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パネルセッション[D]

いま企業に求められる「メンタルヘルスとキャリア支援の統合」とは
――キャリア支援がメンタルヘルス不調を予防する――

【ファシリテーター】
宮城まり子氏 photo
法政大学 キャリアデザイン学部教授、臨床心理士
宮城 まり子氏(みやぎ・まりこ)
プロフィール:慶応義塾大学文学部心理学科卒業、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。病院臨床(精神科、小児科)等を経て、産能大学 経営情報学部助教授となる。1997年よりカリフォルニア州立大学大学院キャリアカウンセリングコースに研究留学。立正大学心理学部教授を経て、2008 年4 月から現職。専門は臨床心理学(産業臨床、メンタルヘルス)、生涯発達心理学、キャリア開発・キャリアカウンセリング。他方、講演活動や企業のキャリア研修などの講師としても精力的に活躍している。著書には、『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)『キャリアサポート』(駿河台出版社)『心理学を学ぶ 人のためのキャリアデザイン』(東京図書)『成功をつかむための自己分析』(河出書房新社)などがある。

【パネリスト】
西澤肇氏 photo
株式会社三菱東京UFJ銀行 人事部 キャリア相談室長
西澤 肇氏(にしざわ・はじめ)
プロフィール:1977年4月株式会社三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。営業拠点(横浜支店・大阪支店他)、本部(人事部・融資部他)を幅広く経験の後、2006年6月横浜支社長から人事部に移り「キャリア相談室」立上げに携わる。同年8月「キャリア相談室」の活動を開始。以来現職。公益財団法人日本生産性本部認定キャリア・コンサルタント、日本産業カウンセリング学会理事(研修委員会委員)、2級キャリア・コンサルティング技能士。

伊藤美季氏 photo
古河電工健康保険組合 主任
伊藤 美季氏(いとう・みき)
1991年4月古河電気工業株式会社入社。人事部衛生管理センターにて社内の安全衛生・健康管理業務を経験の後、2001年3月から古河 電工健康保険組合に移り、保健事業・医療費適正化の業務を担当。1996年に開設した社内相談室「Heart Care Room」にて、被保険者・被扶養者のメンタルとキャリアの相談・教育を行っている。一般社団法人日本産業カウンセラー協会認定シニア産業カウンセラー、一般社団法人産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、2級キャリア・コンサルティング技能士。

近年、企業にとって重要な課題となっているのが、社員のメンタルヘルス不調。その陰には、キャリアに関する問題を抱える人たちが多く存在するという。この問題に対処するには、メンタルヘルス支援とキャリア支援を並行して行なうことが重要だが、企業は具体的にどのような支援を行っていけばいいのか――。三菱東京UFJ銀行、古河電工健康保険組合の事例を紹介しながら、法政大学 宮城まり子教授が、いま企業に求められる「メンタルヘルスとキャリア支援の統合」について解説した。

宮城まり子教授による解説:再発で「マイナスのレッテル」を貼られない対処が必要

宮城まり子氏 講演photo これまでのメンタルヘルス治療は、早期発見、早期治療が基本。メンタルヘルス不調者は負荷量の軽減や投薬によって症状の回復を待ち、休職して治療を受けてきた。これが「メディカルモデル」だ。しかし、メンタルヘルス不調は回復に時間がかかり、また、回復後も再発して再び休職となることが多い。休職による仕事の中断は、当事者に大きな心理的不安を与えると宮城氏は語る。

「キャリアを中断すると挫折感が強くなり、復職してもそこからどうキャリアを形成していけばよいのか、不安や葛藤が起こってしまいます。焦りから中途半端に復職して再び休職となれば、『あの人には大事な仕事は任せられない』とマイナスのレッテルを貼られてしまうこともあります」

そこで「メディカルモデル」に、キャリアを支援する「キャリアサポートモデル」を加えて、両面から統合的支援を行うことが重要になる。また、キャリア支援は、メンタルヘルス不調の予防にもつながる。

メンタルヘルス不調の陰には、どんなキャリアストレスがあるのだろうか。キャリアにはワークキャリア(働き方)とライフキャリア(生き方)の二つがある。ワークでのストレスを例に挙げると「担当業務が合わない」「業務過多でこなせない」「マネジメントができない」「人間関係がうまくいかない」「昇格できない」「ワークライフバランスがうまくとれない」「復職で閑職になり、やりがいが持てない」「将来が見えない」など。

「一人で問題を抱え込むことで、メンタルヘルス不調を招きます。産業カウンセリングの分野では、80%が人間関係の悩みというデータもあります。ストレスをなくすには、今後のキャリア形成に見通しをつけ、将来のキャリアに対する不安、焦りを少しでも軽減することが必要です」

パネルセッションの様子ここで活用したいのが、キャリア相談室だ。メンタル相談室と比べると、プラスイメージで気軽に訪ねやすく、仕事に関わることなら何でも相談できる安心感がある。また、キャリアの問題を解決することで意欲やる気の回復につながるなど、多くのメリットがある。

「社員から『2週間以上不眠が続く』といった話があれば、うつの疑いもあるのでメンタルヘルス相談室と連携し、両面での支援を考えるべきです。二つを効果的に連携させれば、多くの症状に対応できます。そこに、職場の上司や人事部、家族といった自分の関係者を連携させると、三方向からベストなサポートを受けることができます」

統合的支援のメリットは「マイナスからゼロにする」ではなく、さらなるプラスを実現できること。メンタルヘルスとキャリア支援との統合効果は、それほどに大きい。

古河電工健康保険組合の事例:カウンセリングで事務所を立て直し

古河電工健康保険組合は、母体企業の古河電工と、健保適用事業所に対し、1996年からハートケアルームを立ち上げ、従業員とその家族の相談業務を行っている。産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの伊藤氏が担当し、対面相談、メール相談、電話相談が可能だという。「以前はメンタルヘルスに関する相談が多かったのですが、ここ数年はキャリア相談が増えています。これまでのメンタルヘルス相談も、根底にはキャリアの悩みを抱えていることが多くありました」

伊藤美季氏 講演photo伊藤氏は、退職者、休職者が続き、モチベーションが低下した事業所の例を紹介した。その事業者では、26名中4名がメンタル疾患を発症したという。「発生直後に人事担当部門長から依頼があり、役員と管理職に介入の必要性を説明して、全員にアンケートを実施しました。その後、一人30分程度の個別面談を行い、次に役員・管理職へのメンタルヘルスの基礎教育、役員・管理職へのラインケアを行いました。その後は経過確認のため、1年後に再度アンケートを取っています」

最初のアンケートからは職業的ストレス、心理的ストレス、役割葛藤、役割あいまい感の4因子が、業務上のヒューマンエラーに直に結び付き、仕事の質を下げていることがわかった。また、その背景を探る個別面談では、長時間労働、技術や専門性の変化・仕事の難度、職場内やユーザーの人間関係、ロールモデルがいない不安などが問題点として挙げられた。

「前後のアンケートを比較すると、短期間の介入でも業務に改善が見られました。早い時期に介入することが、業務へのモチベーションの早期回復、心身の疾病の予防にも寄与できると思われます」

伊藤氏はこれまでの相談ケースから、メンタル不調にはワークキャリアやライフキャリアの問題が多いことを強調する。「早期にキャリア相談による支援を受けることができれば、メンタル不調の防止にも十分役立ちます。今後はキャリア支援との統合をどのように行うか、検討していきたいと思います」

三菱東京UFJ銀行の事例:キャリア教育の普及と健康相談室との連携

三菱東京UFJ銀行では、2006年銀行統合とほぼ同時にキャリア相談室を立ちあげ、社員からの相談業務を行っている。来談を待つだけではなく、接触チャンネルを増やしながら積極的に働きかけているという西澤氏は、活動の状況についてこう語る。「階層別研修で自律的キャリア形成の講義を行い、毎月『キャリア相談室だより』を発行してメッセージを発信するなどして相談室の認知を図っています。各地の支店でも、全員出席のキャリア座談会という勉強会を開いています」

加えて、研修機会の少ない行員には「キャリア開発ワークショップ」をまる一日かけて実施。自己理解や仕事の悩みの話し合い、ライフキャリアの整理、今後の行動計画作成を行う。研修後には、フォローのための個別キャリアカウンセリングを行うという。

西澤肇氏 講演photoメンタルヘルスとキャリア支援の統合については、相談開始後に連携の必要を感じ、健康相談室へ積極的な働きかけを始めた。「いざ相談を受け始めると、キャリアがらみでメンタル不調になったケースや、メンタル不調からの復調期に焦りが出て悩むケースが複数ありました。そこで連携が必要だと感じ、健康相談室の責任者、ドクター、臨床心理士(カウンセラー)に、キャリア相談室の機能について説明し、理解してもらいました。健康相談室関係者には勉強会も実施。信頼関係の構築に努めています」

若手からの相談で「仕事が覚えられない」「人間関係がつくれない」といったケースがあるとわかれば、キャリア相談室でジョブコーチやコミュニケーションの訓練も実施。すると健康面が改善し、相談に行かなくてもよくなったケースが複数あるという。

また、メンタル不調からの復調期サポートでは、ケースバイケースの対応を心がけている。「復帰時は通常まだ7~8割の状態。当行では、残業なしや時短勤務などの配慮もしています。また、復帰時は元の職場に戻すのが通常ですが、症状によっては少し仕事が楽なところで様子を見ることもあります。その時は将来のキャリアについて焦りが出ることもあるので、今を出発点に新たなキャリアを考えるカウンセリングも行っています」

西澤氏は「研修はマクロ・概論的になるが、カウンセリングは個に寄り添うことができる」と語る。個人に合わせたサポートを常に目指している。

キャリア支援に「うれしかった」「元気をもらえた」の声

後半は、宮城氏、西澤氏、伊藤氏によるディスカッションが行われた。

宮城:伊藤さんのお話の中に「ヒューマンエラーに関わる4因子」とありましたが、詳しく教えてください。

伊藤:職業的ストレスは、仕事の質や成果への問題意識です。今は目標を達成しないと評価されないので、自らモチベーションを上げて仕事をしていかないといけない。上がらないと、やる気をなくして葛藤する。これが心理的ストレスになります。役割葛藤、役割あいまい感が強い人は、プレイングマネジャーの部下に多いですね。業務に追われ、上司としてのパフォーマンス機能もメンテナンス機能も十分発揮できない。上司自身も部下のメンテナンスに悩む人が多くなっています。

宮城:西澤さんにお聞きします。キャリア相談では異動を希望される方もいらっしゃると思いますが、そのときはどう対処されますか。

西澤:私は「希望表明3点セット」と言っていますが、三つの視点で考えてもらうようにします。一つ目は希望の確かさ。上司や人事が納得する内容かということです。二つ目は希望の根拠裏付け。今の仕事を一生懸命やっているか、希望に関する自己啓発を行っているかを聞きます。三つ目は上司の理解、応援があるか。この3点で話をすると、自分としての行動テーマを考えてくれますね。

宮城:西澤さんはキャリア開発ワークショップを行われていますが、研修後にはどのような反応がありますか。

西澤:一定期間後に個別面談を行いますが、そこでは「やってもらえてうれしかった」「研修で元気をもらえた」など、想像していたよりポジティブな反応が多くあります。面談では、研修の理解度や本人がどう向き合ってくれたかを確認し、当面の行動計画を話し合います。ここで出てくる話は本当にさまざまで、仕事・自己啓発もあれば、介護などライフキャリアの問題もあります。一人ひとりに向き合う機会を提供することで、喜んでもらっています。

宮城まり子氏 講演photo宮城氏は、海外における最近のメンタルヘルスの傾向も紹介した。「最近は、健康問題以外の領域に踏み込み、改善する動きが出ています。例えば、企業の経営方針や人事評価制度、企業風土といったものです。ここで注意すべきポイントが二つ。一つ目は組織の公正性。これが低いと1.4~1.5倍うつになりやすい研究結果があります。二つ目は職場のソーシャルキャピタル(社会関係資本)。これは職場での信頼感、相互理解、助け合いのことで、低いと1.2~1.9倍うつになりやすい。これらは職場の一体感を醸成し、うつを予防します」

さまざまな切り口から、メンタルヘルスとキャリア支援の統合について考えた、今回のパネルセッション。「キャリア支援は人を動機づけ、自己効力感を育て強化します。ワークエンゲージメントで社員活性化を図り、今後もポジティブ・メンタルヘルスケアを目指すべきです」という言葉で、宮城氏はセッションを締めくくった。

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