介します。

メンタルヘルス関連サービス、EAPの傾向と選び方|日本の人事部

「ストレスチェック制度」による対応

労働安全法が改正され、2015年12月から従業員数50人以上の企業(事業場)に対して、「ストレスチェック」「面談指導」の実施などを義務付ける「ストレスチェック制度」が実施されることになりました。「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票(選択回答)に従業員が回答し、それを集計・分析することによって、ストレスがどのような状態にあるのかを調べる検査のこと。結果を分析することで、従業員がストレスをため過ぎないように対処したり、医師の「面接指導」を受けてもらったり、仕事を軽減するために職場環境を改善したりするなど、「うつ」などのメンタル不調を未然に防止することを目的としています。

(1)「ストレスチェック制度」の実施手順

「ストレスチェック制度」は、以下のような手順に沿って行われます。なお、「ストレスチェック」と「面接指導」の実施状況に関しては、労働基準監督署に対して、毎年、所定の様式で報告する必要があります。

【導入前の準備】

  • 実施方法など、社内ルールの策定

【ストレスチェック」の実施:全員が対象】

  • 質問票の配布、記入(ITシステムを用いて実施することも可能)
  • ストレス状況の評価、医師の面談指導の要否の判定(※)
  • 本人に結果を通知

※個人の結果を一定規模のまとまりの集団ごとに集計・分析(集団分析)、職場環境の改善を行う。ただし努力義務

【面接指導:ストレスが高い人が対象】

  • 本人からの面接指導の申し出
  • 意思による面接指導の実施
  • 就業上の措置の要否、内容について医師から意見聴取
  • 就業上の措置の実施

(2)「ストレスチェック制度」を実施する際の留意点

「ストレスチェック制度」は、従業員の個人情報が適切に保護され、不正な目的で利用されないことがとても重要です。そのためには、プライバシーの保護を徹底することが求められます。「ストレスチェック」や「面接指導」で個人の情報を扱った者(実施者とその補助をする実施事務従事者)には、法律で守秘義務が課せられており、違反した場合には罰則の対象となります。個人情報は適切に管理し、社内で共有する婆にも必要最低限の範囲にとどめることが大事です。

(3)「集団分析の生かし方」が課題

前述の日本生産性本部「メンタルヘルス研究所」が行った「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケートでは、「ストレスチェック制度」の課題において、「集団分析の活かし方」が58.4%と約6割の企業が挙げていました。

「ストレスチェック」における集団分析とは、個人の結果に加えて、会社全体の集計をデータにする取り組み。個人的な分析だけでなく、会社全体の平均を出した方が、ストレスの要因を明らかにできるとの考えから、集団分析の手法が取り入られました。しかし集団分析を行う際、サンプル数が少ないと個人が特定される可能性があります。そのため、プライバシー保護の観点から、集団分析を行うことは義務ではありません。あくまで努力義務であり、部やグループによって行うかどうかは自由です。集団分析を行い、その結果を活用することは非常にデリケートな側面が強く、その扱い方が難しいのは事実です。このような観点から「集団分析の活かし方」が課題のトップに挙げられたのだと考えられます。

4.メンタルヘルス対策のポイント・留意点

会社には「安全配慮義務(健康配慮義務)」が求められる

会社には労働契約上、従業員を業務に就かせるに当たり、従業員の生命・身体・健康を守らなくてはならない義務、つまり「過度の徒労や心理的負担をかけて従業員を心身の健康を損なうことのないよう注意する義務」があります。これを「安全配慮義務(健康配慮義務)」と言います。

メンタルヘルス対策として、従業員からの「相談窓口」などを設置する企業が増えています。しかし、それだけでは安全配慮義務を果たしているとは言えません。過去の判例でも、従業員の長時間労働や健康悪化を知りながら、具体的な業務軽減措置を取らなかったことから、会社の「安全配慮義務」違反を認めたケースがあります。

「安全配慮義務」違反となるポイントは、大きく二つあります。一つは「予見可能性」。従業員の健康を害することを、会社が予測できた可能性があったかどうか。もう一つは「結果回避性」。会社として、それを回避する手段があったかどうかです。これらを講じなかった場合、「安全配慮義務」違反を問われることになります。

「配置転換、降格、休職命令の可否」について

精神疾患などで休職した従業員を復職させる際は、原職に復帰させるのが基本です。ただし、使用者側には「配置転勤命令権」があるので、その権利濫用にならない程度で、従業員の配置転換を決めることができます。

資格等級制度を採用している企業において、降格できるかどうかは資格等級制度の設計内容によります。過去の判例を見ると、メンタルヘルス不調が「勤務成績の著しい不良」などの降格条件に該当すれば、裁量権の逸脱がない限り違法とはならない、というケースがあります。また、賃金を減額する場合、本人の同意または就業規則や賃金規程での定めが必要となります。

精神疾患などで働くことが難しくなった場合、会社は休職を命じることがあります。その際、休職中は賃金が支払われないなどの不利益な措置が伴うので、休職を命じる場合は本人との合意、または就業規則などで定めた根拠となる規定が必要です。

「復職支援」への対応

メンタルヘルスが大きな問題となる中、休職期間中の従業員に対する職場復帰支援が求められています。復職のための流れは、厚生労働省が発表した「心の問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の手引きが参考になります。この手引きは、心の健康問題により休業した従業員の職場復帰支援のためのマニュアルとして作成されたもの。必ずしも企業の義務を定めたものではありませんが、手引きに基づいてそれぞれの職場の実態に即した形で、職場復帰支援に取り組むことが期待されます。

【「心の問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省)の概要】
●職場復帰の流れ
下記の五つの各段階において、必要なフォローを行うこと
STEP1:休業開始および休業中のケア
STEP2:主治医による職場復帰可能の判断
STEP3:職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
STEP4:最終的な職場復帰の決定→職場復帰
STEP5:職場復帰後のフォローアップ
●会社は、職場の実態に即した形で「職場復帰支援プログラム」を策定すること
●「職場復帰支援プログラム」を実施する際は、従業員のプライバシーに配慮しつつ、職場内の産業保健スタッフを中心に、管理監督者、従業員、主治医などが連携を図りながら取り組むこと

5.課題と今後の展開

メンタルヘルスが抱える課題に対して、今後、どのように対応していけばいいのか、そのポイントを整理します。

「メンタルヘルス・マネジメント検定」のすすめ

メンタルヘルス対策は、不調になった人をケアして治す、ということに限りません。メンタル不調者は組織の中でごく一部の存在であり、多くの人たちはさまざまな問題を抱えながら、元気に仕事をしています。その大多数の人たちがメンタルヘルス不調を起こさないよう、一人ひとりをどう生かしていくかという発想がメンタル不調を事前に防止し、組織の活性化へとつながっていきます。そのためメンタルヘルス対策には、一人ひとりが自らの役割を理解し、ストレスやその原因となる問題に対処していくことが欠かせません。

そうした際に有効なのが「メンタルヘルス・マネジメント検定」。働く人たちの心の不調を未然に防ぎ、活力ある職場づくりを目指すために「メンタルヘルスケア」を学ぶ検定試験です。前述の厚生労働省の指針を受け、大阪商工会議所などが実施しているもので、試験は、「セルフケアコース(一般社員対象)」「ラインケアコース(管理職対象)」「マスターコース(人事労務管理スタッフ・経営幹部対象)」の三つに分かれており、それぞれのニーズに合わせて選択することができます。これからのメンタルヘルス対策は、一般社員、管理職、人事労務管理スタッフ・経営幹部がそれぞれの役割を認識し、メンタルヘルスに関する正しい知識を持つことが求められているため、有効な検定試験と言えます。

セルフケアで重要な「コーピング」

メンタルヘルス対策の第一歩となるのが、従業員自らがストレスへの気づきと対処を行う「セルフケア」。そこでポイントとなるのが、「コーピング」です。「コーピング」はストレスに対処するための行動のことですが、そもそもストレスに悩まない人たちは、コーピングがうまくいっている、つまりストレスにうまく対処できていると言えます。

具体的な方法としては、ストレスそのものに対する働きかけによってストレスをなくしてしまう方法、ストレスに対して自分自身と周囲の人の協力を得て解決する方法、ストレスによって発生した不安感や怒りなどの感情を周囲の人たちに聴いてもらって発散する方法などがあります。自分で対応仕切れないストレスに対しては、周囲の人たちの協力を得て、より良い解決の糸口を見出すことが大切です。

「エンゲージメント」のレベルを高めることが効果的

「エンゲージメント」とは、個人と組織が共に成長する関係のこと。「エンゲージメント」の高い組織で働く人は、自らの能力を十分に発揮し、評価されていると感じています。また、組織に対して愛着を覚え、良好な人間関係を築いています。このような状態にある人は、メンタルヘルスも高いレベルで保たれていると考えられます。「エンゲージメント」を高いレベルに持っていくことはメンタルヘルス対策として効果的な方法といえるでしょう。

「キャリア開発」によってメンタルヘルス不調者を出さない仕組みを

「キャリア開発」とメンタルヘルスは、切り離せないテーマ。メンタルヘルス不調による休業から復職できたとしても、キャリアに関する支援がなめれば再発し、再び休職するケースが少なくないからです。そのため再発を防ぎ、その人がどのように組織の中でキャリアを築いていくかを一緒に考える、サポート体制が求められます。このようにきめ細かな支援を行うことによって、従業員一人ひとりのパフォーマンスやモチベーションを向上させ、キャリア開発につなげていこうとする考え方は、近年のメンタルヘルス対策の潮流となっています。

「キャリア相談室」には行きやすいけれど「メンタルヘルス相談室」はハードルが高い、と感じる従業員もいるかもしれません。そのため、キャリア相談室に来た人の中にメンタルヘルス不調の人がいたら、メンタルヘルス相談室にリファーし、具合が良くなったらキャリア相談室に返す、といったように連携を取り合って支援する体制を構築することも重要です。実際、最近は産業医がキャリア相談室と連絡を取って対応するケースが増えているようです。このように総合的な支援を行うことが、今後のメンタルヘルス対策においては重要となりそうです。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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