セクハラ被害の実態(データ、実例、影響)
セクハラ(性的な嫌がらせ)の発生件数は増加傾向にあります。セクハラを受けたという相談も相当数あり、潜在的なセクハラの被害は非常に大きいと言えるでしょう。
「周囲が見て見ぬふりをしていること」「セクハラ被害を受けていると言い出せない環境であること」が、セクハラをさらに深刻化させます。そうした状況を放置すれば、従業員への直接的な被害はもちろん、レピュテーションリスクや倒産といった企業全体の問題に発展しかねません。
セクハラ被害の推移データ
法務省の「平成31年及び令和元年における『人権侵犯事件』の状況について(概要)」によると、セクハラの件数は、過去5年間で以下のとおり推移しています。
平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | 平成30年 | 平成31年・ 令和元年 |
|
---|---|---|---|---|---|
セクハラの 件数 |
336件 | 335件 | 303件 | 410件 | 445件 |
引用:平成31年及び令和元年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)|法務省
過去5年間だけの推移を見ても、セクハラの件数は増加傾向にあることがわかります。上記は実際にセクハラだと認められた件数で、社会全体ではさらに多くのセクハラが発生していると見込まれます。
「令和元年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」によると、過去3年間でのセクハラの相談件数は、以下のとおりです。
平成29年 | 平成30年 | 令和元年度 | |
---|---|---|---|
セクハラの相談件数 | 6,808件 | 7,639件 | 7,323件 |
引用:令和元年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況(p. 2)|厚生労働省
実際に認められているセクハラの件数を、はるかに上回る相談が寄せられていることがわかります。
セクハラが発生しやすい環境とは
セクハラを防止するためには、どのような環境で発生しやすいかを理解しておくことも重要です。環境が事件発生に大きな影響を及ぼした、2件の事例を見ていきましょう。
事件に関与した人物 | 男性副市長(当時)、20代の女性職員、女性職員の上司 |
---|---|
事件内容 | 仕事の打ち上げで訪れたカラオケ店で、副市長が女性職員の肩に手を回すなどのセクハラ行為を行った。同席していた女性職員の上司は見て見ぬふりをしており、女性職員は、精神的ショックにより療養休暇に入ることになった。 |
処分内容 | 男性副市長は解職、セクハラを黙認して部下を守れなかったことから女性職員の上司には戒告の懲戒処分が下った。 |
- 【参照】
- 兵庫県川西市、副市長を解職 20代女性職員にセクハラ|朝日新聞デジタル
事件に関与した人物 | 出版社の編集長、部下の女性従業員、専務 |
---|---|
事件内容 | 出版社の編集長が、不仲であった部下の女性従業員の異性関係に関するうわさを、社内外の関係者に流した。意図的に女性従業員の評価を低下させた編集長の行為により、女性従業員は退職を余儀なくされた。 |
処分内容 | 女性従業員の異性関係に関する非難が、社内外の評価を下げる原因となったことから、編集長の行為は不法行為とされた。また、職場環境の改善を図らなかった専務の責任も問われ、編集長と会社に対して損害賠償が求められた。 |
上記二つの事例では、「周囲が見て見ぬふりをしていること」「セクハラ被害を受けていると言えない環境であること」などが、セクハラ発生の要因となっています。
セクハラが起こりにくい環境を整備するには、罰則規定を設けるなど、企業としてセクハラ防止に注力していることを周知すること、また、相談窓口を設けるなど、従業員がいつでも相談しやすい環境をつくることが重要です。
セクハラが招く影響
セクハラは、被害を受けた従業員の心身不調、企業に対する賠償責任の発生など、さまざまな影響を招きます。以下は、セクハラを受けた従業員がうつ病を発症した事例です。
事件に関与した人物 | 新卒入社の独身の女性従業員(22歳) 女性従業員の指導係を務めていた既婚の男性従業員(30代) |
---|---|
事件内容 | 女性従業員は、男性従業員からの食事の誘いに軽い気持ちで付いて行ったことを発端に、頻繁に食事に誘われるようになった。良くないことだと思い、断るようにしていたが、男性が自分の指導係であったことが影響し、食事に付き合うこともあった。食事の際には、キスをされたり、暗がりで抱きしめられたりと、次第にセクハラ行為を受けるようになる。女性従業員は寝付けなくなり、食欲も低下。欠勤が1週間続くようになり、医師からは「うつ病」と診断された。 |
処分内容 | 女性従業員は、友人からの助言で人事部門に相談。男性従業員には出勤停止5日間の懲戒処分と配置転換が言い渡された。 |
- 【参照】
- 〔事例5-1〕セクハラ(セクシュアル・ハラスメント~性的嫌がらせ)からうつ病になった事例|こころの耳 厚生労働省
この事例では、女性従業員が人事部門に相談することで、さらなる被害を食い止めることができました。しかし、セクハラを放っておいた場合、女性従業員の不調はどんどん悪化し、裁判になっていた可能性も十分に考えられます。
従業員がセクハラを受けていることを言い出せないケースは多くあります。従業員の心身に不調が起きてから対応するのでは、従業員の安全を守れているとはいえません。損害賠償額が大きい場合、経営にも影響するでしょう。企業の評判が落ち、倒産につながる可能性もあります。
取引先、顧客からの社外セクハラも
セクハラは、取引先や顧客などの社外の人物が原因となるケースもあります。事例として、「イビデン(旧イビデン建装)事件)」を紹介します。事件の詳細は、以下のとおりです。
事件に関与した人物 | ある企業で働いていた女性 同グループの別の子会社で働いていた男性 |
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事件内容 | 男性と女性は、もともと交際していたが、次第に疎遠となり女性のほうから交際を解消した。しかし、別れた後も男性は諦め切れず、付きまといなどのストーカー行為を繰り返した。 |
その後の状況 | 高等裁判所では、男性本人および男性の所属会社だけでなく、親会社に対しても安全配慮義務違反があったと認定。しかし、最高裁判所の判決で親会社の責任は否定された。 |
この事例では、高等裁判所で親会社の責任が認められたものの、最高裁判所では否定されました。しかし、親会社に対する責任が争点になっていることに注目する必要があります。セクハラは、従業員本人や所属会社だけでなく、親会社にまで責任が及ぶ可能性があります。
従業員が社外の人からセクハラを受けている場合、相手の企業の担当者と協議し、問題のある人物に処分を下すことになるでしょう。ただし、相手の企業の人事部門が機能していない場合や事件を大ごとにしたくない場合は、取り合ってもらえない可能性もあります。その場合は弁護士などの専門家に相談し、対応する必要があります。
こちらの記事では、社内と社外のセクハラについて詳しく解説しています。
「社外からの社外への」×「セクハラ パワハラ」対応策|日本の人事部
「セクハラ」について深く知る記事一覧
セクハラ
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セクハラの罰則や懲戒処分
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